「スタラボ」にマサキ1 級建築士事務所の導入事例記事を公開
2021年3月8日

BIMは2D図面を作るためのツールではない。だからまず、3Dモデルをしっかり作り込む。

香川県高松市のマサキ1級建築士事務所は、その名のとおり一級建築士の正木孝英氏が主宰するアトリエ事務所である。1992年の開業当初は施工図作成が中心だったが、顧客の声に応えて意匠設計へ業務を拡大。個人住宅から商業施設、倉庫、工場施設、またマンションの大規模修繕まで、ジャンルを問わず多様な建築物を任され、自身を含めて3名という体制で年間3~4棟の意匠設計を請け負い、代願業務も毎年数件行っている。早くから設計3次元化に高い関心を持っていた正木氏はBIMの導入も積極的に推進。現在ではほぼ全ての設計業務をGLOOBEによるBIM設計で行っている。だが、そんな正木氏にも設計3次元化の過程で幾度かつまずくこともあった。ここではあえてその「つまずき」を含め、正木氏のBIM化への取り組みを振り返っていただいた。

3D化・BIM化を目指す試行錯誤の果てに

 「1992年の開業当初から2D CADを導入していましたが、ある頃から、3D CADを始めさまざまなソフトウェアに興味を持ち始めました」。実際、その当時から正木氏は業務の傍らさまざまなCADベンダーのWebサイトを調べ、新製品の試用なども積極的に行っていた。中でも特に注目していたのが3D CADだったのである。
「そもそも建物が立体物なのに、それを2次元の図面で描いて他人に伝えようなんて難しすぎる──実はずっとそう思っていました」。だからこそ模型を作りアイソメを描いて、プレゼンテーションや打ち合わせを行っていたわけだが、それだけではどうしても伝えきれないことも多かった、と正木氏は言葉を続ける。
「結局は伝えきれぬまま、現場合わせが必要になってしまうわけです。3D CADならそんなこともなくなるのではないか、と期待していました」。そんな思いが徐々に募った正木氏は、開業した事務所が創業1周年を迎える頃、数十棟規模の代願業務が決まり、さらなる業務効率化が必要になりました。そこでこれを機に3次元化を図り効率化を進めようと考え、ある3D CAD製品の導入を決めました」。だが、結果的にこの挑戦は失敗だった、と正木氏は苦笑する。当時まだツールとして未成熟だった建築系3D CADは製品の機能も不十分で、正木氏が望む使い方ができなかったのである。
「おそらく、当時の私のCADスキルも不足していたのでしょう。やりたいことが全くやれず、3D CADの導入は挫折してしまいました。その後、当時登場したばかりだったフリーウェアの2D CAD、Jw-cadを導入することにしました」。いったん乗り換えた3Dから2Dへ──とは思いがけない方向転換だったが、当時はハードもソフトも非常に高価だったため個人事務所にこれ以上の設備投資は難しかった。そのため、ソフト自体が軽くて、ハードウエアもそれほど高い性能を必要としない、2D作図に特化したJw-cadがフィットしたのである。
「そこからしばらくはJw-cad主体に業務を続けました。もちろん3次元設計はずっと気になっていましたが、やはり最初の失敗が響いて、なかなか踏み切れずにいたのです」。それでも、正木氏は忙しい設計業務の傍ら3Dソフト探しを続けていた。2014年頃には「BIM」という新しいトレンドにも触れ、海外製BIMソフトを導入しかけるところまで行った。だが、結局はこれも事情があってキャンセルとなり、さらに別の海外製BIMソフトや2.5次元CADに触れるなど、さまざまなBIMソフトを試す日々が続いたのだと言う。「ところが、どのBIMソフトを使ってみてもなんだかしっくり来ないのです。これは違う、あれも違うという試行錯誤の日々が続きました。そして、その果てにようやく出会えたのが、GLOOBEだったのです」。

