2014年に設立されたオフィスケイワン(本社:大阪市西区)は、橋梁分野を対象にした3次元設計業務やバーチャルリアリティー(VR)などのCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)サービスでは、トップクラスのシェアを誇る。専門性が高い業務を担う若手スタッフは、意外にもほとんどが業界未経験者だ。彼らはいったい、どのようにして短期間で一人前になるのだろうか。同社の若手スタッフを直撃取材した。
ゲーム会社出身の女性社員が橋梁の架設シミュレーション
2014年1月に創業したオフィスケイワンは、橋梁用のCAD/CAM(コンピューターによる設計・製作)アプリ開発や3D設計業務を中心に事業展開をしている。
代表取締役の保田敬一氏を含め、男性3人、女性3人の社員と3人のアルバイトスタッフ(2019年2月現在)という小さな企業でありながら、取引先のほとんどは東証1部上場クラスの大手企業だ。「Click3D」などの自社開発アプリを活用した橋梁CIMサービス実績は既に150件を超え、トップクラスのシェアを誇っている。
専門性の高い業務を支えている社員のほとんどは、意外にも業界未経験の若手社員たちだ。
「架設現場は地域で唯一の道路。通行止めの影響を最小限にするために3Dモデルで検討した結果、やはり迂回(うかい)路を設ける必要があることがわかりました」と語るのは、入社3年半のNさんだ。
前職はゲーム開発会社でグラフィックデザインやウェブサイトの開発を担当していた。そんな彼女は今、オフィスケイワンで橋梁の架設計画や夜間のクレーン作業、交通車両からの現場視認性などのシミュレーションを引き受ける中心スタッフで、橋梁プロジェクトの第一線で活躍できるまでになった。
現在、業務で使っているソフトはAutoCADのほか、Navisworks、InfraWorksといったCIM用ソフトのほか、PhotoshopやPremiereなど画像処理やWEB制作ソフト、さらには3Dレーザースキャナーで現場計測した点群処理を行うReCapやWingEarthといったものまである。
これらのソフトをフルに活用し、点群データとCIMモデルを組み合わせてクレーン作業の精密なシミュレーションなども行っている。
入社3年半で、橋梁分野におけるデザインから施工計画、施工管理まで、最先端のCIM業務を担うまでに成長した。
3Dモデル作成、干渉チェックは食品会社出身の社員
入社5年のFさんは、もと食品会社の派遣社員だった。「もともと、ものづくりが好きだったので、オフィスケイワンに入社しました」とFさんは入社の動機を語る。
彼の仕事は今、施工に使えるレベルの高い精度を持った詳細度(LOD)が300~400クラスの橋梁3Dモデルを作ったり、橋梁本体と配管や検査路などの付属物の干渉チェックを行ったりすることが中心だ。まさに、同社の業務の屋台骨を支える存在と言ってもよい。
その武器となるのが同社が独自開発した「Click3D」というアプリだ。AutoCADと表計算ソフト「Excel」を連動させることにより、2D図面を自動的に3Dソリッドモデルに変換できる画期的なアプリなのだ。国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」に登録されているだけでなく、2018年には「活用促進技術」の指定も受けた。いかに有用なアプリであるかがわかるだろう。
「Click3Dで8割方のモデリング作業を自動的に行い、残りの2割を占める下部工や床版、支承、落橋防止装置などは、手作業で仕上げます」とFさんは、詳細な橋梁の3Dモデルを効率的に作成するコツを語る。
干渉チェックではNavisworksを使い、手すりや補剛材など細かな部材を含めて部材同士がぶつかっていないかを確認するのはもちろん、施工の誤差も考慮した近接確認を行う。
さらに人間の実物大アバターにより、配管などで通りにくい部分はないか、はしごから下りたところに柵があるかといった作業性や安全性にも気を配りながら、施工後に維持管理がスムーズに行えるかどうかをチェックする。
趣味のフォトショを橋梁フォトモンタージュに生かす
入社2年半のMさんは以前、サービス業で働いていた。FさんやNさんの下でClick3Dによる3Dモデル作成や干渉チェック、アニメーションや動画の作成を行っている。
そんなMさんは、以前から画像編集ソフトの「Photoshop」で写真などを加工するのが趣味だったという。
