「傾き OK」の GS18 Tで、 GNSS を適用できる現場が大きく拡大
2021年1月31日

Customer Case Study – 事例

BM Field

北海道の測量会社・株式会社BMフィールドは、 2019 年、 GNSS RTK ローバー「Leica GS18 T」を導入。集中力を要する整準作業をすることなく、ポールが傾いていても正しく測量ができる GS18 T の特長を最大限に生かして、高さ 1メートルの用水路、広さ 10ha の原野、土石流発生直後の崩壊地など、多種多様な現場で活用している。さらに 2020 年には、GNSS 受信スマートアンテナ「Leica Viva GS16」を固定局として用いることで、最低人員でRTK 測量もできる体制を整えた。 GS18 Tは、測量現場での作業効率アップ、コスト削減などの効果をもたらすとともに、これまで以上に過酷な条件下での GNSS 測量を可能にして、測量作業効率化の可能性を大きく拡大した。

複数の衛星を駆使する GNSS でVRS 測量をパワーアップ

札幌市に本拠を置く BMフィールドは、青山友和氏を代表取締役社長とする個人運営の測量会社である。「北海道をはじめ、道内の市町村、国土交通省北海道開発局など、官公庁の仕事が中心で、当社への直接の発注者は、建設コンサルタント、測量会社などです」と青山氏は紹介する。

畑地面積把握や土地改良計画を目的とする「農業測量」と、土砂崩れ等の状況を把握して復旧計画を立てるための「防災測量」を多く手掛けており、「農業に強い測量会社」、「山林の中や、斜面のきつい崖でも任せられる経験豊富な会社」という評価を得てきた。測量機器は、2008 年に独立する前に勤めていた会社時代から、ライカジオシステムズ製品を採用している。

「以前の会社で測量機器の具合が悪くなったとき、『同クラスで最も耐久性に優れたもの』という観点で比較選定して以来ずっと、頑丈で信頼性の高い測量機器としてライカジオシステムズ製品を使っています。今でもしょっちゅう雨に濡らしたりしていますが、ライカジオシステムズ製品はびくともしません」と青山氏はにっこりする。

会社を設立してからも、ライカジオシステムズのトータルステーションや GPS 測量機を利用してきたが、 2015 年、初めての GNSS システムとして「Leica Viva GS08plus」を導入した。

それ以前から GPSを使って VRS ※ 1 / RTK ※ 2測量に取り組んでいたが、 1 種類の衛星だけでは場所や時間帯によってうまく受信できないこともあって使いづらかった。複数の衛星を使うことで、VRS 測量を適用できる現場を広げたいという思いで、GNSS 受信アンテナの導入に踏み切ったのだ。

「導入してすぐ、これはすごいと実感しました」と青山氏。
GS08plus は、米国の GPS に加えてロシアの測位衛星「GLONASS」を受信でき、木の枝や電柱で電波がさえぎられるのではないかなど、ほとんど心配する必要がなくなった。現場での作業効率が大きく向上したのである。

※ 1 VRS : 仮想基準点方式(Virtual Reference Station)
※ 2 RTK : リアルタイム・キネマティック(Real Time Kinematic)

250 回の用水路の上り下りを省略できた GS18 T

GNSS 関連の技術は、急速に進歩している。2019 年、青山氏は展示会で、ライカジオシステムズの新製品・ GNSS RTK ローバー「Leica GS18 T」に出会った(以下、「GS18 T」と表記)。GS18 T の「T」は、Tilt(傾き)の T だ。

「ポールを傾けても正確に測れる、しかもキャリブレーション(傾き補正)不要で、磁気の影響による誤差が生じない――という説明を聞いて、これだなと直感しました。ちょうど、うってつけの案件に取り組むところだったからです」と青山氏。
その現場は、 1メートル以上の高さがある農業用水路だ。

従来であれば、ハシゴを用いて 1メートル高低差の「上ったり下りたり」を繰り返す必要があった。測定するときはポールを立てて気泡とにらめっこして正しく整準する必要があり、次の地点に移動する際に水路の上を歩くわけにはいかないため、測量機を持って下に移動し、次の地点でまた上って同じ作業を繰り返さなければならない。約 5キロメートルの用水路を 20メートル間隔で測量するのだから、上り下りを 250 回繰り返すことになる。非常にタフな作業だ。

「GS18 T を使ってみて感動しました。ポールが斜めでも測量できるので、水路に上がる必要がない、気泡管を気にする必要もない。作業前に行うキャリブレーション(方位の再設定)のめんどうな作業もまったく不要。現場作業は圧倒的に短時間でできるのに、成果は変わらないのです」と青山氏。

