実務経験なしで取得可能!建設現場で安全に働くための国家資格7選
土木・建設業での給料アップやキャリアアップを目指す方や、業界への転職を考えている方にとって、建設系の国家資格は大きな強みとなるでしょう。しかし、建設現場で役立つ国家資格は、数年の実務経験が受験条件となっているケースが大半です。未経験者や働き始めのフィールドワーカー(現場従事者)の方は、基本的にはまず現場経験を積むことが先決と言えるでしょう。
一方で、実務経験がなくても取得可能な建設系の国家資格も実は存在します。これらの国家資格には、現場への配置が法律で定められている主任者の資格も多いため、即戦力として活躍することはもちろん、入社時の待遇アップにもつながりやすい側面があると言えるでしょう。
また、紹介する資格は、自身や現場作業者の安全を守るために創設された国家資格です。これらの資格取得を通して学びを深めることも、長く安全に建設業界で働くにあたって、大切な取り組みのひとつでしょう。
講習のみで修了試験がない資格もあるので、ご自身の現場での経験値や、携わる現場の性質・種類に合った資格取得を目指しましょう。
建設系国家資格を取得するメリット
土木・建設業では、現場の効率を上げたり労働災害を防いだりするために、安全や指揮に関する知識を身に付けた有資格者が重宝されます。特定の作業にあたって、法律で配置が定められている主任者系の国家資格も少なくありません
建設系国家資格は、筆記試験や実務経験を求められるものが主流ですが、中には実務経験がなくても受験可能な資格もあり、現場経験を経ずに先んじて有資格者となれます。
例えば、作業主任者は事業者(社長)の選任によって決められるため、有資格者はすぐに現場で重要な役割に任命されやすい点がメリットです。資格を取得していることで事業者からも信頼されやすく、即戦力として重宝される機会が多くなるでしょう。
実務経験不問の建設系国家資格
実務経験がなくても18歳以上であれば受験できる、建設系の国家資格を紹介します。それぞれどのような現場で役立つ資格なのかを理解した上で、現場の性質や種類に応じた資格取得を目指しましょう。
玉掛け技能者|クレーン車で荷物を運搬する現場で活かせる資格
玉掛け技能者は、クレーンで荷物を運搬する作業において、荷物を安全に吊り上げるための資格です。玉掛け作業で事故が発生した場合、重大な災害が発生するケースも少なくありません。
そのような労働災害を避けるため、資格取得を通して、クレーンに荷物をフックで掛けたり外したりする正しい技術を学びます。クレーン操作そのものとは異なり、吊り上げ作業に特化した資格である点が特徴です。
資格には「特別教育」と「技能講習」の2種類があり、取り扱う荷物の重量によって受講内容が異なります。
● 1トン未満の荷物:特別教育(試験なし、講義のみで取得可能)
● 1トン以上の荷物:技能講習(学科・実技試験あり)
取得にかかる期間は、特別教育で2日間(9時間)、技能講習で3日間(15〜19時間)が平均です。技能講習の試験合格率は年度によって異なりますが、一般的に合格者が多い資格と言われています。なお、運転免許を持っていなくても受講が可能です。
ガス溶接技能者|金属の溶接や溶断を行う現場で活かせる資格
ガス溶接技能者の資格は、ガス溶接や溶断に不可欠です。アセチレンガスをはじめとする可燃性ガスや酸素を用いた溶接作業を行うためには、ガス溶接技能講習を修了しなければなりません。これらの溶接作業は鉄骨の溶接や修理に用いられ、建設現場で頻繁に活用されています。
アセチレン溶接は高温での作業が可能な技術であり、強力かつ精密な溶接が求められる場面に適した方法です。鉄骨構造物の建設や修理、さらにはパイプラインやタンクの製造と、広く活用されています。
ガス溶接技能者資格は、講習を2日間(13時間)受けることで、18歳以上なら誰でも取得できる点が特徴です。筆記試験や実技試験はなく、講習を受講すれば修了証が発行されます。
なお、ガス溶接技能者の資格を取得した上で実務経験を3年以上積むと、ガス溶接作業主任者資格の受験が可能となります。
特定化学物質作業主任者|呼吸用保護具を着用する現場で活かせる資格
特定化学物質作業主任者は、有害な化学物質を取り扱う作業現場で安全管理を担当し、作業に従事するフィールドワーカーの健康被害を防ぐための資格です。
対象となる化学物質は、労働安全衛生法施行令別表第3で定められた75種類の特定化学物質で、健康リスクが高いがゆえに、取り扱いには高度な知識と細心の注意が必要とされます。
特定化学物質作業主任者の資格は、2日間(13時間)の講習を受けた後、修了試験に合格することで取得できます。なお、合格率は公表されていません。
ちなみに、講習の正式名称は「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」です。修了すれば、事業者の選定により、特定化学物質作業主任者または四アルキル鉛等作業主任者として現場に従事するフィールドワーカーを指揮できるようになります。
有機溶剤作業主任者|呼吸用保護具を着用する現場で活かせる資格
有機溶剤作業主任者は、有機溶剤を取り扱う現場で作業者の安全を確保するために必要な資格です。この資格は、溶剤の揮発性や毒性による健康リスクを最小限に抑えるために、労働者を指導し、作業環境を適切に管理する役割を担います。
