「スタラボ」に見谷組様の導入事例記事を公開
2021年4月26日

株式会社見谷組

現場の発想で活かす施工BIMの推進により地域の建築業界へのBIM普及を牽引していく

福井県福井市に本社を置く株式会社見谷組は、大正12年(1923年)にこの地で創業以来、97年にわたり実績を積み重ねてきた総合建設会社である。教育文化施設から各種公共施設、医療施設、集合住宅等々幅広い建築物を手がけ、この地域のインフラ整備に貢献し続けてきた。その高い施工技術と顧客から寄せられる厚い信頼は、傑出したリピート率の高さからも伺うことができる。創立100周年を目前に控え、「オンリーワンの企業」宣言を行った同社は、いま新たに全社的なイノベーションの取り組みを開始した。その主柱の一つが、GLOOBEを核に進めている施工BIMの導入と活用である。ここではそんな同社のBIMチャレンジを牽引する、営業部の見谷純次氏と建築部の橋本 哲氏にお話を伺った。

手描きした3次元で納まりを確認していた私にとって実物と同じ物をPC内に作れるBIMは、まさに驚異でした(橋本氏)

何としてでも現場にBIMを広めたい

 「BIMという言葉を私が知ったのは2014年のことです。新しいモノが大好きな同僚に聞いたのが初めてでした」。そう言って当時を回想してくれたのは、見谷組の現場で現場管理を担当する建築部工事課の橋本 哲氏である。橋本氏は現場管理業務と並行して、同社のBIM推進を担う中心人物として活動している技術者だ。「3D CADとはちょっと違うBIMという3Dデータを扱う新手法がある、と聞いたんですね。で、興味があるなら調べてみたら?と言われて調べ始めたのが、全ての始まりでした」。
この時、橋本氏が「3D」という言葉に魅かれたのには理由がある。前述の通り橋本氏の仕事は現場管理だが、日常的な業務の一つとして、3次元風の見取り図を手描きすることがしばしばあったのだと言う。「私はJw-cadユーザーだったのですが、実は図面の納まり等を確認する上で、通常の平面や断面だけでは分かり難い時など、図面を見ながら立体をスケッチして3D的に検討していたんです。それがBIMを使えば正確に、実物と同じ物がPC内に作れるわけで……これは凄い!と直感したんです」。こうしたことから橋本氏はまずフリーウェアの3Dモデラーで3Dモデルを作り、BIMへのアプローチを開始した。そして、それに飽き足りなくなった頃、偶然知ったBIMソフトがGLOOBEだった。
「とりあえずGLOOBEの体験版を取り寄せて使ってみることにしました。ちょうど新しい現場を始めたところだったので、3カ月の試用期間をフルに使って構造体と外観のBIMモデルを作り、いろいろ活用してみたのです」。たとえば、3Dモデルから出力したパースを現場事務所の壁に貼り付けて情報共有に活かすなど、さまざまに試していった。現場も忙しく他社BIMソフトを試す余裕はなかったが、橋本氏自身は特に改めて比較する必要は感じなかったと言う。
「実際に使ってみたGLOOBEは、普段使っていたJw-cadと操作がどことなく似ていて、凄く使いやすく感じたんです。特にマウスで行う拡大縮小など基本操作がスムーズで、初めて挑むBIMにもすんなり入っていけました」。そうやって一現場終える頃にはすでに「何とかして会社へGLOOBEを正式に導入し、当社の現場に施工BIMを広めたい」と考えるようになっていたと言う。そこで橋本氏は次の現場でも、その次の現場でも試用版GLOOBEを運用。総計4つの現場でGLOOBEを使いながら、社内への積極的なアピールを続けていったと言う。

