LOD400のCIMモデルで橋梁下部工の施工管理! MRやAIによる配筋検査で建設DXを実感(日本国土開発)
2021年9月22日

日本国土開発は山口県下関市内で施工中の橋梁下部工工事の施工管理に、詳細なCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)モデルを活用している。その活用範囲は、施工計画の検討からMR(複合現実)を活用した配筋作業や出来型検査、さらには後工程のためのデータ入力まで幅広い。また、配筋検査ではAI(人工知能)を使った計測システムも活用した。これまでトンネルや震災復興道路、橋梁構造物などの公共工事に加え、太陽光発電施設などの現場で実践してきた日本国土開発の建設DX(デジタルトランスフォーメーション)活用は、さらに高度に進化した。

鉄筋のCIMモデルをMRソフトに取り込み、実際の鉄筋と設計モデルを現場で比較する出来形検査

   LOD400の詳細CIMモデルを現場で活用

日本国土開発は、山口県下関市内で施工中の俵山・豊田道路粟野川橋下部他工事で、CIMモデルを施工管理業務に幅広く活用している。そのLOD(詳細度)は、鉄筋1本1本までが3Dで配置された「400」という精密さだ。

国土交通省中国地方整備局山陰西部国道事務所が発注したこの工事は、受注者希望型のCIM活用工事だ。日本国土開発では、「施工段階におけるCIMモデルの効率的な活用」など、5項目についてCIMモデルを利用した施工管理業務を行っている。

「2次元の発注図面を設計者とは別のコンサルタントが詳細なCIMモデルを作成し、そのモデルを現場での施工計画や施工管理に使っています。3Dで完成形を確認しながら、施工上の問題点を事前に検討し、設計変更などで解決する『フロントローディング』に役立っています」と、日本国土開発土木事業本部EPC室グループリーダーの藤盛敦氏は説明する。

橋台の詳細なCIMモデル(上)と現場での施工状況(下)

LOD400のCIMモデルに入力された鉄筋部分。鉄筋径や材質、重量などの属性データが1本1本に付与されている

   MRを活用し協力会社と配筋作業の打ち合わせ

施工段階でのCIM活用として、特に力をいれたのは鉄筋の配筋作業だ。膨大な数の鉄筋を設計通りに配置する作業や、コンクリート打設前の確認作業と、その記録は施工者にとってこれまでも大きな負担となっていた。

そこでこの現場では、CIMモデルを現場に持ち出して、施工状況と照らし合わせながら活用するため、MRシステムを導入した。

MRとは現実の現場風景と同じ大きさ、角度でCIMモデルを重ね合わせて見られるシステムだ。この現場では、ホロラボ(本社:東京都品川区)が開発し、SB
C&S(本社:東京都港区)が販売する「mixpace(ミクスペース)」を導入した。

現場の鉄筋とCIMモデルを重ねて見られる「mixpace」

「CIMモデルをmixpaceでMR用に変換し、タブレット端末の画面を通して現場の鉄筋を見ます。すると実物の鉄筋と、鉄筋のCIMモデルが重なって見えるので、配筋が設計通りでないところは一目でわかります」と、粟野川下部工作業所の監理技術者、高橋亨氏はその効果を説明する。

これまでの2D図面を使った配筋作業には、「鉄筋の位置がわかりにくい」「図面の読み間違いが発生しやすい」「密配筋部の鉄筋の間隔がわかりにくい」といった問題があった。

「その点、mixpaceは原点にARマーカーを置いて位置合わせが行えるので、配筋の位置を現場で示せるほか、CIMモデルの鉄筋を径ごとに色分けすることで鉄筋の取り違えがなくなります。また、3次元的に鉄筋のあきも確認することができます」(高橋氏)。

MRでの配筋施工管理のもととなった詳細なCIMモデル

現場とCIMモデルの位置合わせを行うためのARマーカー(左)。このマーカーが原点となるので、MRアプリではまず、このマーカーを認識させる(右)

MRアプリ「mixpace」を配筋に向けると、設計CIMモデルが実物の鉄筋に重なって色分け表示されるため、設計通りに配筋されているかが一目瞭然だ

CIMモデル上の鉄筋を1本選ぶと水色に変わり、その属性情報のデータが右側に表示される

基礎ができたばかりの現場で配筋のCIMモデルを見ると、完成時の大きさや形状がその場で想像できる

mixpaceは配筋作業時の鉄筋位置を確認するガイダンスや、コンクリート打設前の鉄筋検査に活用したほか、配筋作業を行う協力会社との打ち合わせでも効果を発揮した。

「鉄筋の立体的な交差が可視化されるので、協力会社との打ち合わせでもわかりやすく、安全な施工方法を短時間で計画できました」と高橋氏は言う。

   AIで鉄筋の径やピッチを自動計測

配筋作業とコンクリート打設の短い期間には、配筋が設計通りに行われているかの出来形検査を行う必要がある。これまではメジャーを鉄筋に当てたり、ノギスで径を測ったりしながら、写真と図面で記録するという煩雑な作業方法だった。