有機溶剤は塗装や洗浄などの作業を行う現場で使用されますが、特に皮膚や呼吸器から吸収されやすく、吸収が長時間にわたると健康に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
そのような健康被害から自身や作業者を守るために、講習では、有機溶剤の特性や健康リスク、作業環境の管理方法、そして保護具の適切な使用について学習します。取得に必要な日数は、1時間の修了試験を含めて2日間(13時間)です。
低圧電気取扱者|発電機や溶接機を扱う現場で活かせる資格
低圧電気取扱者資格は、低圧電気を安全に扱うために必要な国家資格です。特に電気の配線や敷設、発電機や溶接機といった機械の修理など、感電の危険性がある現場で不可欠と言えます。
有資格者には、直流750V以下および交流600V以下の電路で作業する際に必要とされる基礎的な知識を身に付け、感電事故を防ぐために適切な措置を講じることが求められます。
資格取得にあたっては、学科講習と実技講習をそれぞれ7時間ずつ、合計14時間を2日間にわたって受講する必要があります。試験は設けられておらず、指定された講習を修了することで資格取得が可能です。
石綿作業主任者|築20年以上の建造物の改修・解体現場で活かせる資格
石綿作業主任者は、アスベスト(石綿)が使用されている築20年以上の建物の改修や解体において、安全管理を行うための重要な資格です。
1960年代から1980年代にかけて、アスベストは屋根や外壁、床のタイルなどに広く使用されていましたが、吸入すると肺がんや中皮腫といった深刻な健康リスクを引き起こすことが分かり、2004年に使用が完全禁止されました。現在は「労働安全衛生法」に基づき、アスベストを含む建材を扱う際には、石綿作業主任者を配置した上での安全対策が義務付けられています。
一口にアスベストと言っても、飛散性に応じて4段階のレベル分けがされており、作業にあたって着用すべき保護具や作業着などはレベルに応じて異なります。最も高いレベルにおいては電動ファン付き呼吸用保護具の着用が必須ですが、いずれのレベルも保護具なしでの作業は認められていません。
環境省の「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」では、石綿作業主任者を含む、作業者全員の安全が考えられています。
石綿作業主任者になるためには、2日間(11時間)の講習を受講し、修了試験に合格することが条件です。講習では、アスベストの基本知識や健康リスク、除去作業の実務などについて学びます。
振動工具取扱作業者|削岩から道路工事まで幅広く活かせる資格
振動工具取扱作業者は、特に削岩や道路工事、建設現場での作業で必要となる資格です。この資格は、ピストンや打撃機構を有する振動工具を安全に扱うための基礎知識を学び、作業者自身の健康を守るために重要です。
削岩機やチッピングハンマー、コンクリートブレーカー、サンドランマーなど、主に建設作業で使用される大型の工具は、長時間の使用によって健康被害を引き起こす場合があります。
振動障害は、手が白くなる「レイノー現象」や感覚の鈍化、しびれ、関節痛などを引き起こす恐れがあり、慢性的な健康問題につながりかねません。そのため、作業環境における振動の影響は、最小限に抑える必要があります。
振動工具取扱作業者の資格は、4〜6時間程度の学科講習を受講することで取得でき、試験の実施はありません。講習では、振動工具の取り扱い方だけでなく、振動による健康被害のリスクや、その予防策についても学びます。
有資格者は講習を通して自身の健康を守ることが求められますが、それと同時に、事業者も振動の少ない工具の選定や点検、作業時間の管理などといった労働災害の予防対策を行わなければなりません。これは、厚生労働省の「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」において定められている取り組みです。
このように、振動工具の使用にあたっては、事業者と自身の2つのアプローチから健康被害を防ぐ仕組みが構築されています。
実務経験がなくても建設系国家資格は取得できる
建設業の現場で役立つ国家資格の中には、実務経験がなくても18歳以上であれば受験や取得が可能なものがあります。資格を取得すれば、労働災害の防止や作業の効率向上に貢献できるだけでなく、即戦力として任せてもらえる仕事の幅も広がるでしょう。
中には、試験がなく、講習のみで取得できる資格もあります。このような資格は、建設業で働き始めたフィールドワーカーにとってチャレンジしやすいと言えるでしょう。現場に応じた資格を取得し、キャリアアップや給料アップに活かしてみてはいかがでしょうか。
最後に、今回紹介した資格を表組で一覧にまとめましたので、今後の資格取得の参考にしてください。
実務経験なしで取得可能!建設現場の仕事で安全に働くための国家資格一覧
資格名 | 取得日数 | 修了試験 |
---|---|---|
玉掛け技能者 | 2~3日 | 有 |
ガス溶接技能者 | 2日 | 無 |
特定化学物質作業主任者 | 2日 | 有 |
有機溶剤作業主任者 | 2日 | 有 |
低圧電気取扱者 | 2日 | 無 |
石綿作業主任者 | 2日 | 有 |
振動工具取扱作業者 | 1日 | 有 |