上空の視界が限られた場所、広いヤブの中など、従来機器では測れなかった場所も測定できた。受信できる測位衛星に欧州連合の「Galileo」が加わったうえに、解析能力が目に見えて向上したと青山氏は感じている。GNSS 技術の進化はさらに続く。
BMフィールドは 2020 年、 GNSS 受信 スマートアンテナ「Leica Viva GS16」(以下、「GS16」)を導入して、最少人数で RTK 測量ができる体制を整えた。

「VRS は、 WiFi がつながらない現場では使えませんが、 RTK であれば、 WiFi 環境を気にする必要がありません。GS16 を上空視界の良好な場所に設置して固定局としておけば、 GS18 T は枝の生い茂ったヤブの中に持ち込んで行っても、RTK 測量がうまくできます」と青山氏は説明する。

通信費を節約できるのも RTK のメリットだ。現 在 で は、 GNSS 測 量 案 件 の 8 ~ 9 割 にRTK を使っている。「VRS と RTK を合わせて、 GNSS 受信アンテナを適用できる範囲が大きく広がりました」と青山氏は語る。

草木の生えた原野もRTK なら最低人員で測量完結

GS18 T が威力を発揮した現場をさらに 3 例紹介しよう。第 1 は、ゴミ処 理 場 を新 設 するた め に、10ha の原野を測量した案件。納品物は、平面図と縦・横断図である。

「生い茂ったヤブのまっただ中で、トータルステーションと三脚を運んで設置するだけでも非常に大変だと予想されました」と青山氏。

トータルステーションであれば、現地作業は4 人で 1カ月かかると見積もられた。草切り班が 2 人、測量班が 2 人で、合計 4 人だ。

「見通しをさえぎる背が高い草は、草切り班が切りますが、切った草で地面が見えないと測量ができないので、草や葉っぱを片づける時間も必要になります。わたし以外に 3 人の人間を 1カ月間確保するとなると、人件費がかかりますし、出張費、移動費も相当な金額にのぼります」と青山氏。

ところが GNSS にすれば、草切り作業は不要だ。ただし、ヤブはかなり深い。いろいろ検討したが最終的に、青山氏は RTK を駆使して、1 人 10 日間で 10ha の現地測量を完了した。

「林の中なので、少しでも高い位置で衛星の信号を受けるために、長さ 6メートルの市販品のポールを使うなどいろいろ工夫をしましたが、現場作業そのものはトータルステーションに比べて 6 分の 1 程度のコストで抑えることができ、顧客からも喜ばれました」と青山氏は言う。

BMField 2D
10haの原野を1人で測量した後、計測データを測量CADシステム「TREND-ONE」(福井コンピュータ株式会社)に取り込んで作成した平面図。平面図の縮尺は1/250、 1/500など現場によるが、これは1/1000

青山氏にとっても、従来なら 30 日間拘束される仕事を 10 日で迅速に完了させて、次の仕事に取りかかれるという効果は大きい。第2の案件では、暗渠の工事計画を作るために、対象となる畑地の勾配をきめ細かく図示する必要があった。

「広い畑の上を 20m 間隔で測量しながら歩いていきましたが、さえぎる樹木も電柱もないので、GNSS の威力がストレートに発揮された現場です」と青山氏は楽しげに語る。

第 3 の案件、これは防災測量で、崖崩れを防ぐ「土留め柵」の補強工事をするための現況把握が求められた。

「高さ 15m ほどある急な斜面で、土留め柵の長い棒がたくさん立ててありますが、上のほうほど老朽化して斜めに傾いています。『GS18 T がなくて、斜め測量のできない状態だったら、お手上げだっただろう』と思ったくらい足場の悪い現場でしたが、無事に現場作業をして、詳細な平面図・横断図を納品することができました」と青山氏。

災害復旧測量では、維持されている正常な所と崩壊した所の「境界」を明確にすることが求められるため、傾いても測量できるGS18 T が非常に役に立った。

BMField Dataflow

TS が使えない現場よりGNSS が使えない現場ははるかに少ない

現在、青山氏は地形測量(路線測量含む)では、GNSS が使える限りは GS18 Tを最優先で使い、GNSS ができない場所でのみトータルステーションを使っている。

「あくまでも現場の状況次第です。たとえば、青森県のスギ林のときは、背の高い木が密集していて GNSS は使えませんでした。そこで、VRS でいくつか基準点を落としてから、あとはトータルステーションで測っていくしかありませんでした」と青山氏。

しかし通常は、「トータルステーションでは測りにくいが、 GS18 T なら測れる」というケースが多いという。

「見通しがきかない場所、迂回しなければならない場所、機器が重くて移動が不自由な場所などは、 GNSS がお勧めです。『木が生えているから GNSS が使えない』という方は、RTK を試していただきたい。もちろんミリ単位の精度が要求される現場ならトータルステーションを使いますが、要求精度 1 ~ 2 センチの現場なら、迷わず GNSS を使います」と青山氏は言う。

