今回は降雨(雨じまい)解析の事例紹介です。
風に関連する問題として、降雨時の雨の吹き込みがあります。 雨よけの屋根を設置した場合、無風時には十分雨をしのげても、風のある時にはその場所がびしょ濡れになる事があります。 これは周辺の建築物によって起こるビル風のためですが、強風の時などは尚更ひどくなります。
WindPerfectでは、このような降雨時あるいは降雪時の風による雨の挙動を調べる事が出来ます。 元々は、クリーンルームや製造系工場での塵埃の挙動を調べるためのテクニックですが、塵埃や雨滴は風の通りには動きません。 塵埃や雨滴には質量があり、周辺の流れから力を受けてもすぐには動きが変わらないからです。
ではどのくらい塵埃や雨滴の動きは流れからズレるのか?
流れの中に置かれた物体には重力と抗力が働きます。 その両方の力を塵埃や雨滴の挙動を計算する過程に組み込めば、塵埃や雨滴がどのような動きを示すかは容易に予測できます。 この予測には、塵埃や雨滴を粒子として追跡する方法と、濃度(塵埃や雨滴の数密度)として移流拡散で取扱う方法の2種類があり、WindPerfectではその両方を利用する事ができます。 この予測は積雪(雪じまい)のシミュレーションにももちろん有効です。
詳しくは、環境シミュレーションのウェブサイトで。
◆降雨(雨じまい)解析1
http://www.env-simulation.com/jp/?p=4550
ここでは図1・図2のような、A,B,Cのビル群に取り囲まれた大屋根(赤色
破線)への雨の降り込み状況を予測します。 風向は冬季と夏季の卓越風であ
るNEとSSWを想定し、上流側から雨滴発生(雨が降る事)を設定し、ここで起
こるビル風による雨滴群の挙動を予測します。
風向NEでは南側に位置するビルCによる逆流の影響で、大屋根下には南向き
の風が起こり、雨もその方向から降り込むのが観察出来ます(図5~8参照)。
一方、大屋根の北東側からはビルの離隔距離の小さい所で風が速くなってお
り、雨はやはりその方向から強く降り込みます。 両者を同時に防ぐ対策は難
しいですが、植栽を雨の降り込む場所に植えるなどの対策が考えられます。
風向SSWではビルAとCの間に谷間風が起こり、風速が速くなっているのが分か
ります。 その影響で大屋根南西からの雨の降り込みが多く発生すると予測出
来ます。 この場合は雨の降り込む領域が大きいので、配当計画の変更や防風
柵の設置など、根本的な対策が必要かも知れません。
◆降雨(雨じまい)解析2
http://www.env-simulation.com/jp/?p=4557
本解析では、屋根付き連絡通路の雨じまい対策を取り扱います。 図1のよ
うな、A~Dの4つのビルに囲まれた敷地内に敷設された連絡通路で、図2のNNE,
NNWの2つの風向で降雨シミュレーションを行います。 設定する風速について
は、通常の運用での雨じまい対策を考えるためなので、台風など強風時ではな
く再現頻度の高い通常の気象データをベースとします。
解析結果ですが、風向NNEではビルAとCの間での谷間風の影響で、連絡通路東
側に雨の降り込む箇所が見受けられます。 また、風向NNWではビルAとBの間で
の谷間風の影響で、連絡通路の西側半分のほとんどで雨の降り込みがある事が
分かります。 風向NNEよりNNWの方が雨の降り込む領域が大きくなっているの
は、連絡通路風上の谷間風の起こっている領域がNNWの方が大きく、雨の降り込
む量も大きいからです。 本件の場合は風上側に植栽を多く配置して風を緩和
する事が有効と考えられます。
降雨も降雪も、粒径によって挙動が大きく異なるのは注意して頂きたいとこ
ろです。 特に雪の場合は、日本海側のボタ雪(牡丹雪)と、岩手・青森などの
アスピリンスノー(粉雪)では、見かけの比重がかなり違うので、その取り扱い
には十分慎重を期すべきでしょう。