大林組と東京大学からなるコンソーシアムは、トンネルの断面を簡単に高精度で計測できる装置を開発した。「光切断法」と呼ばれる手法をトンネルに応用したもので、これまで高所作業車を使い3~4人がかりで10分以上要していた計測を、1人、約5秒で行えるようになり、高所作業車も不要になった。装置は四足歩行ロボットやドローン(無人機)にも搭載が可能で、さらなる生産性向上が期待できる。
10分かかった計測が5秒に短縮
2022年3月11日、広島市内で建設中の安芸バイパス久井原トンネル建設現場では、大林組と東京大学のコンソーシアムによる「光切断法を用いたトンネル現場の3次元計測」の現場公開が行われた。
トンネル壁面には、大きくスライドが映し出され、発注者の国土交通省中国地方整備局などの工事関係者が数十人集まった。
現場でプレゼンテーションを行った大林組生産技術本部 先端技術企画部 技術第二課副課長の吉田健一氏は「光切断法をトンネル計測に利用した結果、これまで高所作業車を使い3~4人で10分かかっていた出来形の計測作業が、1人だけでわずか5秒で行えるようになり、高所作業車も不要になりました」と、語った。
山岳トンネルの工事は機械化が進み、土木工事の中でもここ数十年の間に労働生産性がひときわ高まっている。一方、トンネルの掘削や覆工コンクリートが設計寸法通りに行われたかどうかを確認する「出来形計測」は、高所作業車やメジャーを使って3~4人で行い、手作業で記録するアナログ的な手法が、いまも行われているのが現状だ。
しかも、計測するのは幅と高さだけ、トンネル内面の形状までは計測しないため、トンネルの断面で構造物の存在が許される「建築限界」とトンネル壁のクリアランスが最小になる左右の肩部にどれだけ余裕があるのかといったことは、確認できないといった課題もあった。
こうした課題を解決するため、ノンプリズムタイプのトータルステーションや、3Dレーザースキャナーを使った出来形計測方法も提案されている。
しかし、トータルステーションは1人で計測できるものの数点の計測にとどまり、計測する断面ごとに設置する必要がある。また3Dレーザースキャナーも点群データを取得してから断面の寸法を出すまでの手間が膨大となり、現行の計測方法の方が簡単といった、新たな問題も出てくる。
光切断法とは
こうしたトンネル出来形計測の課題を解決するため、大林組と東京大学のコンソーシアムが採用したのが「光切断法」という手法だった。
「トンネル内面にリングレーザーを照射し、離れた場所から超広角カメラでレーザー光の角度を測り、三角測量の原理で瞬時に出来形計測が行えます」と、東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻准教授の山下淳氏は説明する。
コンソーシアムがまず、開発したのは三脚式の計測装置だ。長さ約1.3mの基準台の先端にリングレーザー装置を取り付け、反対側に画素幅1万ピクセル以上の魚眼レンズ付き高解像度デジタルカメラを取り付けた。
リングレーザーが照射された点とカメラの仰角は、ソフトウェアによる画像解析で求めるため、断面の各点の座標を無数に計測できる。今回は2000点の座標でトンネル内面を記録できるようにした。
また、レーザー光の照射部分を鮮明に抜き出すため、レーザー光のオン/オフを繰り返し、両者の画像の差分を取ることによって、照明の明るさなどの影響に左右されない計測が可能になった。
久井原トンネルの二次覆工の表面で計測した結果は、ほとんど設計図と一致していた。
「断面形状を細かく計測できるので、建築限界とトンネル内壁のクリアランスが最小になる左右肩部の余裕も定量的にわかるようになり、出来形管理が高度化しました。また可視光レーザーを使っているので、今、どこの位置を測っているのかがよくわかり、現場の施工管理業務でも使いやすいです」(吉田氏)。
光切断法はもともと、工場で小さな機械部品の計測などを行うのに使われていた手法だ。それがトンネル現場での出来形計測に使われるようになったきっかけは、2018年10月に東大大学院工学系研究科の「i-Constructionシステム学」という寄付講座が設置されたことだった。
山下准教授は「光切断法は初め、建設業とはあまり関係がありませんでしたが、寄付講座を通じてi-Construction関係者とのつながりができ、山岳トンネル現場での活用についての検討が始まりました」と振り返る。
今回のプロジェクトは、国交省が令和3年度に実施した「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」(PRISM)の一環として、大林組と東京大学がコンソーシアムを組んで取り組んでいる。
「同じ光切断法でも、建設現場は、気温や湿度などの環境が安定しておらず、計測する対象物も大型です。工場とは違った難しさがあります」と山下氏は言う。
四足歩行ロボットやドローンに搭載可能
三脚式の計測装置は、複数の断面を計測する場合、その都度、計測地点に三脚を移動し、据え付け直す手間がある。そこでコンソーシアムは、この装置を小型化し、四足歩行ロボット「SPOT」やドローン「DJI Matrice」に搭載して移動計測が行えるようにした。
四足歩行するSPOTは、段差やわだち、障害物も難なく乗り越えて、人間の速足程度で移動する。そのため、三脚式に比べるとさらに生産性が上がる。
「一度、充電すれば半日は動きますし、途中でバッテリーを交換すれば一日中、作業できます」と吉田氏は説明する。久井原トンネルの二次覆工の表面で、トータルステーション(ノンプリズム方式)とSPOTに搭載した装置による計測結果を比較したところ、誤差の平均は約19mmだった。
さらに装置を小型化してドローンに搭載し、飛行しながらの計測も行った。その後方にもう1機のドローンをホバリングさせて2つの断面を計測していく状況を定点観測することにより、計測リングの軸方向距離も算定する試みも行った。
「SPOTやドローンに搭載するタイプは、リングレーザーの出力が小さく、カメラとの距離も短くなるので、三脚式に比べるとやや精度が劣ります。しかし、連続的に細かいピッチで計測や記録が可能になるので、将来的には3Dレーザースキャナーのように断面形状を3次元の点群で記録できるようになる可能性もあります」と山下氏は語る。
このほか、手作業で行っている巻立てコンクリートの厚さ管理を省力化することも期待できる。吹き付けコンクリート施工後の一次覆工の形状を光切断法で計測し、二次覆工の型枠となるアーチセントルとの差分を取ることで、自動的に巻厚を計算するものだ。
2022年度は製品化に向け、さらに前進
今回、大林組と東大のコンソーシアムが開発した光切断計測装置は、実験の都度、組み立ててキャリブレーション調整を行っているため、精度がばらつきやすいなどの課題がある。
そこで2022年度は、計測装置を「製品化」することを目指す。具体的にはコンソーシアムのメンバーに、製品開発や試作を得意とする日南(本社:神奈川県綾瀬市)も加えて、PRISMプロジェクトの募集があれば継続してこのプロジェクトを応募する方針だ。
製品化には、カメラやレーザーの仕様選定やソフトウエアの開発で、数年はかかると思われる。
「製品化が実現すれば、現場でのキャリブレーションは必要なくなり、いつでも安定した精度で出来形計測が行えるようになるでしょう」と山下氏は将来を展望する。
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