管理人のイエイリです。
2021年に静岡県熱海市で発生した盛土崩壊・土石流災害は、一般の人にも盛土管理がいかに重要であるかという認識を広めました。
その後、国土交通省は2023年に盛土規制法を改正し、盛土工事のプロセスを確認する「トレーサビリティー」の管理が求められるようになりました。
この法改正に、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の視点で応えたのが、清水建設とEARTHBRAIN(本社:東京都港区)が共同開発した「Shimz Smart Earthwork Logs(以下、SSEL)」というシステムです。
完成した盛土を「ボクセル」という小さな“粒”に分け、それぞれに、
ナ、ナ、ナ、ナント、
土砂の搬出から転圧
に至るまでのデータを注入し、あとから施工記録のすべてをたどれるようにしたのです。(清水建設のプレスリリースはこちら)
これまでの盛土施工管理は週報、月報、完了時の報告書などの紙ベースで行われており、作成に大きな手間ひまがかかっています。また、施工中や竣工後に書類の確認頻度が高く、書類の検索に手間がかかり非生産的になっています。
そこでSSELでは、盛土工事のトレーサビリティー管理に必要なデータを自動取得し、盛土の3次元モデルと紐づけて蓄積・整理する仕組みを採用しました。
具体的には、土砂の搬出現場では、土質試験の結果や土砂の積み込み建機、積み込み位置・日時などのデータ。受入現場では、運搬車両や受け入れ日時から、荷降ろし位置、敷ならし建機・範囲・まき出し厚さ、転圧建機・回数に至るまで多岐に及びます。
これにより、盛土工事の全プロセスが「見える化」され、品質を証明するトレーサビリティーを確保できます。
これだけの膨大なデータを収集・記録する作業は、気が遠くなりそうですが、SSELは
確立されたシステム
を組み合わせただけなので、大がかりな開発は不要です。
例えば、搬出現場では市販のIoTデバイス搭載の土砂積み込み建機と運搬車両、受け入れ現場では市販のICTブルドーザーと転圧ローラー、施工データをクラウドに送信し、一元管理するデジタルプラットフォームを使うといった具合です。
建設ITワールド的に言えば、既存の技術を組み合わせて「無開発、低コスト、短工期」で導入する“チョイスエンジニアリング”(造語)のメリットをフルに発揮したものと言えそうです。
蓄積されるデータ量は膨大ですが、盛土の3次元モデルから必要な施工情報にアクセスできるので、施工時や維持管理時の作業効率が飛躍的に向上します。
盛土規制法の改正で、法律やガイドラインではここまでの“究極のトレーサビリティー”は求めていませんが、清水建設の取り組みは法が要求する水準を超えた高度な品質管理を提供するものです。
施工プロセスをデータで裏付けることは、建設業界や土木工事の信頼性向上やイメージアップにも直結し、建設の「新たな付加価値戦略」を切り開いたともいえるでしょう。
清水建設では現在、SSELをNEXCO西日本発注の新名神高速道路梶原トンネル工事の大規模盛土工事に導入し、成果を確認しました。今後、盛土工事現場にSSELを水平展開していく方針です。






















