ソフトバンクは高精度な測量が可能な「RTK-GNSS」 に使われる「補正情報」などを提供する高精度測位サービス「ichimill(イチミル)」を提供している。誤差はわずか数センチメートルという高精度にもかかわらず、使用料は月額数千円と驚きの低価格だ。測量機器の販売商社、神戸清光(本社:兵庫県神戸市)の技術営業担当がドローンや3Dレーザースキャナーによる点群計測で、ichimillの実力を徹底検証した。
ソフトバンクが全国3300カ所以上に基準局を設置
高精度測位サービス「ichimill」とは、土木工事などで使われる、グローバル座標系での高精度な測量や制御を行う「RTK-GNSS」の補正情報などを提供するサービスだ。2019年11月に補正情報の配信が始まった。
ソフトバンクは、自社の携帯基地局の場所を活用し、位置が分かっている基準局(以下、独自基準点)を、全国3300カ所以上に設置している。国土地理院の電子基準点は約1300カ所なので、それに比べるとかなり高密度だ。
独自基準点で受信したGNSSの信号をもとに生成した補正情報は、ソフトバンクをはじめ、携帯電話各社のネットワークやインターネットを通じて利用できる。
また、広範囲に移動しながら次々と基準点を切り替えていく「ハンドオーバー」という仕組みを利用して、高精度な測位を継続して行えるのもichimillの特長だ。
RTK-GNSS測量を行うためには、現場に既知点となる自前の基準点を設置する方法もあるが、設置や調整に1時間はかかるのが難点だった。
「その点、ichimillはインターネットが使える場所なら、どこでもすぐにRTK-GNSSが使えるので、”手待ちのムダ”がありません」と、i-Construction対応工事などで測量や施工のサポートを行う神戸清光の代表取締役、走出高充氏は語る。
補正情報の配信料は月額でわずか数千円とリーズナブルだ。ICT建機などでの利用では、RTK-GNSS受信機とソフトバンクのSIMがセットになった、サービス一体型のGNSS受信機も用意されている。
「料金が安いので、ドローン測量やICT建機など、様々な作業に使用するため複数の契約を行う建設会社も珍しくありません」(走出氏)という。
その精度や使い勝手はどうなのか。神戸清光の技術営業担当がドローン測量や3Dレーザースキャナーによる点群計測で検証した。
ichimillで対空標識の設置が不要に
まずはドローン(無人機)による写真測量だ。これまで一般的に使われてきた「SfM」という写真測量ソフトでは、それぞれの写真を撮影したときのドローンの位置を逆算するために「対空標識」というマーカーをいくつも地上に設置し、その位置を測量しておく必要があった。
その点、ichimillを使うと、写真撮影時のドローンの位置が正確にわかるので、対空標識を設置する必要がなくなるのだ。
「対空標識の設置や事前の測量があると、ドローン測量も丸1日かかってしまうことも珍しくありません。ichimillを使うと、現場の作業はドローンを飛ばすだけなので生産性が大幅に高まります」と、岡本氏は語る。

ichimillの補正情報などを送受信するための「SIM」は、コントローラー裏側下部にあるUSBドングルの中に入っている。どこの携帯会社のSIMでも使える 。ドコモ、ソフトバンクのSIM推奨、auの通信方式にはドングルが対応していない
ICT土工の施工管理には十分な精度を実証
ドローンユーザーとしては、対空標識なしでichimillを使った場合、どのくらいの精度が出るのかが気になるところだ。
そこで神戸清光は、兵庫県小野市に自社が所有する小野トレーニングセンターで、実際にichimillとRTK-GNSS対応のドローン「DJI Phantom 4 RTK」を使って測量を行い、精度を検証した。
飛行練習場に合計5カ所に目印となるターゲットを置き、合計5回の飛行によるドローン測量の結果を、XY座標についてトータルステーションで計測したのだ。
「その結果、平均誤差は水平方向だとわずか1cm程度となり、ichimillの精度が非常に高いことが分かりました」と岡本氏は評価する。
同社ではさらに、ichimillの補正情報を、トプコンソキア ポジショニングジャパンの世界最小・最軽量マルチGNSS受信機「GCX3」に適用してトータルステーションとの誤差を計測した。
補正情報のデータは、ハンドオーバーの有無や使用する衛星の種類によって複数のフォーマットがあり、受信機で「マウントポイント」を選択することで使い分けられるようになっている。
前述のドローンの精度検証では「RTCM32MSM5」を使ったが、この検証ハンドオーバー有り/なしを含め、すべての衛星システムを使用する合計6種類のマウントポイントを使って、1回ずつ計測し、精度を検証した。