測量後のオフィス作業も、 GNSS はさほど複雑ではない。測量現場では、 GS18 T とコントローラー端末の「Leica CS20」に搭載されている 3次元のフィールド・ソフトウェア「Leica Captivateソフトウェア」(以下、 Captivate)を活用。

オフィスに戻ったら、地理空間データ処理用ソフトウェア「Leica Infinity ソフトウェア」(以下、 Infinity)を使って計測データをパソコンに取り込み、測量 CAD システムで平面図、縦・横断図を作成する。

トータルステーションの場合は、測量 CADへダイレクトに計測データを取り込むため、作業工数はワンステップ少ない。しかし、Captivate および Infinity のソフトウェアに対する青山氏の評価は高い。

「現場で使う Captivate は、ポールの正確な位置と傾きを常に把握することができて便利。画面上の 3Dビューワの表現も、太陽マークや色表示などいろいろあってわかりやすい」と青山氏。

特に気に入っているのは、次の杭打ち点を画面上に矢印で示してくれるナビゲーション機能で、その方向通りに歩けば容易に測点へたどり着く。視覚的・直感的で作業しやすく、特に横断方向へ移動するときにとても助かるという。

「Infinity のほうは、他社の解析ソフトと比べて自由度が高く、応用がきくのが魅力です。たとえば、仰角 / 俯角、衛星を使う / 使わないなど、細かく設定を変えられるため、『これでだめならこっちで試そうか』などと試行錯誤して計測データの解析ができます。実は、Infinityの柔軟性のおかげで、現場測定のやり直しに行かなくて済んだことがたくさんあるのですよ」と青山氏は語った。

BMField Captivate
ヤブの中で高いポールを使った計測時の様子(左)と、 3次元のフィールド・ソフトウェア「Leica Captivate ソフトウェア」の画面(右)。
Captivateの3Dビューワ画面は、地面に置いたポールの先端からアンテナまでの正確な高さや位置と傾きをわかりやすく表示しており、使いやすい

現場作業の時間短縮、コスト削減、競争力アップに大きな成果

BMフィールドにおける GS18 T の導入効果は、 2つの方向で考えることができる。

1つは、最新技術によって、GNSS を適用できる現場が広がったことだ。

GS18 T は GS16 を組み合わせて RTK ができるため、 WiFi がつながらないなど悪条件にある現場でも、GNSS 測量を行えるようになった。また、補正情報配信サービス会社の対応により、受信できる測位衛星の種類も拡大し※ 3、データ解析能力進化との相乗効果で、VRS もパワーアップした。

GNSS はもともとは、足場が悪い、見通しがきかないなど、トータルステーションを使いにくい現場で用いられていたわけだが、現在の BMフィールドでは GNSS が主役であり、GNSS を適用できない現場だけトータルステーションを用いるという形へと、優先順位が入れ替わっている。

GNSS の多用により、BMフィールドは最低人員で計測できる現場を大きく増やした。草切り班をはじめ、現場測量の補助者を頼まずに作業完結できる仕事が増加したことは、コスト削減につながっている。

もう 1つの効果は、現場での作業効率アップである。

ポールの垂直維持に気を使うことなく高速に測量ができて、現場での作業工数は大幅に軽減された。

「GS18 T の製品紹介には『作業生産性が 2割アップ』と書いてありますが。2 割なんてものではありません。 30 日かかるはずの案件が 10 日で完了したことでもわかるように、2倍、3 倍の仕事ができるようになりました」と青山氏。利益増大ももたらしているのである。

JP BMField LaborCompare

また、他社差別化の効果も見えてきた。VRS も RTK も効率よく行い、木が生えているなどの悪条件があってもこれを「障害」とすることなく、効率よく確実に GNSS を実行できるノウハウを身につけた BMフィールドは、顧客からの評価が高い。全国規模の大手建設コンサルタントから、青森、岩手など、北海道外の仕事を依頼されることも増えているのだ。

次の一手として、青山氏は、 2020 年 9 月に発売された、ビジュアルポジショニング機能を備えた GNSS 受信アンテナ「Leica GS18 I」に注目している。

「今はあきらめている悪条件での GNSS 測量が、もっとできるようになるといいと、いつも考えています。『写真から点の座標がとれる』というのは、その解決策のひとつでしょう」と青山氏は力強く語る。 GNSS 測量技術のさらなる進化と可能性に、大きな期待を寄せているのである。

※ 3 VRS 方式で使用可能な補正情報配信サービス会社の対応衛星は、GPS(米国)、GLONASS(ロシア)、Galileo(欧州連合)、QZSS(日本)の4種類。Beidou(中国)は未対応(2020年12月現在)だが、GS18 T は、RTK 方式では Beidou も利用可能。

事例

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