内装・インテリア・照明系ユーザー事例/太田則宏建築事務所
2024年6月24日

鹿児島市の太田則宏建築事務所では、2019年5月にBIM化に踏み切った。その背景には業務の多忙化と設計時のストレスがあった。
業務の効率化や省力化を目指す中で、図面化という「作業」に、多くの時間とストレスがかかっていたのである。同事務所で長く使ってきたVectorworksには、独自コマンドやツール、オブジェクトを作成できるプログラミング機能が豊富で、業務効率化、省力化と合わせてBIM化を実現できると見込んだのである。同事務所の太田氏にBIM化の取り組みについて話していただいた。

Vectorworksのプログラミング機能による効率化とBIMの可能性拡張

BIMの導入経緯

私は20年以上Vectorworksを使い続けているが、一念発起してBIM化へ舵を切ったのは2019年の5月のことである。それまでは、特殊な機能を用いることで設計がソフトウエアの機能に制限されることを恐れていたため、Vectorworksを徹底的に汎用CADとして扱うことにこだわりを持っていた。それでも、Vectorworksの自由度とグラフィカルな表現の強さに満足していたのだが、時流と忙しさのため思い切って方向転換することにした。

BIM化といっても住宅をメインとする個人事務所であるため、情報化されたモデルを他社と共有する機会はあまりなく、その目的は徹底した省力化と設計時のストレス低減であった。それまでも検討は完全に3Dで行い、それなりのモデルは作成していたため、図面化は単なる作業という側面が強く、設計時のストレスの多くがそこにあった。設計の流れを見直し、心理的負荷のかかる作業を一つ一つつぶしていくことで、ストレスのない設計環境をつくること。それが私にとってのBIM化であったと言ってよい。

そのときに、当初危惧していたソフトウエアの制限を可能性へと変え、省力化の原動力となったのがVectorworksに搭載されているプログラミング機能である。

マリオネットなどのツールで作成した図形

多彩なプログラミング機能と機能連携

Vectorworksにはマリオネットというビジュアルプログラミングツールだけでなく、直接スクリプトを扱う環境も用意されており、さらに、それらを用いて、独自なコマンドやツールおよびオブジェクトを作成することができる。手法は簡単なものから複雑なものまであるが、設計プロセスにおいて「こういうツールがあるといいな」「こういう図形を簡単に作れるといいな」というものは大抵が実現可能である。

さらに、Vectorworksにはレコードフォーマットやワークシート、データタグといった多様な補助機能が実装されており、BIMの要であるオブジェクトに紐付けされた情報を活用することが容易で、自由度も高い。

プログラムは情報を操作する技術であるから、これらの既存の機能との相性が良く、さまざまなデータ処理を自動化することも可能となる。プログラミングは使い方によってBIMの可能性を無限に拡張することができ、AIとの連携も含め今後必須の技術になってくると考えている。

活用事例

これまでつくってきたものの中には、法面記号の作図ツールや本棚の本を自動作成するツール、特定のパラメータを一括変換するツールといった単純なもの、ハイブリッドな照明や設備機器の配置を最適化するものや、複数の要素を持つ木造の屋根や基礎オブジェクトをパラメトリックに一括作成するものなど無数にあるが、その中でも特に時間をかけたものにwallstatとの連携ツールとLadybugツールの移殖がある。

wallstatは木造軸組構法の数値解析ソフトで、与えた地震波に対する挙動をリアルタイムにアニメーションで確認することができる。ただし、軸組のデータを作成する手間がかかるため利用にはそれなりの負荷がかかっていた。

そこで、材種や金物などの情報を持った柱・梁・筋交いや水平構面などの部材を生成する独自のツールを作成した。その情報をスクリプトでwallstatで読み込めるデータに変換することで、Vectorworksのモデリングデータをそのままwallstatで利用できるというものである。このツールではN値計算も自動化し、計算結果をワークシートに書き出したり、伏図に金物符号をデータタグで書き出せるようにしてVectorworksの機能もフル活用している。

wallstatによる検討画面

Ladybugは環境シミュレーションを行えるオープンソースのプラグインであるが、Vectorworksには対応していなかった。それまでは、Vectorworksでシミュレーション用のモデルを作成し、DXFに書き出すことで他のCADでシミュレーションを行っていたのだが、時間や手間がかかるため、頻繁にシミュレーションを繰り返すにはストレスを感じていた。

そこで、このプラグインをVectorworksのマリオネットノードとして移植することにチャレンジしてみた。初めは成功する見込みはあまりなかったのだが、基のプログラムがさまざまなCADへの対応に配慮した設計であったこともあり、苦労の末にそれなりに使えるようになった。

Ladybugのマリオネットノード

また、Vectorworksへの移殖の効果は省力化だけでなく、シミュレーション結果を他の図形と同じようにオブジェクトとして扱えることにある。レコード機能と組み合わせることで、Vectorworks独自の使い方もできることが分かった。その延長で省エネに関わる申請用資料の自動作成なども可能だと思う。

Ladybug移殖に協力いただいたwacca architectsによる活用事例。Ladybugの照度検討結果をVectorworksにうまく取り込んで確認している。

BIM化の最終目標

これらの試みを通じて、作業にかける時間は以前の数分の一にまで短縮でき、設計プロセスに潜むかなりのストレスを低減できた。

私にとってのBIM化の最終目標は、あらゆる検討がVectorworks内で完結し、ストレスなく行うことができるようになることである。Vectorworksはそれを可能とする柔軟性と可能性を備えたソフトであるが、多くの人がお互いに作成したツールを共有し合うような状況が加速すれば、さらに目標に近づけるはずだ。

最近はセンサリングした情報を可視化するのにもマリオネットを利用している
太田 則宏

太田則宏建築事務所

  • 所在地:鹿児島県鹿児島市
  • 創業:2010年
  • 事業内容:住宅を中心とした各種建築設計

詳しくは、ベクターワークスのウェブサイトで。

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