三井住友建設が点群データから橋桁断面寸法の自動検測
2019年10月28日

三井住友建設が点群データから橋桁断面寸法の自動検測 FAROレーザースキャナーで施工管理を効率化

三井住友建設が点群データから橋桁断面寸法の自動検測<br />FAROレーザースキャナーで施工管理を効率化

三井住友建設株式会社(以下、三井住友建設)は建設中のコンクリート橋の端面を3Dレーザースキャナー FARO FocusS 350で計測し、点群データから橋桁の寸法を検測する「構造物の出来形自動検測システム」を開発しました。その結果、1断面当たりの計測時間は従来から約半減と、大幅に短縮されました。三井住友建設の、小型で軽量なFocusS 350の特長を生かした施工管理の方法を紹介します。

点群から出来形図面や報告書を自動作成

「FocusS 350で橋桁の端面を計測した点群データを読み込ませるだけで、橋桁断面の出来形図面や報告書が自動作成できるようになりました。」こう語るのは、三井住友建設 技術本部構造技術部土木構造技術グループ 課長の藤岡泰輔氏です。

三井住友建設が得意とするプレストレスト・コンクリート橋(PC橋)の施工では、橋を支える橋脚の両側に橋桁を伸ばしていく「張り出し架設」と呼ばれる施工方法がよく使われています。

橋桁は通常3~5mの長さを1つのブロックとし、移動式の型枠を使って空中でコンクリートを打設しながら作っていきます。橋桁の厚さは橋脚からの距離に応じて徐々に薄くなっていくので、断面形状が設計通りになっているかどうかをブロックごとに計測する「出来形管理」が重要です。

「従来の方法は、2人の測定者に撮影者、記録者、発注者が5人1組になってメジャーテープで各部の寸法を測っていました。この方法だと1断面当たり約45分の人工がかかっていました。しかし、今回開発したシステムだと、現場での計測時間は1断面当たり20分の人工と大幅に短くなりました」と三井住友建設 土木本部土木工事管理部ICT・CIM推進グループ グループ長の水田武利氏は述べています。

計測対象となる橋桁端面の形状

(左)計測対象となる橋桁端面の形状 (右)張出し架設によるコンクリート橋の建設現場

FocusS 350を横向きに設置して計測

橋桁端面の計測は、打設したコンクリートが硬化し、端面の型枠が外されたときに行われます。FARO FocusS 350を、橋桁前方の上部、下部の左側、右側の計4カ所に順次据え付け、橋桁ブロックの端面を点群計測します。ここで課題となるのは、上部左右の2点からの計測です。通常の三脚を使うと、橋桁の下の方が“死角”に入ってしまい、計測できません。

「そこでFocusS 350の軸を90°横向きにして計測する方法を思いつきました。重力センサーをオフにすることで、横向きでも問題なく計測できます。小型・軽量のFocusS 350ならではの使い方ですね」と三井住友建設 技術本部構造技術部土木構造技術グループ主任の高岡怜氏は説明します。

横向きに設置することで計測時に死角が出ないようにしている

奥に見える橋桁の端面を点群計測中の「FocusS 350」。横向きに設置することで計測時に死角が出ないようにしている

橋桁の周囲には、複数箇所に「基準球」を設置し、4カ所で計測した点群データを1つに合成する際の目印としています。最適な角度からスキャンを行うため、上部FocusS 350を空中梁に横向きに設置します。その際、近くに足場がない場合は、タブレット端末からの遠隔操作が行えるので安全に作業することができます。

橋桁前面の上部、下部の左右1~4の場所にFocus S 350を据え付け、点群計測を行う

橋桁前面の上部、下部の左右①~④の場所にFocusS 350を据え付け、点群計測を行う

橋桁上部からの点群計測

橋桁上部からの点群計測。FocusS 350を横向きに取り付け、点群を合成する基準球を設置

橋桁下部からの点群計測。Focus S は通常の三脚に据え付けて計測

橋桁下部からの点群計測。FocusS 350は通常の三脚に据え付けて計測

タブレット端末から遠隔操作できるので安心

アクセスしにくい場所に設置したFocusS 350は、タブレット端末から遠隔操作できるので安心

計測・合成した点群データ

計測・合成した点群データ

ハード、ソフトは機能性を追求して選定

まず、数ある3Dレーザースキャナーの中から、三井住友建設がFARO FocusS 350を選んだ理由を高岡氏は次のように説明します。「これまで使用していた3Dレーザースキャナーは、サイズが大きくて重いため、狭い現場内で場所や縦横を変えて何度も据え付けるのはほとんど不可能です。その点、FocusS 350は小型・軽量で、価格も手ごろのため、現場のツールとして使いやすいのです。350m先まで計測できる能力を持ちながら、10m先での計測精度が±2mmと高かったのも、選定の理由となりました。」

点群取得したあとで、目的を果たすために重要となるのは、ソフトウェアでの点群データ処理です。三井住友建設では、計測した点群データを処理して、図面化するために、株式会社エリジオンの大規模点群処理ソフト、InfiPointsを使用しています。高速、高精度で複数の点群データを自動合成するほか、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソフトとシームレスに連携する機能や、特定の処理を外部から呼び出し自動実行する機能など、柔軟な使いやすさが特長です。

橋桁の出来形管理では、橋桁端面での頂点やエッジを基準にして長さ計測をします。そこで三井住友建設では、レーザースキャナーで得られる点群データを使って長さ計測が可能な、InfiPointsのオプション機能となる「SMC-スマートメジャー™」を開発しました。

InfiPointsは点群データから平面などの要素を自動認識し、「面」として自動的に3Dモデル化する機能を持っています。この機能を使って橋桁の端面を輪郭としてモデリングし、特別に開発したプログラムで処理することにより、面の交点座標や各点間の距離が自動的に求められます。

FocusS 350をはじめ、FARO FocusSシリーズの3Dレーザースキャナーは、対応アプリを開発するためのSDK(ソフトウェア・デベロッパー・キット)が公開されているので、ユーザーが独自のアプリを開発しやすくなっています。

3Dレーザースキャナーならではの機能と拡張性

点群データを取得するその他の手法には、デジタルカメラでステレオ撮影した写真を解析し生成するシステムがあります。

しかし、「今回のように橋桁の端面から多数の鉄筋や、緊張ケーブルを通すシースなどが突出し、障害物が多い場合は、写真計測では数百枚におよぶ撮影が必要となります。その点、FocusS 350など3Dレーザースキャナーを使うと、数カ所の計測で一度に大量の高精度な点群データを取得できます」と、水田氏は3Dレーザースキャナーのメリットを述べ、続いて「現場を3Dレーザースキャナーで計測し点群データを取得しておくと、鉄筋の本数や橋桁の奥まった部分の形状も記録できるので、後からいろいろな部分の出来形を確認できるというメリットもあります。近い将来、現場の点群データをバーチャルリアリティー用のゴーグルで見ることで、立ち会い検査を遠隔地から行うという働き方改革も実現できるのではないでしょうか」と将来の展望を語ります。

点群データから橋桁の輪郭を抽出し、指定した位置の距離を自動計測する

点群データから橋桁の輪郭を抽出し、指定した位置の距離を自動計測する「SMC-スマートメジャー™」機能

点群データを入力すれば、報告書までを自動作成できる

点群データを入力すれば、報告書までを自動作成できる

詳しくは、FAROのウェブサイトで。

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