管理人のイエイリです。
建物の電気設備工事費を概算するとき、設計者に渡されるのは、電気機器や配線がまだ描かれていない「白図」に近い建築計画です。ここから受変電設備や変圧器、各階の分電盤などを配置し、電気を運ぶ幹線ルートを考えて、工事費の根拠を作らなければなりません。
しかも幹線ルートは、単純な最短距離では決められません。部屋の壁や防火区画、上下階を貫く電気設備スペース(EPS)など様々な“障害物”を乗り越え、他設備との関係などを考えながら、ルートを引く必要があります。
白図の状態からここまで持ってくるためには、熟練技術者の経験や勘が必要で、人手不足の今、業務はひっ迫しています。
この問題に挑んだのが、関電工とArent(アレント)です。両社は、電気設備自動設計システム「VOLDAR(ヴォルダー)」を共同開発し、実プロジェクトでの運用を始めました。
受変電設備から各階の配電盤までの幹線ルートを、
ナ、ナ、ナ、ナント、
電気版のカーナビ
のように自動で探してくれるのです。(Arentのプレスリリースはこちら)
最適な配線とは、経路の長さや方向転換の回数・角度を少なくし、部屋の機能や配置済み設備との整合性などを保つことです。そのバランスは、ベテラン設計者の頭の中にありました。
一方、VOLDARでは「コスト」として数値化し、設計条件に応じて重み付けします。不要な防火区画壁の横断を抑え、各階で使うEPSを評価しながら、幹線が過度に分散しない3Dルートを生成します。
自動車のカーナビが、距離だけでなく道路の曲がり方や通行条件も見てルートを提案するように、電気設備設計者の「この経路がよい」という判断基準を、BIM上で再現するわけですね。
使い方は、まず建築BIMモデルから建物や部屋の情報を取得し、用途や負荷条件を加えます。すると、アプリが配電盤、電灯盤、動力盤などを配置し、負荷容量から変圧器容量やバンク構成を選定。受変電設備から各盤までの幹線を3Dでルーティングします。
この幹線データは、種別や仕様、接続元、接続先などの属性情報を持つBIMの設備要素です。さらに、幹線設備平面図や幹線設備系統図、変圧器容量やケーブルラック幅などの技術計算書まで、BIMデータと連動して作成してくれるのです。
さらにコンセントや非常照明、電話、LANなどの配置案にも対応します。特殊な建物形状などは設計者による調整が必要ですが、システムが標準案を作り、人間が確認して仕上げる人機一体型の設計です。
時間短縮の効果も強烈です。白図から概算根拠図を作るには、これまで2~3週間かかっていました。それが、
2~3週間を約1時間
で出力できるようになりました。
単なる作図の高速化だけではなく、電気工事の概算金額を算出するのに必要な図面や計算書までを作ってくれるのです。概算のスピードと説明性を高め、担当者による品質差を抑えられるほか、若手への技術継承にも役立ちそうですね。
現在のVOLDARは、生成AIが自由に設計するシステムではありません。関電工が培った判断基準を数値化・体系化し、ArentがBIM上で動く設計ロジックとして実装したものです。熟練者を置き換えるのではなく、熟練者にしか見えていなかった「よい設計を選ぶ物差し」を組織で共有できるようにしたのです。
関電工は今後2年以内をめどに、一般的な建築物における電気設備基本設計の大部分を自動化することを目指しています。将来は、AIエージェントによる対話型設計支援、AIによる設計検証、電気設備施工BIMや積算システムとの連携も視野に入れています。
【イエイリの建設DX先読み】
VOLDARの面白さは、BIMを「人が作った3Dモデルを見る道具」から、「設計案を生み出すエンジン」へ進化させた点にあります。BIMの自動化により、手作業でありがちな“コピペ地獄”からの解放を実現したほか、属性情報を計算根拠や概算工事費などの算出に生かすビルディング・インフォメーション・マネジメントとして、BIMの本領を発揮させた点にも注目できます。
3~5年後には、設計者が「この階の幹線を別のEPSにまとめたら、工事費はいくら変わる?」と尋ねるだけで、3Dルート、図面、計算書、概算金額がまとめて更新される時代が来るかもしれませんね。





















