積極的なBIMの活用やデジタルツインなど、スピード感を持ってICT技術を推進し、先を見据えた取り組みを続ける鹿島建設。
施工段階でのBIMの有用性にもいち早く目を付け、建築現場へのBIM適用で生産性を高めてきた。2017年には、BIM業務を専業とする企業・グローバルBIMを設立。同社とともに、BIMのさらなる普及展開と高度化を図っている。
その鹿島建設が、施工フェーズで活用しているBIMソフトがGraphisoftの「Archicad」であり、併せて長らく使用しているのが、BIMの生産プロセスを向上させるソリューション「Solibri」である。
今回、2022年11月に新設された鹿島建設の西日本プロダクションセンターがSolibriでコミュニケーションを図り、施工現場を効率化する様子やその有効性について、鹿島建設のBIM統括マネージャ安井好広氏とグローバルBIMセンター長の竹中朋生氏に伺った。
鹿島建設株式会社
西日本プロダクションセンター
センター長 / BIM統括マネージャ
安井 好広 氏
株式会社グローバルBIM
東京先端BIMセンター
センター長
竹中 朋生 氏
BIM化で需要の高まる、
品質を確保しながら全体を統括する任務
BIMの活用で建築業界をリードする企業の1社である鹿島建設が、さらなる建築現場の生産性向上を見据え、“西日本プロダクションセンター”を新設した。
同センター長でBIM統括マネージャの安井好広氏は、「これまで管理部門的な位置付けだったBIM推進室を2つにわけ、その1つが西日本プロダクションセンターになります。同センターの担当者は、実務部隊として現場に深く入り込みArchicadなど、さまざまなBIMソフトを駆使し設計の後半~着工までに施工の決め事を前倒しし、建築現場の効率化をより促進することが役割です」と説明する。
また、同センターの立ち上げにはBIMの裾野の広がりで、現場が変化してきた背景があるという。「鹿島建設では、品質・コスト・工程・安全・環境すべてをオールマイティに管理するスペシャリストを育成する風土があります。
その中で、昨今BIMソフトを効率的に活用し、着工前に“モノ決め”を前倒しすることが現実的となり、その変化に対応するため、BIMツールを理解した上で全体を統括できる、より新しい環境に適応したスペシャリストを増やすことが重要となりました」。着工前の“モノ決め”は、フロントローディングに伴い、専門知識を持った人的なリソースや時間が不足しがちである。
同センターの担当者はその点をBIMツールを活用して効率化を図りつつ、複数現場のモノ決めをコントロールする役割を担う。
一方、グローバルBIMは、BIMを基軸に設計・施工全般の課題解決のサポート業務を行う企業だ。大きくは鹿島向けと社外向けの部署に分かれてソリューションの提供を行っているが、東京先端BIMセンターセンター長竹中朋生氏は「我々は鹿島建設の専門部隊で、施工シミュレーションや数量集計などの支援とともに、現場の3Dの総合調整の支援を主軸に据えて取り組んでいます」と語る。ArchicadやSolibriなどソフトの操作などに精通する人材はグローバルBIMが抱え、現場全体を見据えてBIMを活用した施工の効率化を行えるブレイン的な部分は鹿島建設の同センターが担う形だ。そして、その両社が行う現場の総合調整で効果を発揮しているのがSolibriである。
施工現場で生じる問題解決の
強力なツールとしてSolibriを活用
両社が重宝するSolibriは、BIMモデルの品質を向上させるとともに、設計プロセスの生産性を高めるソリューションだ。
Archicadや鉄骨や設備など各工種専用CADからIFCを介してデータをインポートし、3D統合モデルを作成できる。ルールによる自動モデルチェック機能などを備え、統合モデルの干渉チェックや設計/仕様チェックなどが可能。
結果はフォルダツリー形状で表示され、問題のある個所に関連している要素が簡単に把握できるほか、Solibri上にメモや写真などBCFレポートとして保存でき、調整の履歴が残せるのも特長だ。
