管理人のイエイリです。
新菱冷熱工業(本社:東京都新宿区)は、茨城県つくば市に「イノベーションハブ」という研究開発拠点を設けています。
この建物には、天井放射空調や自然換気、昼光利用など、快適性と省エネ性を両立させるための様々な空調・照明技術が導入されています。さらに、外気導入と空調を最適に組み合わせることで、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現にもチャレンジしています。
こうした先進的な建物では、単に「室温が何度か」を見るだけでは不十分です。窓際、吹き抜け、外気の入口、空調の吹出口まわりなど、場所によって温度や気流、CO2濃度は刻々と変わります。
快適性を高めようと空調を強めれば、今度は省エネ性とのバランスが難しくなります。そこで頼りになるのが、空気の流れや温度分布を詳しく解析できるCFD(数値流体力学)です。
しかし、多種類の空調・換気・照明技術が複雑に動く建物で、運転条件を変えるたびにCFD解析を一から回していたのでは、空調制御にはとても間に合いません。
そこで同社とアジアクエスト(本社:東京都文京区)は、
ナ、ナ、ナ、ナント、
2500件ものCFD解析
を実行し、その結果をAIに学習させるという力技で、この壁を突破しました。(アジアクエストのプレスリリースはこちら)
この技術は、BIMを基盤に、AIによるCFD技術を活用して室内環境を可視化・予測する、AI-CFD環境予測デジタルツイン「スマート・エア・ツイン」というものです。
ポイントは、あらかじめ約2500件のCFD解析データを用意し、その結果をCNN(畳み込みニューラル・ネットワーク)モデルに学習させたことです。
季節、時刻、空調条件などを変えたとき、室内の温度や気流がどう分布するのか。その膨大な解析結果を、AIに“空気の流れの学習帳”として覚え込ませたわけです。
スマート・エア・ツインでは、BIMデータによって建物形状を3D表示し、点群データで内装を表現します。そこに、センサーで取得した温度、CO2濃度、PMVなどを空間分布として重ね合わせます。
PMVとは、温度、相対湿度、平均放射温度、気流、着衣量、活動量の6要素から、人が暑い・寒いをどう感じるかを示す温冷感指標です。単なる温度だけでなく、「人にとって快適かどうか」を3D空間上で確認できるのがミソです。
さらに、CFD解析結果に基づく温度や気流も可視化し、アニメーション表示できます。ビーコンによって在室者の位置情報も表示できるため、建物の中で人と空気がどう関係しているのかを、かなり直感的に見られます。
仕組みのイメージは、海外で発生した津波が日本沿岸にどの程度の波高で到達するかを予測するシステムに似ています。津波予測では、あらかじめ多数のシミュレーションを行い、地震発生時に近い条件の結果をすばやく参照します。
スマート・エア・ツインは、その“室内空調版”と考えると分かりやすいかもしれません。時間のかかるCFD解析を前もって多数行い、その結果をAIに学習させることで、季節や時刻、空調条件を変えたときの室内環境を短時間で予測するのです。
その結果、
CFD解析は200倍速
になりました。
これまで時間がかかっていたCFDが、複雑な空調システムのフィードバック制御に利用できるところまで、爆速化されたというわけです。
今後、システムの予測精度の検証や高度化が進めば、1時間後の天気や在室者の位置をもとに、暑くなりそうな場所、CO2濃度が上がりそうな場所を先読みしながら、最もコスパのよい空調を実現するのに役立ちそうですね。
【イエイリの建設DX先読み】
今回のAI-CFDは、1つの建物で約2500件のCFD解析を行い、その結果をAIに学習させるものでした。
しかし将来、世界中の研究機関や企業が持つ貴重なCFD解析結果が、オープンデータや業界共有データとして蓄積されていけば、話は一気に広がります。
生成AIが大量のCFD解析結果を学習すれば、BIMモデルをAIに入力してボタンを押すだけで、温度や気流、CO2濃度の分布をサッと予測してくれる時代が来るかもしれませんね。





