そのため鉄筋に写真撮影の目印となるマーカーやリボンロッドを設置する作業などで、施工管理者の負担が大きく、作業者によって計測値に誤差が出る。さらにマーカーやノギスなどを型枠内に落としたときは、拾い上げるのに手間がかかることもあった。

従来のメジャーテープによるアナログな計測は、手間ひまがかかり作業者によって計測値に誤差がでることもあった

そこで導入したのが、三菱電機のAI配筋検査システムだ。2つのレンズを備えたタブレットパソコンで配筋部分を撮影すると、AIが一番手前の鉄筋だけを認識して鉄筋径や鉄筋のピッチをデジタル表示してくれるのだ。

「これまでのように鉄筋にメジャーを沿わせて計測する必要がなく、離れたところから1人で計測できるので、大幅な省人化と時間短縮が図れます」と、土木事業本部EPC室 辻本光氏は説明する。

デジタル化された配筋のデータは、自動的に帳票としてまとめられるので、これまでのように夕方、現場事務所に戻って紙にメモしたデータを帳票に転記する作業からも解放される。

AI配筋検査システムで使われるタブレットパソコン。裏面には2つレンズが付いており、ステレオ写真を撮影する

撮影から十数秒後には鉄筋の径やピッチがデジタル数値としてデータ化・表示される

鉄筋径やピッチの計測結果が、電子小黒板のデータとともにデジタル化され、帳票が自動作成される

システムで自動作成された配筋検査の帳票

   建設DXの実践がさらに高度化

今回、日本国土開発は配筋作業の計画や施工、出来形管理にMRやAIを導入したことで、それぞれのシステム活用による生産性向上や安全性向上などのメリットを現場で実感することができた。

ただ、今後の課題も浮き彫りになった。MRはCIMモデルとの連携や、現場での位置情報の取得が可能で、複雑な配筋を設計と現場とで比較することは可能である半面、鉄筋径やピッチといったミリ単位のデータを取得することはできなかった。

一方、AIによる配筋検査は、MRでできなかったミリ単位の計測を行い、デジタルデータとして出力できる半面、CIMモデルと連携して位置情報を取得することができなかった。

それぞれ別々のシステムを導入した結果、タブレットも2台必要となり、両者の結果を統合することにも課題が残った。

現場事務所でCIMソフトを活用する技術者

CIMモデルを使った現場事務所での打ち合わせ。CIMを幅広い施工管理業務に使った結果、さらに高度な建設DX実現への道も見えてきた

そこで、今後はMRによる配筋の施工管理とAIによる配筋検査を一体化することで、1台の端末でさらなる業務の一元化と効率化が図れる可能性が開けてきたのだ。

最近は高精度で点群計測が可能なスマートフォンやタブレット端末、MRゴーグルなども市販されているため、そう遠くない将来にも両方の機能を1台の端末で実現できそうだ。

このほか、日本国土開発の取組で感じられたのは、後工程を担う企業や役所の担当者に対する“思いやりのCIM”だ。今回、作成したCIMモデルの属性情報には、鉄筋の材質や重量などのデータを入力してある。

これは将来、この橋を維持管理したり、改修したりする担当者は、事前協議や引継書などを見るよりも、完成時のCIMモデルの属性情報を直接見た方が、より詳細に橋の状況がわかり、未来の仕事を省力化するために、データを仕込む“思いやりのCIM”と言ってもいいでしょう。

粟野川の下部工現場では、CIM関係以外にも「N値」と言われる地盤の硬さを調べる標準貫入試験や土質の推定を圧入施工中にリアルタイム計測し,地盤情報を可視化できる「PPTシステム」や、ICT建機を使って地盤改良を行う「中層地盤改良ガイダンスシステム」、さらに発注者の立会検査をオンライン化する「遠隔臨場システム」なども積極的に導入し、生産性向上や省人化への取り組みを行っている。

地盤情報と施工状態を判断し自動運転を行う「PPTシステム」(左)や、ICT建機による「中層地盤改良ガイダンスシステム」(右)なども積極的に活用し、生産性向上に努めている

日本国土開発では、2014年度発注のトンネル工事からCIMを先駆けて積極的に導入し、これまでトンネルや震災復興道路、橋梁構造物などの公共工事に加え、太陽光発電における日影シミュレーションやパネルの干渉確認など、多様な工事に展開してきた。

また、CIMを様々なICTシステムと連携させながら、起工測量から完成まで一貫した施工管理を行うなど、建設DXについても早い段階から実践してきた。粟野川橋下部工の現場で、日本国土開発の技術者は、さらに高度な建設DXへの道を歩み出したようだ。

CIMを軸に現場の生産性向上に取り組む日本国土開発の技術者たち

【問い合わせ】
日本国土開発株式会社

東京都港区赤坂4丁目9番9号
ホームページ:https://www.n-kokudo.co.jp/
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