安井氏はSolibriを長年用いる中で、最近は使用目的に変化が現れてきたと分析する。「部材の干渉チェックや免震層での離隔距離の確認といったSolibriの良く知られているモデルチェック機能も使用しますが、チェックツールで判断できる干渉よりも、むしろ一見すると納まっていても、建物の機能として成り立っていない、品質的な問題がある、メンテスペースが考慮されていないなど、スペシャリストの目でないと見つからない課題の方が重大な問題になりえるのです。こうした問題を明確にしながら解決するため、我々はSolibriを着工前に行う総合調整会議の中で使用します。
つまり、各社からの3Dモデルを統合し、課題の内容、解決方針、担当者、課題の種類などを3Dモデルベースで話し合い、それらのコメントをExcel、PDF、BCFファイル形式などで共有できるため、現場の関係者や協力会社を繋げるコミュニケーションツールとして使うのです」。これは以前よりもBIMの裾野が広がり、IFCでデータを出せる企業が多くなってきた今だからこそでき、その中でより現実的で効率的なSolibriの使い方が拡大していると安井氏は語る。
ファブなどの協力会社が、それぞれ専用CADで入力した3DモデルをIFC形式でクラウド上に収集し、Solibriで統合します。
統合モデルには、仕上げ、躯体、鉄骨、設備に加え、階段や昇降機、外装などの情報など、各協力会社から提出される、工種間の調整に必要な詳細度のモデルデータを元に全体の総合調整をしていきます」と竹中氏は概要を説明する。総合調整会議はTeamsを使ったオンラインで行われ、同センターの担当者が統合モデルの画面を共有し、各課題を3Dで見せながら問題事項を工事関係者に確認していく。
「進行を担当する鹿島の社員は、課題と方針を明確にして、その場で答えや解決策を提示してもらうのが役割となります。
会議には設計者やサブコンなど関係者全員を集めるので、リアルタイムに最新情報が共有され決定が早いです。
またデータは鹿島専用クラウドにあげ、セキュリティを担保しながら各協力会社が最新のデータをアップロードできる仕組みです。2次元ベースの総合調整よりも断然効率的ですね。」と安井氏。大規模プロジェクトでは、20社以上の業者が関わり、数十に上る3Dデータを統合するという。
着工前の総合調整会議は1週間ないしは2週間を1サイクルとして設定。各社から収集したIFCデータや確認コメントを統合したSolibriのコミュニケーション画面を共有して問題点を確認、協議の上、解決方針と担当者を決める。各社は会議で入力されたBCFを持ち帰って検討や修正を行う。
モデル修正を終え、課題の解決を確認でき次第、“クローズ”として記録共有する。同時に、新たに割り振りが必要な問題を挙げ、未解決の問題がなくなるまで、サイクルを回すというフローになる。
ルールを統一することで
整合性と確実性を高める
このような流れで総合調整を行っており、多くの部分で調整の前倒しが図れ、後工程がスムーズになるという。
竹中氏は、「関係者が多岐にわたるため、必要最小限のルール作りをしておくと円滑です。位置合わせのルールとファイル名のルールを明確にしておくことは最低限のルールとしています。」とポイントを挙げる。位置合わせは、プロジェクトの原点を合わせておくというもの。
さらに確認のために、通り芯から所定の距離をとった位置に、共通の起点となるボックスを置く。これにより、初期に各社モデルの位置合わせを終えておけば、それ以降はモデル位置がズレることない。更新されたモデルを管理するために、ファイル名のルールを決めておくことも重要だという。
安井氏は、Solibriによる総合調整のメリットについて「モデルを見ながらの調整であるため、オンライン会議でも意思疎通が容易であり、また各社の懸念事項などの状況がわかります。修正がある場合でも、Solibriを中心に状況が各社に3Dで共有されていることで認識のズレがなくなり、大幅な効率化を実感できる」と効果を語る。
そして「工事に関係する人全員が楽になるような使い方を、まずは我々プロダクションセンターで行い、ロールモデルを増やし、ワークフローの手本を見せていくことが大切です。すべての現場でルールや仕様が共通していれば、協力会社の負担をさらに軽くできますし、各自判断は迅速で適切になり、さらに建築現場の生産性を向上できます」と安井氏は今後を見据える。
3Dモデルの統合を通して早く正確な総合調整を行うことのできるSolibriは、関係者のコミュニケーションを円滑にしながら各自が自律的に動く鹿島の体制づくりを進めるツールとなっている。