建設業界の標準CADファイル形式を読み書きできるDWG互換CAD「BricsCAD」が今、注目を集めている。というのも、建物の3次元モデルを構築して設計を行う「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」ソフトとしても進化を続けているからだ。同CADの開発元であるBRICSYS社の最高幹部に直撃インタビューした。
スーパーゼネコンも活用するBricsCADとは
BricsCADは、ベルギーに本社を置くBRICSYS社が開発するDWG互換CADだ。1999年にIntelliCADをもとに開発が始まったが、2009年にリリースされた「BricsCAD V10」からは、すべてのソースコードを自社開発のものに改めた。
建設業界での業界標準となっているCADファイル形式「DWG」や「DXF」との互換性が高く、日本で普及しているJw_cadの「JW」形式や電子納品に使われる「SXF」形式との相互変換ツールを備えている。さらに低価格なため、日本でもスーパーゼネコンをはじめ、このところ急激にユーザーが増えている。
一方、建設業界では従来の2次元図面に代わり、コンピューター上に建物の3次元モデルを構築しながら設計を進めるBIMが急速に普及し、従来の2次元図面ペースの設計は廃れつつあるようにも見える。BricsCADは従来の2次元CADツールの低価格版として開発されているのだろうか。
こうした疑問に対し、BRICSYS社のCEO、エリック・デ・カイザー氏は「DWG互換CADとして日本をはじめ全世界で使われているBricsCADですが、実はBIMソフトとしての機能が続々と追加されつつあるのです」と明かす。いったい、どんなCADになろうとしているのだろうか。
BricsCADに続々実装されるBIM機能
実はBricsCADは、2次元CADだけでなく3次元CADの機能も備え、さらにはBIMソフトしての進化を遂げている真っ最中なのだ。その中身を知ると、驚く人も多いに違いない。
まずは直感的に使えるモデリング機能だ。コンピューター上に壁の3Dモデルを作り、壁の各面をクリックすると、マウス操作だけで厚さや幅、高さなどを自由自在に変えられる。キーボード操作で一つ一つ、数値を入力する手間はなく、まるで3Dデザインソフトを使っているような感覚で気軽にモデリングが行える。
この壁に窓やドアを付けるときは、壁をマウスで指定して、BricsCAD内蔵の3D部品集を選ぶだけだ。すると壁には自動的に穴が空き、窓サッシやドアが取り付けられる。
「窓やドアはパラメトリックモデルになっているので、大きさを自由自在に変えたり、ワンクリックで左勝手、右勝手に変えたりすることができます」と、カイザー氏は説明する。
壁を選択(左)してサッシ部品を挿入すると自動的に壁に穴が開く。パラメーターで窓の開き具合も変えられる(右) | |
ドアが開く方向や向きもマウス操作1つで変更できる。まさにBIMソフトだ |
3D部品を自由自在に配置し、パラメーターで開閉方向など操作できるのに加えて、BricsCADでは各部材の「属性情報」もBIMソフト同様に入力することができる。
例えば下の3Dモデルには、仕上げ部材の材質などを表す「マテリアル」が表面に施されている。その1つをクリックして属性情報画面を開いてみると、3Dでの見え方のほか、機能やコスト、メーカー名、URLなどが自由に登録できるようなっている。
BricsCADは、さらにBIMのデータ標準である「IFC」形式の読み込み/書き出しや、部材同士が3次元空間でぶつかっていないかどうかを確かめる「干渉チェック」機能も備えている。
建物を3Dモデルとして設計し、属性情報を入力でき、干渉チェックやIFCによる入出力機能までを備えたBricsCADは、もはやBIMソフトと言っても過言ではないだろう。
使い慣れたDWGで行うBIMワークフロー
BIMで概念設計から基本設計、詳細設計、そして施工へと進むワークフローでは、各設計・施工段階で様々なソフトを使う必要がある。
「例えば、概念設計はSketchUpで建物の外観やデザインコンセプトの確認を行い、基本設計ではRevitを使って3Dでのデザイン検討や、詳細設計や施工段階ではAutoCADの2次元機能を使って図面化する、という流れだ」と、カイザー氏は言う。
これらの各ソフトは、オリジナルファイル形式が異なるのでデータ交換を行うときに、すべての情報を引き継ぐことはできない。そして、複数のソフトを業務で使えるレベルまでマスターするのには大変な労力が必要だ。
その点、BricsCADによるBIMワークフローは、使い慣れたDWG形式で行えるので、データ交換は完全にシームレスに行うことができる。
一般にはあまり知られていないが、実はDWG形式は図面や形状のほか、部材の属性情報を埋め込むことができるのだ。
DWGによるBIMワークフローのロードマップ
BricsCADはこの特長を生かし、概念設計から3Dモデリング、そして図面化までを、2Dと3Dを連動させながら、一貫してDWG形式で行うための「ロードマップ」が用意されている。
直感的に使えるモデリング機能で概念設計を行った後、3Dモデリングでデザインや干渉チェックの確認、そして図面の切り出しと仕上げを一貫して使い慣れたDWG形式で行えるBricsCADは、2D図面でのワークフローになれた設計者が、無理なく3DやBIMに移行していくために、最適なソフトと言えるだろう。
ウェブブラウザーで図面や3Dモデルが見られる「Chapoo」
これからのBricsCADによるBIMワークフローを語る上で欠かせないのが、「Chapoo(チャプー)」というクラウドだ。
直感的な操作でBricsCADのファイルをアップロードし、プロジェクト関係者間で共有することができるのだ。また、図面や3Dモデルをウェブブラウザーで拡大・縮小しながら見たり、コメントを書き込んだりすることができる。
これがあれば、BricsCADを持たない施主やプロジェクト管理者なども、時間や場所に制約されることなく、BIMのワークフローに参加できる。スピーディーな意思決定やプロジェクト進行には欠かせないクラウドシステムだ。
低コストで安心して使えるBricsCAD
BIMソフトのユーザーにとって、悩みのタネがソフトにかかるコストだ。初期のソフト代だけに数十万~200万円といった金額が必要なだけでなく、最近のソフト業界では従来のような永久ライセンスではなく、毎年、定額を払い続けないとソフト自体を維持できないシステムも増えてきた。
その点BricsCADは安心だ。まずソフト代自体が6万円~13万円台と安く、一度、お金を払えばずっと使い続けられる永久ライセンス方式を採用している。
BIM機能については、現在は最上位の「BricsCAD Platinum」に無償で搭載されているが、2016年度にはさらに機能を拡張した本格的なBIM機能が有償で提供される予定だ。それでも価格は「300ドル前後を予定している」(カイザー氏)と、他のBIMソフトに比べて大幅にリーズナブルになりそうだ。
日本国内では、アルファテックグループのビージェーソフトがBricsCADの日本総販売代理店としてサポート業務全般を担当しており、万一、使用中の問題があってもすぐに相談できるという安心感がある。
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