世界遺産の銀山坑道を レーザスキャナで調査
2015年6月29日

世界遺産の銀山坑道を レーザスキャナで調査

詳細な3次元点群データを分析、研究に活用

かつて黄金の国と呼ばれた日本では、最盛期には銀の産出量が世界の銀の1/3を占めていたと言われるほど、多くの鉱山が開発されてきました。何百と言われる坑道が日本の各地に残っていますが、有名なものとしては、2007年に世界遺産として登録された島根県の石見銀山、現在世界遺産登録を目指す新潟県の佐渡金銀山、兵庫県生野銀山、多田銀銅山などがあります。

島根県松江工業高等専門学校の久間教授は、電子制御工学が専門で「人の役に立つロボット」の研究をしていました。そんなとき石見銀山が世界遺産登録を目指す際に坑道調査を依頼されたことがきっかけで、各地に残る坑道をロボットを使用して調査することになったのです。現在FARO Laser Scanner Focus3Dと学生の手作りロボットを使用して、坑道内部の様子をデジタル化、3Dプリンタにて坑道の模型を製作するなど、従来の手法ではできなかった新しい試みを次々に行っています。

南沢疎水坑

<世界遺産登録を目指す佐渡金山、南沢疎水坑>

■ 坑道調査に役立つのは操作が簡単な機器

各地に残る金山、銀山、銅山などの坑道は、歴史的・文化的な価値だけでなく、土木技術的にも価値の高いものも多く残っています。たとえば佐渡銀山の南沢疎水坑は、坑道の水を外へ流すために1691年から5年かけて手で掘られたものですが、現在でもほとんど当時のままの状態が残り、その排水設備は今でも使われています。6か所からの迎え掘で工事を行ったことが日記に書かれており、江戸時代前期の掘削や採掘技術の高さを知ることができる大変貴重な疎水坑道です。

坑道の調査には次ページの写真のようなロボットにFocus3Dを搭載したものを使用、遠隔操作で坑道の奥までスキャンします。このロボットを製作したのは研究室の学生で、バスマットなど身近にある材料を使いました。操作はいたって簡単で、「進む」「戻る」「回る」などのスイッチがプラスチック容器に取り付けてあるだけの単純な仕組みです。久間教授は「調査機器は誰でも動かせることが大切です。現場では時間に追われて作業するため、操作が複雑なものは向いていません。ロボットと同じでFocus3Dも操作が非常に簡単で、スキャン結果がスキルによらず、私が操作しても学生が操作しても同じ結果が得られるので重宝しています」と言います。

南沢疎水坑では約360mの坑道内を2日間で48か所をスキャンし詳細な3次元点群データを取得しました。得られたデータを元に坑道内を再現すると迎え掘のために生じる合流点3か所のうち、1か所がずれている様子も可視化することができました。「現場は暗いし身の危険を感じることもあり、早く作業を終了したいという気持ちが働いてその場では隅々まで目が届きません。坑内をスキャンして3次元点群データにすると、後日ゆっくり解析することが可能となり、目視では見えなかったものも発見できます。」と久間教授はスキャンの利点について述べています。スキャナで取得した3次元点群データの情報を分析して、坑道の断面形状や傾斜、壁面の状態から採掘年代を調査、推定する研究を進めています。

Focus3Dロボット
<学生手作りのロボットにFocus3Dを搭載して坑道をスキャン> 南沢疎水坑スキャンデータ

<南沢疎水坑の点群データ。矢印部分が下流の方が高くなっている様子が可視化>

■ 従来の方法に比べて詳細なデータが簡単に取得可能

久間教授はFocus3Dを導入する前、2次元レーザ側域センサを使用していました。2次元レーザ側域センサでの調査は坑道を輪切りのようにスキャンし、それをつなげていきますが、輪と輪の間は隙間ができ、どのような状態かがわかりません。そこで当初は3次元点群データを取得するために、2次元センサを自作した装置に取り付け回転させながらスキャンしようとしました。しかしうまく3次元点群データを取得することができませんでした。そんな時、展示会でFocus3Dを見て「これは使えるのではないか」と考え、導入することにしたのです。「初めは坑道の周辺地形など周りを測定するのに適していると思って導入しました。3次元点群処理ソフトウェア「InfiPoints」を使えば、地上の木々などが一度に排除可能で、地面検知が簡単にできます。目で見てもわからなかった地形や石組みなども詳細に調査することができるのです。そこで試しに坑道でもスキャンを試みたところ、坑道の中も詳細な3次元点群データが取得でき、今では調査に欠かせないものとなりました」と久間教授は言います。

 

樹木除去データ
<点群活用ソフト「InfiPoints」を利用しての地面検知>ある造成予定の坑道では、調べているうちに遺構がたくさん発見され、それを記録するために初めはスケッチなどの人力による手法で調査を進めていました。しかし造成地域では工事が始まるまでの調査期間が厳しく決まっているため、決められた期限までに調査が全部終わらないとの調査者の依頼で、久間教授がFocus3Dを使ってスキャンして3次元点群データにて現状を保存したこともありました。「スキャナは確かに安価ではないけれど、スケッチに必要な時間や人件費を考えたら導入の価値は十分あります。さらには、スキャンは短時間で終わるので、期限が決まっていても十分な調査が可能なことも利点です。」

多田銀山
<多田銀銅山、差組地区での石段のスキャン> 多田銀山 肝川地区 アイソメ図
<石段の上面の様子。木を除去すると石段がはっきりわかる> 麓金山

<麓金山坑道調査。1700mの山へFocus3Dを持ち運び、測定>

■ 保全目的での3 次元点群データの活用も可能に

スキャナで取得した3次元点群データは、坑道の研究以外に保全目的で活用できる場もありそうです。たとえば山に埋設されている暗渠管は排水のために埋めてありますが、スキャナで中を調べてみると詰まっていたり楕円に変形しているものもあるということでした。つまりがひどければ排水機能が低下して事故につながりますし、変形していれば山の形状に変化があり土砂災害の危険があるかもしれないということが推測できます。また、大雨で起こる土砂災害も、突発的に起こったのではなく、定期的に山を測量し調査していれば、少しずつ山の形が変わって災害が起こったことがわかるのではないかと久間教授は考えています。「3次元スキャナを使って地形を定量的に調査することで、起こるかもしれない危険性を把握し、災害を未然に防ぐことができるのでは、と考えます。そういったシステムの開発をぜひやってみたい」と新しい研究に意欲を見せています。

詳しくは、FAROのウェブサイトで。

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