管理人のイエイリです。
6月23日~25日まで、米国ロサンゼルスの南カリフォルニア大学で、米国土木学会(ASCE)のIWCCE(International Workshop on Computing in Civil Engineering)という土木分野でのIT活用に関するワークショップが開かれています。
先週、取材したAIA(アメリカ建築家協会)は実務者が多いのに対し、IWCCEは研究者が主体です。そのため、まだ実用化に至っていない分、ユニークで面白いBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)関係の研究があちこちに転がっています。
南カリフォルニア大学のキャンパス(写真:家入龍太。以下同じ) | |||
IWCEEの開会あいさつをする実行委員長のイオニス・ブリラキス(Ioannis Brilakis)氏(英国ケンブリッジ大学)(左)。基調講演を聴く約140人の参加者(右) |
例えば、今日(米国時間6月24日)に聴いた講演で面白かったのは、イリノイ大学のノラ・エルゴハリー(Nora El-Gohary)助教と、大学院生のジャンソン・ツァン(Jiansong Zhang)さんの建設分野における適法性の自動チェックに関する研究です。
ナ、ナ、ナ、ナント、
設計基準をパソコンに読解
させるというものです。
人間が読むために文書化された設計基準を生のままパソコンに読み込ませて、位置関係や寸法、個数などを理解させ、BIMで設計した建物が設計基準に合っているかどうかをチェックするためのルールを自動作成するというものです。
現在、BIM用の設計チェックソフト「Solibri Model Checker」などでは設計のチェックルールを人間が入力しています。そこで、この技術が実用化されると、テキスト化した設計基準をパソコンに読み込ませるだけでよくなるのです。
現在、96%くらいの“正答率”で解読できるそうです。早く実現してほしいですね。
発表するイリノイ大学のノラ・エルゴハリー助教と、大学院生のジャンソン・ツァンさん(左)。生の設計基準をパソコンに読解させ、設計チェック用のルールを自動作成する(右) |
3Dレーザースキャナーによる点群データの処理で面倒なのは、建物や構造物のまわりから数カ所で計測したデータを正確に位置合わせしながら一つにまとめる作業です。
通常はターゲットというものを現場周辺に置いて、それを手かがりに点群データ同士の位置合わせを行っています。
そこで、ネブラスカ大学の大学院生、メンメン・ガイ(Mengmeng Gai)さんは、点群データと同時に撮影した高画質のデジタル画像を処理することで、ターゲットの代わりに周囲の風景を手かがりに自動的に点群データの合成を行うシステムを発表しました。
実験の結果、位置のずれは最大で79mm、角度は最大で2.5度のずれがあったそうですが、合成にかかる時間はわずか2.5秒と圧倒的に短くなりました。今後の精度向上が期待されますね。
発表するネブラスカ大学の大学院生、メンメン・ガイさん(左)。ターゲットを使わず、デジタル写真の画像処理で点群データを自動合成する(右) |
今回の発表で目立ったのは、建設労働者の安全性に関する研究です。ソウル国立大学の研究者、ビュンジョー・チョイ(Byungjoo Choi)さんは、高所からの墜落や飛来物による負傷など、建設現場でよく起こる労働災害の原因を分析し、データベース化しました。
そして、現場のBIMモデルにこのデータベースを当てはめることで、どこでどんな労働災害が起こりやすいのかを自動的に割り出すシステムを開発したのです。
建設現場は、現場ごとに条件が異なりますが、このシステムを使うと一発で危険予知ができるそうです。
ソウル国立大学の研究者、ビュンジョー・チョイさん(左)。BIMモデルから危険予知を自動的に行う(右) |
面白いのはミシガン大学の研究者です。「3D SSPP」というソフトを使って、建設労働者の体をモデル化し、作業時に発生する応力を解析していました。
例えば、重いものを持ち上げる時に、前かがみになって持ち上げようとすると腰を痛めるとよく言います。
実際、前かがみ(Stoop Lifting)と背筋を伸ばした姿勢(Squat Lifting)でものを持ち上げるときの背骨にかかる圧縮力を解析したところ、
ナ、ナ、ナ、ナント、
前かがみは応力が大きい
という結果が出たのです。
工事現場での悪い作業姿勢による事故は、経験によって防ぐという感じでしたが、この人体モデル使って作業姿勢を解析することにより、より安全な施工ができる設計に結びつけることができそうです。
3D SSPPというソフトで人体の応力解析を行ったミシガン大学の研究者(左)。姿勢の違いによる背骨の圧縮力の違い(右) |
今回のIWCCEでは、大学院の学生も多く発表していました。その多くは中国や台湾、韓国などのアジア系学生です。
彼らは一生懸命英語で講演し、質疑応答にも堂々と答えていました。日本人の学生が見あたらなかったのは少し残念です。