攻めのデジタルアーカイブへ! 永楽館と旧根岸競馬場を観光・寄付に活用
2026年9月8日

管理人のイエイリです。

歴史的な建物を後世に残すには、老朽化や耐震性、安全管理、保存費用など多くの課題があります。しかも内部に入れなくなると、建物の魅力そのものを知ってもらう機会も減ってしまいます。

そこで近年は、レーザースキャナーやフォトグラメトリー、360°カメラなどで建物を3D化し、デジタルアーカイブとして残す取り組みが広がってきました。

そんなデジタルアーカイブが、今回は少し違う方向へ進み始めています。

兵庫県豊岡市出石町の芝居小屋「出石永楽館」と、横浜市の「旧根岸競馬場一等馬見所」です。

ナ、ナ、ナ、ナント、

3Dデータで人と資金を呼ぶ

という“攻め”の使い方が見えてきたのです。

3D Gaussian Splattingで再現した出石永楽館の内部(出石永楽館関係の写真、資料:ホロラボ)

3D Gaussian Splattingで再現した出石永楽館の内部(出石永楽館関係の写真、資料:ホロラボ)

まず、出石永楽館を3D化したのはホロラボ(本社:東京都品川区)です。(ホロラボのプレスリリースはこちら)

出石永楽館は1901年に建てられた近畿地方最古の芝居小屋で、廻り舞台や奈落、花道など、明治期の劇場機構が今も残っています。

ホロラボは、地上型レーザースキャナー「Leica RTC360」、ハンドヘルド型レーザースキャナー「XGRIDS Lixel K1」、ミラーレス一眼カメラ「α7RV」を使い、外観から客席、舞台、奈落までを3D化しました。

ハンドヘルド型レーザースキャナー(左)や地上型レーザースキャナー(右)などで出石永楽館を3D計測する様子

ハンドヘルド型レーザースキャナー(左)や地上型レーザースキャナー(右)などで出石永楽館を3D計測する様子

計測した建物の点群データ

計測した建物の点群データ

広い空間はLeica RTC360、狭い奈落や楽屋周辺はXGRIDS Lixel K1で計測し、さらにα7RVで約6000枚の写真を撮影。取得した点群と写真を「RealityScan」で処理し、フォトグラメトリーによる3Dモデルを作りました。

さらに、写実的な空間表現には「3D Gaussian Splatting(3DGS)」を使用。外観は「LCC Studio」、内観は「LichtFeld Studio」で3DGS化しました。

狭い奈落の下も精密に3Dモデル化した

狭い奈落の下も精密に3Dモデル化した

完成した「永楽館VR」は、Stratum1 GmbHのメタバースプラットフォーム「Arrival.Space」で公開されています。専用アプリは不要で、PCやスマートフォンのWebブラウザーから館内を自由に歩けます。

ホロラボは、これを単なる保存ではなく、観光誘客、教育、地域文化の情報発信につなげる「地域社会DX」と位置付け、「バーチャル出石」への展開も視野に入れています。

一方、横浜市の旧根岸競馬場一等馬見所では、クリーク・アンド・リバー社(本社:東京都港区)がデジタルアーカイブ制作に協力しました。(クリーク・アンド・リバー社のプレスリリースはこちら)

旧根岸競馬場一等馬見所は1929年築の鉄骨鉄筋コンクリート造7階建てで、国内で唯一現存する戦前の馬見所建築です。現在は安全上の理由から内部へ入れません。

そこで横浜市とNPO法人 J-heritageは、PR動画、外観の3Dモデル、360°バーチャルツアー、写真集を用意しました。

緑の中にたたずむ旧根岸競馬場一等馬見所(旧根岸競馬場関係の写真、資料:クリーク・アンド・リバー社)

緑の中にたたずむ旧根岸競馬場一等馬見所(旧根岸競馬場関係の写真、資料:クリーク・アンド・リバー社)

外観の3Dモデル

外観の3Dモデル

普段は入れない建物内部もバーチャルで体験できる

普段は入れない建物内部もバーチャルで体験できる

つまり、「入れない建物だから見てもらえない」という弱点を、「入れないからこそバーチャルで入る価値がある」という強みに変えたわけです。

そして、もう一歩踏み込んでいるのが、

攻めのバーチャルアーカイブ

です。

横浜市はデジタルアーカイブの公開とともに、保存・活用を支えるふるさと納税の寄附受け入れを始めました。寄附金は、旧根岸競馬場一等馬見所の耐震化工事などに充てられます。

旧根岸競馬場一等馬見所のデジタルアーカイブサイト

旧根岸競馬場一等馬見所のデジタルアーカイブサイト

横浜市のクラウドファンディングのウェブサイト

横浜市のクラウドファンディングのウェブサイト

従来は、リアル建築を3D化して「残す」ことが主目的でした。今回の2事例では、バーチャル空間で建物の魅力を伝え、観光や寄附を通じてリアルな建物や地域へ価値を戻そうとしています。

リアル建築→デジタル化→バーチャル来訪→観光・寄附→リアル建築、という循環です。

3Dモデルを「保存する成果物」ではなく、「人を呼び、リアルな施設を生かす資産」として使う発想と言えそうです。

【イエイリの建設DX先読み】

サグラダ・ファミリアは、建設途中のリアルな建物に観光客を呼び、その入場料などを建設資金につなげてきました。これをバーチャル空間に広げれば、歴史建築の「デジタル分身」が、自らの保存費を稼ぐ仕組みも考えられます。

例えば、有料の特別VRツアー、修復工事の見学コンテンツ、3D空間から直接参加できるクラウドファンディング、建物ごとのVRを集めた月額サービスなどです。

「守るためのデジタル化」から「攻めるためのデジタル化」へ。リアルな建物が閉まっている間も、そのデジタル分身が世界中から来訪者を集め、本物の建物を支える。そんな時代がやって来るのかもしれません。

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