千葉・幕張メッセで開催されたCSPI-EXPO 2026のセミナー会場で、3D地理空間プラットフォーム「Cesium(セシウム)」が注目を集めた。国土交通省の3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」にも使われるこの技術を紹介していたのは、実はベントレー・システムズである。道路、橋梁、上下水道、電力、プラントなど、世界のインフラDXを支えてきた同社が、i-Constructionの追い風を受け、日本市場での存在感を一気に高めようとしている。
「Cesiumって、ベントレー製品だったのか」
2026年6月19日午後、幕張メッセで開かれたCSPI2026展のCesiumのセミナーには、多くの来場者が詰めかけ、スクリーンに映し出される3D都市モデルや点群データのデモに熱心に見入っていた。登壇していたのは、ベントレー・システムズのムトゥカラムニ氏である。
3D都市モデルやデジタルツインに関心のある人なら、PLATEAUのプラットフォームにも使われているCesiumの名前は聞いたことがあるだろう。しかし、「あのCesiumが、今はベントレー・システムズの製品群に入っていたのか」と驚いた来場者も少なくなかったはずだ。
ベントレー・システムズ(グローバル本社:米国ペンシルベニア州エクストン、日本法人:東京都千代田区)は、インフラ向けソフトウエアの世界的ベンダーである。日本ではオートデスクの知名度が高いが、欧米では道路、鉄道、橋梁、上下水道、電力、プラントなどのインフラ分野で、オートデスクに勝るとも劣らない老舗のエンジニアリングソフト企業として知られている。
そのベントレー・システムズは2024年、Cesiumを買収した。これにより、都市やインフラを丸ごと3D空間上に再現するCesiumは、ベントレーのデジタルツイン戦略を支える重要な製品群に加わったのである。
あのPLATEAUにも採用された実力
今回のセミナーで大きく取り上げられたCesiumは、点群、フォトグラメトリ、3D建物、BIM/CAD、GISデータなどをWeb上で可視化・配信する3D地理空間プラットフォームである。
その中核となるのが「3D Tiles」だ。大容量の3Dデータを遠近や表示範囲に応じて効率よく読み込み、都市全体や施工現場、道路、造成地などの巨大な3D空間をブラウザ上で軽快に表示できる。重たい3Dデータを、必要なところだけサッと見せる仕組みと言えばわかりやすい。
講演では、Cesium ionの画面を映しながら、3Dデータの扱い方が具体的に紹介された。
「ドローン写真から作ったフォトグラメトリ、点群、3D建物などのデータを、Cesium ionでタイル化、最適化、ホスティングできます。大量の3次元データを、必要な部分だけストリーミングして表示できるのがポイントです」と、ベントレー・システムズのムトゥ氏は説明した。
3D都市モデル「PLATEAU」でも使われている技術だけに、日本の建設・土木関係者にとってもなじみはある。現場ではいま、ドローン写真、点群、BIM/CIMモデル、設計図面、出来形データなど、扱う3Dデータが一気に増えている。しかしデータが増えれば増えるほど、次に問題になるのが「どう見せるか」「どう共有するか」である。そこに効いてくるのがCesiumなのだ。
「3D Tilesは、Open Geospatial Consortium、つまりOGCの標準にもなっています。Google Maps PlatformのPhotorealistic 3D Tilesのように、標準化によって活用範囲が一気に広がっています」と、ムトゥ氏は続けた。
iTwin、ProjectWise、Bentley Infrastructure Cloudもある
さらに講演では、今後のロードマップとして、IFCだけでなく、FBX、DWG、DXF、Revit、DGNなどの3Dモデル形式への対応拡張や、属性情報の表示、検索、可視化にも触れられた。
「複数のデスクトップアプリを持っていなくても、ブラウザで3次元モデルをレビューできる。ここが大きいのです」と、ムトゥ氏は強調した。BIM/CIMモデルを確認するたびに専用ソフトを立ち上げる必要がなくなれば、発注者、設計者、施工者の情報共有はぐっと身軽になる。
ベントレーのデジタルツイン関連技術はCesiumだけではない。写真や点群から現況モデルを生成し、現実のインフラをデジタル空間に再現する「iTwin」。BIM/CIMや設計データ、デジタルツインをクラウド上で共有する「ProjectWise」。さらに、設計、施工、維持管理をまたぐデータを統合する「Bentley
Infrastructure Cloud」もある。
これにより、ベントレーが以前から展開してきたデジタルツイン基盤iTwinと、3D地理空間データに強いCesiumが結びついた。現実の都市やインフラを3Dで再現し、そこに設計、施工、維持管理のデータを重ねて活用する。そんなインフラDXの土台が、一段と強化されたのである。
言い換えれば、ベントレーは単なるCADベンダーではない。現場で集めた写真や点群、設計段階のBIM/CIM、施工中の進捗データ、維持管理段階の施設情報をつなぎ、インフラの一生をデジタルで扱うための道具箱を持つ会社なのである。
コマツのSmart Constructionにもベントレー
セミナー後半には、EARTHBRAIN(本社:東京都港区)の椎葉航氏が登壇し、コマツ発の建設現場DXプラットフォームとして知られる「Smart
Construction」について語った。Smart Constructionは、測量、設計、施工計画、施工、出来形、進捗管理などをデジタルでつなぐサービス群である。
来場者の中には、「なぜベントレーのセミナーにEARTHBRAINが登壇するのか」と思った人もいただろう。実は、Smart Constructionにもベントレーの技術が関わっているのだ。
