三重河川国道事務所がArcGISで3D河川管内図を構築! 維持管理に必要な情報を一元管理(ESRIジャパン)
2024年10月21日

国土交通省 中部地方整備局 三重河川国道事務所は、ESRIジャパンのGIS(地理情報システム)「ArcGIS」を活用し、河川管理の情報をクラウド上で一元管理する「3D河川管内図システム」を構築した。従来の紙図面による管内図に比べて、必要な情報をすぐに探し出して問題の分析や対策を行える。また、ビジュアルなハザードマップは誰にでもわかりやすく、小中学校での防災教育などにも生かせそうだ。

「ArcGIS Enterprise」をベースに構築した三重河川国道事務所の「3D河川管内図システム」。3Dモデル化した地形や河川構造物に、維持管理情報やハザードマップなど、河川管理情報をビジュアルに一元管理できる

「ArcGIS Enterprise」をベースに構築した三重河川国道事務所の「3D河川管内図システム」。3Dモデル化した地形や河川構造物に、維持管理情報やハザードマップなど、河川管理情報をビジュアルに一元管理できる

 ビジュアルでわかりやすい3D河川管内図

「3D河川管内図システムは、河川管理に必要な情報をビジュアルにまとめてあるので、河川の現状がわかりやすく、業務に必要な情報をすぐに探し出せます。そのため、工事や維持管理などを行う際、検討や対策がスピーディーに行えるようになりました」と、国土交通省 中部地方整備局 三重河川国道事務所の流域治水課課長、岩田孝治氏は語る。

従来の河川管内図は、河川管理の基本となる資料で、2万5000分の1縮尺の地図上に、管理対象となる河川について地形や河川区域、堰や樋門といった主要な河川構造物などを記入したものだった。

紙のサイズが大きく、記載できる情報にも限りがある。そのため、他の紙資料とともに机上に広げて検討する際に、大きなスペースを必要とし、課題解決に必要な情報を集約するのに時間と手間がかかっていた。

従来の紙ベースによる鈴鹿川管内図の例。2万5000分の1縮尺のため、サイズが大きく、記載できる情報にも限りがあった

従来の紙ベースによる鈴鹿川管内図の例。2万5000分の1縮尺のため、サイズが大きく、記載できる情報にも限りがあった

一方、3D河川管内図とは、紙の地図の代わりに3DのGIS(地理情報システム)を使って作成した河川管内図だ。堤防や河道、河川構造物などを3Dデータ化し、まるで航空写真を見ているかのように河川をビジュアルに表現できる。

さらに、これまで別の資料として管理されてきた河川構造物の台帳や、維持管理のデータ、各種図面、そしてハザードマップや環境保全関係の情報などを、GISにリンクさせてワンクリックで河川管理業務に必要な情報に、アクセスできるのだ。

河川管内図システムを活用する三重河川国道事務所の職員

河川管内図システムを活用する三重河川国道事務所の職員

3D河川管内図の活用による業務の効率化イメージ

3D河川管内図の活用による業務の効率化イメージ

3D河川管内図の利活用イメージ(将来像)。地形や河道、河川構造物などが3Dデータ化され、河川管理に必要な様々な情報が管内図の各部にリンクされ、すぐにアクセスできる

3D河川管内図の利活用イメージ(将来像)。地形や河道、河川構造物などが3Dデータ化され、河川管理に必要な様々な情報が管内図の各部にリンクされ、すぐにアクセスできる

 4水系の3D河川管内図を整備

国土交通省は2020年12月、国土強靭化施策の一環として、2025年度までに全国109水系で3D河川管内図を整備する方針を決定した。

この方針に基づき、三重河川国道事務所は早くも2021年度に鈴鹿川、雲出(くもず)川、宮川の各水系、2022年度に櫛田(くしだ)川水系をそれぞれ対象とした3D河川管内図を、建設コンサルタントの日本工営(本社:東京都千代田区)が受注して開発した。

「当事務所には新しいものに積極的に取り組む『先取り』の風土があります。管理する水系の管理区間も20kmから40kmと、比較的コンパクトなサイズなので3D河川管内図も早期に開発しました」(岩田氏)。

ベースとしたGISシステムは、ESRIジャパン(本社:東京都千代田区)の「ArcGIS Enterprise」だ。これに、航空レーザー計測による3D地形データや、真上から河川を見下ろしたオルソ画像、河川構造物の3Dモデル、さらにはハザードマップや希少生物の分布まで、様々なデータをひもづけた。

(注)下記画像はあくまでもイメージです。画像内のデータは現在の3D河川管内図には搭載されておりません。

ドローンによるレーザー測量(左)や写真測量(右)によって計測された点群データの例

ドローンによるレーザー測量(左)や写真測量(右)によって計測された点群データの例

iPhoneのLiDARによって構造物の細部を計測した点群の例

iPhoneのLiDARによって構造物の細部を計測した点群の例

 必要なデータをスピーディーに閲覧・検索

3D河川管内図には「閲覧機能」「GIS機能」「検索機能」を設け、各種データを有効活用しやすくした。

閲覧機能には、河川の3D表示や各種データの重ね合わせ、各種資料へのリンクやダウンロード、そして集約されているデータを一覧表示する機能などがある。これらの情報にはPCのWebブラウザーやスマートフォンから容易にアクセス可能だ。