木造住宅

国産BIMソフトという最大の強み

 「GLOOBEを選んだ最大のポイントは、やはりこれが唯一の国産BIMソフトだったということです」。GLOOBE選定の理由を訊ねると、正木氏はまずそう答えてくれた。特にこのBIMソフトが日本の建築基準法に適応している点が「非常に大きかった」と言う。そして、さらにもう一点重視したのは、GLOOBEの持っていたJw-cadとの親和性の高さだ。GLOOBEで作成した設計データは、コンバータを使わずJwデータに書き出せるし、取り込めるのである。Jw-cadユーザーだった正木氏だけに、長年蓄積してきたJwデータの設計資産を従来と変わらずにスムーズに活用できる点は、きわめて重要だった。
「もちろんコスト面についても考えました。幸いGLOOBEはレンタル利用が可能だったので初期投資を抑えることもできたのです。それにもし導入に失敗してしまっても、レンタルならそこで契約を打ち切ってJw-cadに戻ればいいわけで……。だから気軽にチャレンジできましたね」。ところが、正木氏にとって予想外だったのは、導入したGLOOBEを本格稼働させるまで予想以上の時間がかかった点である。実際、BIMを本格的に活用してその効果を十分発揮させるまでには、3年ほどもかかったと言う。「と言っても、GLOOBEに問題があったわけではありません。一番の原因は私自身のBIMに対する誤解と言うか……BIMと2次元設計に関する大きな勘違いが
あったんです」。

食品加工工場

BIM活用のための意識改革

 意匠設計を主業とする建築設計者は「2D図面作成こそ自分の仕事だ」と認識している場合が多いのではないだろうか。少なくともBIM導入時の正木氏はこのような認識を持ち、GLOOBE導入後もそれは変わらなかったと言う。「ですからGLOOBEを使い始めても、意識は常に“これでいかに効率的に2D図面を仕上げるか”という方向に向いていました」。むろんBIMで仕事を進める以上、作業は3Dモデルの制作から始まるわけだが、この時点で既に正木氏の意識は3Dモデルではなく2D図面に向かっていたのである。
「だから3Dモデルは100パーセントでなくて良いと思っていました。たとえば70パーセント程度でも、とにかく形にしてしまえば後はそこから断面を切り出して2Dで加筆修正し、2D図面の成果品として仕上げることで仕事は完了すると。ところがそれは全くの間違いだったのです」。そのことに気付いたのはある大型プロジェクトでの経験だった、と正木氏は言う。
「ある14階建てホテルの新築のプロジェクトでした。個人事務所が単独でやるには規模が大きすぎるので、私と同じフリーランスの設計者と一緒にコラボレーションしようと考えたのですが……」。ある要因によりこのコラボレーションは実現せず、結果、正木氏が一人で意匠設計を行うことになった。そして、この事で正木氏はGLOOBE導入を決断し、GLOOBEで3Dモデルを作成し2D図面の切り出しをしようと考えたのである。
「そうやって作ったモデルから切り出した断面データをJw-cadに渡し、それぞれ加筆修正して仕上げる──という段取りです。ところが実際に始めてみると、これがどうも上手く回りません」。ひと通り仕上がった2D図面を見ながら、たとえば発注元と打ち合わせすれば、当然、幾つもの修正点や変更点が生まれる。ところがこの修正点・変更点をダイレクトに3Dモデルに反映させて修正してしまうと、その時点で2D図面データとの間に不整合が生じるのだ。そのため、修正済み3Dデータから再度断面を切り出すにあたって、当初と同じ加筆修正をもう一度行う必要が生じたのである。
「結局、私はBIMによる進行を打ち切って3Dモデルも廃棄し、最終成果品は2D CADで作成するということになりました」。このようなトラブルが発生した原因は、BIMへの理解が不十分だったからだ、と正木氏は言う。結果、BIMを正しく使い切れていなかったのである。
「つまり、BIMは2D図面を作るためのツールではない、ということだったのです。BIMを正しく効果的に運用したいなら、とにかくまず3Dモデルをしっかり作り込まなければならなかったのです」。GLOOBEによるBIM設計が軌道に乗るまで約3年かかった、と正木氏は語っていたが、つまり、その3年間はBIMと2次元設計の根本的な違いに同氏が気付き、設計スタイルを改めるために必要だった時間にほかならない。