その技術を生かしているのが、橋梁の色彩シミュレーションやフォトモンタージュだ。地域の一大モニュメントになる橋梁を、周囲の景観と調和した色に塗装するため、橋桁やタワー、アーチなどの3Dモデルの色を変えて、建設する場所で撮影した写真と組み合わせて検討する重要な作業だ。
Mさんがもう一つ、得意としているのは3DモデルからVRコンテンツを作成する業務だ。左右2つの超小型モニターを内蔵したVRゴーグルやAR(拡張現実)ゴーグルを着けて、橋の3Dモデルを見ると実寸大で立体視ができる。まるで実物の橋を訪れたような感覚で、施工中や完成後の姿を体験できる。現在、オフィスケイワンが幹事を務めるVR研究会の運営サポートも担当している。
「現場のパンフレットなどに、自分が作ったCGなどが採用されているとうれしいです」とMさんは今の仕事に充実感を覚えているようだ。
オフィスケイワンでは、駒井ハルテック、宮地エンジニアリング、瀧上工業の橋梁メーカー3社とVR技術を利用して「橋梁工事VR安全教育システム」というアプリを共同開発し、レンタル販売に向けて準備中だ。
VR空間で橋梁工事現場を再現し、高所からの墜落や安全帯の重要性などを事前に体験しておくことで、現場での事故を減らすことを目的としている。このシステムもNETISに登録されている。
業界未経験の若手が育つ理由とは
オフィスケイワンではこのほか、橋梁のCIMモデルを3DPDFデータ化して、3Dモデルをいろいろな角度から閲覧したり、無償のPDFリーダーで属性情報を検索・追加したりできるNETIS登録技術でもある「CIM-PDF」というアプリを開発し、橋梁メーカーや建設コンサルタントに販売している。
橋梁分野の仕事は、長年の経験が必要なものと思われがちだが、なぜ、オフィスケイワンでは入社数年の業界未経験スタッフが、これらの最先端業務を行えているのだろうか。
その秘密は、同社の社員育成ノウハウにあるようだ。代表取締役の保田さんは「スタッフには作業プロセスや成果品の標準化を重視した教育を行っています。橋梁の3Dモデルは完成後にその正しさを証明する難しさがあるからです。一方で、入社早々、いきなり橋のダイヤフラム図100枚を3D化してもらうような実践的なオン・ザ・ジョブ・トレーニングも行っています」と説明する。
また、オフィス内での3DモデルやVRの作成だけでなく、建設現場の新技術導入支援で現場に出掛けたり、工場見学などで実物の橋梁や工事現場を自分の目で見たりする機会を作り、自分の仕事がどう役立っているか感じられる場を設けている。さらに展示会へのブース出展やセミナー講演などで、自社の技術や製品・サービスのPRも積極的に行っている。
Nさんは「この会社はわからないことは教えてくれるし、仕事をどんどん任せてくれます。その結果、入社1年後にはクレーンによる橋梁の架設ステップを3Dで検討できるようになりました。女性も働きやすい雰囲気があります」と話す。
また、Fさんは「従来の2D図面は理解するだけでも経験が必要ですが、この会社は3Dでの業務が中心なので構造や工法を早く理解できます」と言う。
橋梁の設計業務というと、以前は難解な図面を読み解いたり、現場に何度も足を運んだりと、高度な専門知識や気力・体力が必要と思われがちだが、最近の3D技術を使った設計やシミュレーションなどの業務は、興味ややる気さえあれば、男女を問わず、他の業界出身者も短期間でプロジェクトの最前線に欠かせない存在になれるのだ。「必要な能力は、周りのスタッフと協力し合える姿勢と、仕事に向き合う誠実さだけです」。
オフィスケイワンでは、建設業界がダイナミックに変化する今、未来の橋梁建設システムを一緒に作り上げていくスタッフを募集している。具体的にはCADオペレーター(AutoCAD経験者歓迎、3D経験不問)、CGクリエイター(3dsMax、PhotoshopなどのCG系ソフトウェア経験者歓迎)、ソフトウェア開発者(C#、ExcelVBA経験者歓迎)などだ。
これまでの経験を生かしたい人、新しいことに積極的に挑戦したい人は、ぜひオフィスケイワンの門をたたいてみてはいかがだろうか。
![]() オフィスケイワン株式会社 〒550-0013 大阪市西区新町1丁目10-2 大阪産業ビル TEL 06-6567-8951、FAX 06-6567-8861 WEBサイト http://www.office-k1.co.jp |