GIS機能は3Dの位置情報を活用した距離や面積の計測、任意地点間での河川断面図の作成、断面データの出力機能があり、デジタルデータの利活用が行いやすくなっている。

また検索機能は、膨大な登録データから、属性や値によって目的のものをスピーディーに取り出せるようにしたものだ。

様々なデータの閲覧やGISデータ活用、検索が行える3D河川管内図の機能

様々なデータの閲覧やGISデータ活用、検索が行える3D河川管内図の機能

●3D河川管内図に搭載された機能

機能  詳細機能 
 閲覧機能  (1)三次元点群データ表示、(2)オーバーレイ表示、(3)タブレットによる表示、
(4)ラベル表示、(5)画像添付、(6)ファイルへのリンク/ダウンロード、
(7)ポップアップ表示、(8)一覧表示
 GIS機能  (9)位置座標計測、(10)距離計測、(11)面積計測、(12)断面表示、
(13)断面のカスタマイズ表示、(14)断面データ出力、(15)注記(コメント)作成
 検索機能  (16)属性検索、(17)データ検索

 ArcGISならではの引き継ぎやすさ

3D河川管内図が2Dの紙ベースから3DのGISベースに変わったことで、三重河川国道事務所の業務も変わり始めた。同事務所の技術系職員30~40人が既に活用を始めている。

2024年にダム管理の業務から同事務所に異動してきた流域治水課の中山幸則氏は「これまで3Dのシステムは使ったことがありませんでしたが、3D河川管内図は業務に使うデータが一元管理されているので便利ですね。また、施設の管理者からも地形や河川構造物などが3Dモデルで表示されるのでわかりやすいという声を聞きました」と語る。

「ハザードマップを3D化した洪水時の浸水シミュレーションは、普段の生活でおなじみの街並みが、どのあたりまで水につかるのかが誰にでもわかります。そのため、河川管内図の画像を小中学生などの防災教育に活用するなど、一般に向けての活用もできそうです」(中山氏)。

さらに、ArcGISにあらかじめ用意されているデータと組み合わせての解析も可能だ。

3D河川管内図の開発に携わった日本工営 社会システム事業部 統合情報技術部 課長の村上あすか氏は「ArcGISでは、国の国勢調査による高齢者や要介護者、要支援者の分布がわかるデータも利用できます。3D河川管内図のハザードマップと組み合わせることで、洪水時に各地域でどれくらいの避難支援者が必要かといった具体的な避難計画の検討にも活用できるでしょう」と説明する。

三重河川国道事務所では、今後も3D河川管内図の登録データをさらに充実・発展させていく計画だ。その時、ユーザーが多いArcGISは、後を引き継いで開発やデータの更新などを行いやすいというメリットがある。

3D河川管内図の開発を担当した日本工営統合情報技術部課長の村上あすか氏(左)と久野幹将氏(右)

3D河川管内図の開発を担当した日本工営統合情報技術部課長の村上あすか氏(左)と久野幹将氏(右)

「3D河川管内図のベースとなるシステムとして、他の3Dシステムも検討しましたが、オンラインで現場でも活用できること、東京・荒川の3D河川管内図などで実績があり1年で開発できること、そして土木分野でユーザーが多いことなどから、ArcGIS を採用しました」と村上氏は言う。

データ更新作業の工程や分担イメージ。土木分野のユーザーが多いArcGISなら事務所職員や業務委託を受けた事業者がスムーズに業務を引き継げる

データ更新作業の工程や分担イメージ。土木分野のユーザーが多いArcGISなら事務所職員や業務委託を受けた事業者がスムーズに業務を引き継げる

ArcGISには「Online 版」と「Enterprise版」がある。どちらもWebベースで使えるものだが、どう違うのだろうか。

日本工営 統合情報技術部の久野幹将氏は「Online 版は米国のAWSサーバーを使っているのに対し、Enterprise版は任意の環境に Web GIS を構築できる点が違います。今回は日本国内のAWSサーバー上に構築して運用しています。後者には、国交省が定めたクラウドシステムのセキュリティーポリシーにも準拠しやすいのが特長です」と説明する。

国交省では、社会インフラ構造物の設計や施工、維持管理にICT(情報通信技術)を積極的に導入し、生産性向上を図る「i-Construction」施策を展開している。その一環として2023年度には、3DのBIM/CIMモデル活用が原則化された。さらに、インフラDXの推進により、データの一元管理やAIを活用した予測保全が可能となり、効率的な維持管理が実現される。今後、3D河川管内図にはその工事成果も登録されていく予定だ。

【問い合わせ】
ESRIジャパン
(本社)〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-1 塩崎ビル5F(総合受付)
TEL 03-3222-3941, FAX 03-3222-3946
Webサイト https://www.esrij.com/
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