ichimillで使える8種類のマウントポイント。ハンドオーバーの有無や使用する衛星などによって異なるマウントポイントが用意されている。準天頂衛星の「QZSS」や中国の「Beidou」など使える衛星が多いので、山間部や市街地でも位置をFIXしやすい
6種類のマウントポイントを使った全ケースの平均誤差は、水平方向が1cm以内となった。ICT土工などの施工管理には十分な精度と言えるだろう。
●ichimillを使ったドローン測量の誤差まとめ (単位はmm)
使用機器 | X方向 最小~最大(平均) |
Y方向 最小~最大(平均) |
DJI Phantom 4 RTK | 1~29(12.2) | 1~17(6.3) |
GCX3(6MP全部) | 0~19(7.6) | 1~23(9.2) |
GCX3(1MPのみ※) | 0~10(6.0) | 0~10(6.0) |
※DJI Phantom 4 RTKでの測量に使用したのと同じマウントポイント(RTCM32MSM5)を使った場合
写真計測とLiDAR計測の点群同士を合体
神戸清光の技術営業担当は最近、注目を浴びているドローン用のLiDARでも、ichimillによる補正情報を利用しながら点群計測を行った。
使用したドローンは、やや大型の「DJI Matrice 300 RTK」だ。バッテリーで飛行するが、最大飛行時間はナント、55分にも上る。
そして、LiDARは航空測量用に開発された「ZENMUSE L1」だ。Livox社製のLiDARモジュールと、RGBカメラを搭載し、飛行しながら毎秒24万点の速さで色付きの点群データを取得することができる。推奨される高度は50 m~120 mだ。
にもかかわらず、価格は約500万円と、従来のドローン用3Dレーザースキャナーに比べるとひと桁安いのも特長だ。
先ほどの精度検証に使用したドローン「DJI Phantom 4 RTK」で撮影した写真をもとに作成した建物の点群データと、このLiDARで計測した点群を重ねてみたのだ。
その結果、驚くべきことが起こった。手動による点群同士の位置合わせなどは全く行わないにもかかわらず、両者の点群はピタリと一体化したのだ。
密集する商店街の点群計測を可能にしたichimill
神戸清光は2022年2月5日、地元の土地家屋調査士会とともに大阪府東大阪市の近畿大学キャンパス前にある近大前商店街で、地上型3Dレーザースキャナー点群計測を行った。
近畿大学前から商店街を通り、近鉄・長瀬駅までの約1kmにわたる計測のため、何カ所も場所を変えて計測した点群データを一つにまとめる必要がある。
そこで、各点郡データをグローバル座標系に合わせるために、トプコン・ソキア ポジショニングジャパンのRTK-GNSS受信機「GCX3」とichimillを使ったのだ。

RTK-GNSS受信機「GCX3」(左写真)でichimillの補正情報を受信しながら、点群を合わせるマーカーの位置(右写真、黄色の矢印)をグローバル座標系で計測する作業。ichimillは対応する衛星の種類が多いため、建物にもじゃまされることなくスピーディーに作業が進んだ
この作業は、常に人通りが多い環境のため、スピーディーに行う必要があった。そこで威力を発揮したのは、ichimillが日本の準天頂衛星(QZSS)や中国の「Beidou」まで、数多くの衛星に対応していることだった。
「道の両側は建物が立ち並んでいるため、衛星からの電波を受信できる上空は少ししか開いていませんでしたが、ichimillは様々な衛星からの電波を利用できるため、スムーズに計測が行えました。よく使われている別の補正情報サービスは、使えませんでした」と神戸清光の技術営業担当、岡本勝彦氏は振り返る。
ichimillが実現する“グローバル座標系マッシュアップ”
ichimillの用途は、ドローンや地上型3Dレーザースキャナーのほか、スマートフォンを使って点群計測を行う測量システムや、3Dデータに基づいて造成や地盤改良などを行うICT建機、さらには無人建機の自動運転など、建設分野だけでも数多い。
全国を対象に整備されたグローバル座標系を使うことで、別々の工事で作成された測量データなどを一元管理できるほか、この座標系によって作成されたBIM/CIMモデルや施工用データを同じ座標系に基づき、建物や土木構造物として現場に実現できる。
他の構造物との接続や干渉防止も、高精度のグローバル座標系を使うことで位置合わせの手間がなくなる。
様々な情報を統一された座標系で統合する“グローバル座標系マッシュアップ”は、これからの社会インフラの設計、施工、維持管理の生産性を向上させる大きな力となるだろう。それを手軽に実現できるのが、ichimillなのだ。
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