飲食店インテリア

学生マンション計画案

ほぼ完全にBIM設計主体の事務所に

 長年かけて作り上げ磨き上げた2D図面作成主体の設計から、BIMによるモデル制作中心の設計へ。それは熟練した建築家だった正木氏にとって一大イノベーションであり、BIM化意欲が高い同氏にとっても簡単なことではなかったはずだ。そして、この取り組みを支援したのが福井コンピュータアーキテクト(以下 FCA)だったのである。「実は最初に“BIMに対する考え方が違っていますよ”と指摘してくれたのもFCAの人でした。3次元関連のイベントに誘われ、これに同行してから交流が深まり、BIMに関していろいろ教わるうちに軌道修正できていったのです」。こうして回り道しながらも、現在は完全にBIM設計への切り替えに成功した。
「個人住宅も全てBIMでやっています。プラン作りからGLOOBEで着手し、もちろんプレゼンや打ち合わせもBIMモデルで行います。変更・修正を施して作り込んだモデルから図面を書き出し、仕上げるのも全てGLOOBEで行っています」。そのため今ではJw-cadを使う機会が激減してしまい「使い方も忘れかけている」と正木氏は笑うが、それもBIMがもたらすメリットの手応えを実感できているからだろう。
「一番感じるのはまずプレゼンに関わること、そして各図面間の整合性が取れている点です」。前述のとおり、プレゼンや打ち合わせはPCでBIMモデルを見せながら行っている。お客様とやりとりしながら、その場で修正するなどしており、以前の「図面とパース」で説明していた頃とは施主の反応が全く違うと言う。「実は2D図面を見せても立体がイメージできない方が多いのですが、BIMを使うことで、早い段階から完成形をリアルにイメージしてもらえるようになりました」。そのため手戻りが大きく減り、互いの意思疎通もスムーズになったのである。
「以前は、建物ができ上がって初めて“ああ、こんな風になるんだ!”と言われたものですが、今は設計段階できっちりイメージできます。“こんなはずじゃなかった”というお客様はいなくなったのではないかと思いますね」。そのためプランに対する施主の注文も増加傾向にある、と正木氏は笑う。その対応はなかなか大変だが、だからこそ、完成した建物へのお客様の満足感は、以前とは比べものにならぬほど大きい。

GLOOBEによる作業

スタッフに指示を出す

GLOOBEを使え!と仲間の背中を押す

 「今は、今後の活動に関してはっきりした目標や計画は決めていません。ただ、BIMについては、既存建物の長期修繕計画といった案件への対応も、早く実現させたいと思っています」。そう語る正木氏に、事務所としての課題について問うと、即座に「マンパワー不足」という答えが返ってきた。現状正木氏の事務所は正木氏の他2名の体制だが、業務量の拡大に対応しきれなくなりつつあるのだ。そして、そのマンパワー不足の原因もまたBIMにある、と言う。
「長期修繕への対応もそうですが、GLOOBEを使うことでどんどん仕事のフィールドが広がっている実感があります。実際、木造だろうと鉄骨、RCだろうとBIMで対応できるし、もちろん住宅でも非住宅でも公共工事でもリニュアル工事でも、全てに使えると分かりました。そうなると私の興味・関心が広いぶん事業フィールドも広がり、結果としてGLOOBEの使い手が不足してしまうのですね。だから今は、フリーランスの仲間たちに“GLOOBEを使え!”といって、背中を押しているところです」(笑)。

これは違う、あれも違う──試行錯誤の果てにようやく出会えたのがGLOOBEでした(マサキ氏)

取材:2021年2月

詳しくは、福井コンピュータアーキテクトのウェブサイトで。

(Visited 1 times, 1 visits today)
関連記事
Translate »