今回は、ものづくりのデジタルエンジニアリングとDXの代表として取り上げられるCADから見る、DXの先について考えてみます。キーワードは、「クラウド」です。
さて、製造業だけではなく、さまざまな現場で使われるようになった「クラウド」ですが、具体的にはどんなものなのでしょうか。
1. クラウドって何だろう
クラウドとは、「雲(英:cloud)」のことですが、これがコンピュータやインターネット回線上先にあるソフトウェア・システム・ハードウェアなどを利用する仕組みを指すIT用語として使われるようになりました。頭では理解していたものの、“実体はあっても、モヤモヤしてつかめないもの”で、私にとっても、ITのクラウドが登場し始めたときは、そのようなイメージでした。
そうはいっても、Google社のGmailのように、パソコンにソフトウェアをインストールしなくても、アカウントさえあればすぐ使用することができるサービスや、Apple社のi-cloudもクラウドサービスです。私たちは気づかないうちに、このクラウドサービスを利用していました。
ネットショッピングの代表のAmazonは、AWS(Amazon Web Service/アマゾン ウェブ サービス)というクラウドサーバーの企業を保有していますが、これは世界で最も広く採用されているクラウドサービスのプラットフォームといわれています。
ただ、これだけの話では、「インターネットの先にサーバーが置かれているのと何が違うの?」と感じる人もいることでしょう。外部にサーバーを置く場合に「データセンター」がありますが、このデータセンターとクラウドサービスを比較してみましょう。
サービス | サービスの内容 |
データセンター | サーバーなどのIT機器を、設置して管理・運営する物理的な施設 |
クラウドサービス | IT機器や、開発環境、アプリケーションなどを、インターネットを通じて仮想的な環境を提供する |
データセンターは「物理的な施設」で、クラウドは「仮想的な環境とその概念」といえばよいでしょう。
いずれも、これまで一般的に運用されてきているオンプレミス(英: on-premises)といわれるサーバーやネットワーク機器、あるいはソフトウェアなどを自社自前で保有して運用するシステムの利用形態に対して次のようなメリットがあります。
メリット | デメリット | |
オンプレミス |
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データ |
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クラウドサービス |
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私もサーバー管理やクライアント管理の経験がありますが、日常的な管理やOS(オペレーションシステム)対応など、専門的にIT管理部門を置くことのできない中小企業ではその負担は少ないものではありませんでした。
今では、BCP(英:Business Continuity Planning)の考え方も、私たちが経験したパンデミックや、ここから得た働き方改革によるテレワークとしてのクラウドサービスの利用が、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術を活用したコミュニケーション)を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方として定着していくのでしょうか。
製造業のDXの“ありかた”は今後どうなっていくのでしょう。
2. 完全クラウド型3D CAD「Onshape」を使ってみた
PTC社のOnshapeはSaaS型製品開発プラットフォームといわれる、完全にクラウド上で運用できる3D CADです。完全といわれるのは、設計に必要な作業のすべてをクラウド上で完結できることにあります。演算処理はすべてクラウド上で行なわれ、高スペックなワークステーションや最新の OS を用意する必要がないというのが大きな特徴になります。
ここで登場したSaaSというのもわかりにくいかもしれませんが、次のような意味があります。
SaaS(英:Software as a Service/サービスとしてのソフトウェア)
クラウドサービスとして提供されるソフトウェアのことをいいます。クラウドサービスとしてクラウドサーバー(ベンダー側)に置いたソフトウェアをユーザーがブラウザ経由で利用します。 |
今回は株式会社エービーケーエスエス 平井武司様のご協力により、このOnshape(トライアル)を試してみました。
① 設定作業
さて、「PCにインストールを」とまずは考えますが、当然のことながらクラウドサービスなのでこの作業はありません。使用する単位系やマウス操作の初期設定、プロフィール登録やブラウザチェックを行うだけです。
拍子抜けするくらい、短時間の作業です。
② 基本的な操作を確認してみた
Onshapeは、フィーチャーを持つヒストリー型の3D CADです。SOLIDWORKSに慣れ親しんでいる私としては、驚くほどに、迷うこともなくオペレーションができました。
細かな操作や名称の違いはあるものの、デスクトップ版のSOLIDWORKSにとても似ています。似ているだけではなくて、操作性はさらに合理化されているとも感じました。
Onshapeの設立者は、Jon Hirschtick(ジョン・ヒルシュティック)氏です。Hirschtick氏はSolidWorks Corporationの設立者です。Dassault Systèmes Solidworks社を去った後、現Onshape社を設立したFounder(創業者)で、さらにDassault Systèmes Solidworks社のCEOを務めたJohn McEleney(ジョン・マクエレニー)氏もCo-Founder(共同創業者)になっています。
※2019年11月にOnshape社はPTC社に買収されています。
このような人たちによって作られたCADには、その人たちのポリシーを感じるとともに、だからこそ、その操作性とその向上の理由があるのでしょう。
③ ファイルの保存がない?
基本操作を確認してファイルの保存をしようと思ったのですが、そのアイコンがないのです。どこにいってしまったのか。
調べてみると、「操作の都度、保存されている」というイメージです。自動的にすべての変更を保存しているので、ユーザーが保存するタイミングを意識する必要がありません。
ユーザーが行った変更内容は、すべてドキュメント内に記録され、過去の状態をいつでも呼び出して利用できます。この内容は行PDM(Product Data Management)3D CADデータ管理につながるものです。
3. まとめ
Onshapeは、PDM機能を内蔵されています。リビジョン管理や複数のバリエーション管理が、別のPDMシステムを使用しなくても可能です。簡単にいえば、「CADだけで、改訂履歴・版管理や派生するデータ管理が可能」ということです。
これらは製品の特長ですが、今回テーマとなるクラウドについていえば「クラウド」といわれる仮想空間の設計室で仕事をして、その空間にあるデジタル書庫にデジタル図面が保存されていて、さらには、現実世界でも課題になる改訂履歴やバージョン管理でさえ、この空間の中でできているといえばわかりやすいでしょうか。これこそ、「クラウド」だといえるかもしれません。
次回はOnshapeからみたアセンブリ設計について、「チーム設計はどうなるのか」というお話をします。(次回に続く)