Cesiumの3D可視化技術や、iTwinをはじめとするベントレーのデジタルツイン技術は、Smart Constructionの中で現場をクラウド上に再現し、設計データ、測量データ、施工データを重ね合わせる仕組みを支えている。
会場のスクリーンには、測量データや航空写真、設計データ、BIM/CADデータなどが3D Tiles化され、Smart Construction DashboardやSmart Construction VRへ流れていく図が映し出された。
「点群データ、オルソ画像、設計データをそのまま使うだけでは、現場で軽快に扱うのは難しい。Cesiumのエコシステムを使うことで、3D Tilesとして処理し、ダッシュボードやVRで使える形にしています」と、椎葉氏は説明した。
つまり、Smart Constructionを使っているユーザーは、知らず知らずのうちにベントレーの技術にも触れていることになる。いわば「ベントレー、入ってる!」である。名前は前面に出なくても、現場DXの裏側では、すでにベントレーの技術が静かに働いているのだ。
今後のSmart Constructionは、AIエージェントによってさらに進化しようとしている。講演では「Smart Construction 2.0」として、進捗管理、帳票作成、現場管理、安全管理、3Dデータ活用などをAIが支援する将来像も示された。
「これからは、ユーザーがアプリを選んで使いこなすのではなく、AIエージェントに話しかける時代です。AIがサポートするから、誰でも、すぐに、DXできる。そこを目指しています」と、椎葉氏は力を込めた。
さらにその先には、フィジカルAIによる建設現場の無人化もある。人手不足、高齢化、危険作業、災害復旧といった課題に対し、AI、通信、クラウド、建機制御を組み合わせ、AIが建機を動かし、人は現場全体を管理する時代へ向かうというわけだ。
福井コンピュータ製品にも「ベントレー入ってた」
国内ベンダーとの連携と言えば、日本の老舗ベンダーである福井コンピュータ(本社:福井県坂井市)との協業も見逃せない。
同社のクラウド型データ共有サービス「CIMPHONY Plus」には、ベントレーのiTwinプラットフォームが活用されている。BIM/CIM、点群、施工データなどをクラウドで共有し、設計、施工、維持管理をつなぐための基盤として、ベントレーの技術が組み込まれているのである。
さらに道路分野では、福井コンピュータの「TREND ROAD Designer」が、ベントレーの「OpenRoads Designer」をベースにした日本語版OEM製品として展開されている。国内の法令や基準、設計手法に合わせて独自改良されているため、ユーザーは福井コンピュータ製品として使いながら、その奥ではベントレーの道路設計技術を利用していることになる。
ここでもまた、「ベントレー入ってた!」である。
ベントレーの代表的ソフトと言えば、2D/3D CADプラットフォームの「MicroStation」だ。DGN形式を中核とする老舗CADであり、DWG形式のAutoCADと並び、約40年にわたって世界の設計実務を支えてきた。
さらに道路設計のOpenRoads Designer、上下水道向けのOpenFlows、電力インフラ向けのOpenUtilities、プラント向けのOpenPlantなど、専門分野ごとに強力なソリューションをそろえる。日本国内ではこれまで、BIM/CIMの表舞台で大きく目立つ存在ではなかったかもしれない。しかしインフラやプラントの専門領域では、各アプリケーションは根強く使われ、高い評価を得てきたのである。
i-Constructionの本格支援体制を構築へ
国土交通省が進めるi-Constructionは、3Dデータ、BIM/CIM、ICT施工、デジタルデリバリーを前提に、建設生産プロセスを変えようとしている。
その中で、ベントレーが持つCesium、iTwin、ProjectWise、Bentley Infrastructure Cloudといったデジタルツイン技術や、設計、施工、維持管理をまたぐインフラソリューションが貢献できる機会は、あちこちにある。
これまで日本のi-Construction界では、ベントレーの名前が前面に出る機会は多くなかったかもしれない。しかし、国内ベンダーが展開するCIMPHONY Plus、TREND ROAD Designer、Smart Constructionなどを通じて、すでにその技術は日本の建設DXに根付き始めている。
米国のベントレー・システムズは2026年6月30日、日本事業を今後3年間にわたり拡大するための戦略的計画を発表した。その目的は、国交省が推進するi-Constructionや建築確認のBIMデータ審査を支援し、国内ベンダーとの提携をさらに強化していくことにある。
日本オフィスも東京・飯田橋に移転・拡大し、今後3年間で日本スタッフを2倍以上に増やす計画だ。経営陣には新たにカントリーマネージャーを置き、オートデスクやヘキサゴンなど、インフラ分野のソフトウエア企業で豊富な経験を持つ鴻野圭史氏が着任した。
CSPI-EXPO 2026でのCesiumやSmart Constructionの講演は、単なるデジタルツイン技術の紹介ではなかった。今後の日本のインフラ設計、施工、維持管理をデジタルツインでつなぎ、国内ベンダーとの連携を深めていくベントレーの本気度を示す場だったのである。
i-Constructionが次の段階へ進んでいく中で、「ベントレー入ってた!」という発見は、やがて「ベントレーを使ってみたい」という関心に変わっていくかもしれない。同社の日本での動きに、今後も注目である。
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