初めて作成したBIMモデル

GLOOBE導入のために手がけた畑違いの仕事

 「たとえばパースは、当社でも営業等で盛んに使っていますが、通常は設計者や専門業者へ外注して制作しています。それが自前で、しかもスピーディに作れるとなれば、けっこう大きいと考えました」(橋本氏)。パースというBIMの成果物を営業で便利に使ってもらえれば、自ずと営業部門の支持も得られるのでは?──それが当時の橋本氏の狙いだった。橋本氏は忙しい現場作業の合間を縫って営業の依頼に応え、GLOOBEでパースを作成し提供していった。
「現場管理の私にとって、パース作成というのは、言ってしまえば畑違いの仕事です。しかし、会社にBIMの導入を認めてもらうためには、こうした工作も必要なのではないでしょうか。実際、綺麗なパースを素早く提供できるので、営業マンたちからは“凄いな!” “使えるな!”という言葉をもらえるようになっていたんです」。このような周到な準備と工作により、橋本氏の進めるBIMとGLOOBEの活用スタイルは、少しずつ支持者を増やしていった。そして、その支持者の一番手が営業部長の見谷氏だった。
「初めて体験版を見せられた時は、正直言って私たちも会社側も、GLOOBEやBIMがどんなものなのか全く分かっていませんでした」(笑)。見谷組の営業部門を率いる見谷純次氏は、笑いながらそう語る。それでも橋本氏の説明を聞いてBIMの将来性を理解した見谷氏は、即座に「とりあえずやってみて!」と橋本氏の背中を押したのである。たとえすぐにBIMをフル活用することが難しくても、橋本氏の試行により提案用パースやチェック用の構造モデル化など、実務で分かりやすく便利に使えると分かった以上、会社として進めるべきだと判断したのだ。こうした経緯を経て、見谷組ではまずGLOOBEを1セット導入し、これを橋本氏に託して同社の現場へ投入することを決めたのである。
「GLOOBEによる施工BIMの展開は、当初、橋本君ともう1名の2名体制で対応してもらいましたが、徐々に成果が広まるに連れ、“自分も試してみたい”という声が各所から聞こえ始めました。そこでGLOOBEの社内普及を進めるため、施工BIMチーム作りを始めることにしました。2018年夏頃のことです」(見谷氏)。

営業用の設計パースA/営業用の設計パースB

1年間限定のBIM推進チーム

 「チームの名称は“MILKEN・BIM”。MILKENとは創立90周年の時に作った当社の新呼称です」。そう語る橋本氏を含め、40代3人と20代3人がチームメンバーに選ばれ、さらに営業部から見谷部長も参加。合計7名によるチームとして、2019年1月からBIM普及を目指す本格的な活動を進めることになった。現場技術者中心のメンバー陣は現場を持つ者も多く、それぞれ担当業務が忙しかったため全員集まるのは月2回に限定。しかも、MILKEN・BIMとしての活動自体を1年間限定と決めて取り組んでいった。「きっちり1年と限ることで集中的に取り組めるだろうと考えたのです。実際、これが功を奏してかなり充実した取り組みになりました」。
MILKEN・BIMの具体的な取り組みとしては、まず若手メンバーを中心とするGLOOBE操作の習得とBIMスキルアップ。そして、全社に向けてのBIM普及活動が柱となった。「操作講習は特に学習の時間を設けず、それぞれ担当の実物件で実践するなど実践的に取り組んでもらいました。GLOOBEも3セットを追加して4セットとしました。つまり、2人ペア1セットで合計3セットを使っていったわけです」。もちろん各担当物件の規模は大小さまざまで、工事内容もそれぞれ異なっている。当然、各現場におけるBIM活用の内容も、現場ごとに少しずつ異なったものとなっていった。だが、だからこそ1年という限られた時間の中で、多彩な活用ノウハウを豊富に蓄積することができたのである。

チーム活動の様子

「もう一つの活動の柱であるBIM普及活動については、前述したような営業への協力等のほか、全体会議の場でも広報等を行いましたし、安全大会と呼ぶ協力業者が80社余り集まる大型イベントでも、MILKEN・BIMメンバーによるBIMのプレゼンテーションを実施。社内外へ積極的にアピールしていきました」(橋本氏)。こうして1年に渡って進められたMILKEN・BIMにより、見谷組のBIM展開は一気に長足の進歩を遂げ、社内にしっかりと根づいたのである。
「おかげで社内にBIMの概念が深く浸透したのは確実です。実際、以前は“ビーアイエム”と発音する人も多かったですが、社内打ち合わせでもBIM(ビム)という言葉が普通に出てきますからね。そして、この1年で独自のBIM活用法が生まれ、それが当社の施工スタイルの一つとして定着したことも見逃せません。とにかくこれらの成果により、いまや当社はBIMで地域をリードしている実感があります」(見谷氏)。

安全大会でのプレゼンテーション

ドローン空撮+BIMの新手法

 「当社ではBIMと同じくドローンについても早くから導入し、新規案件敷地の空撮等に使っていました。先ほど見谷部長がおっしゃった“当社独自のBIM活用法”とは、このドローンとBIMを掛け合わせたような手法なのです」(橋本氏)。簡単に言えば、新規物件の建築を予定する敷地をドローンで空撮し、その敷地写真にGLOOBEで作成した完成後の3Dモデルを合成して仕上げる完成予想パースである。これを使えば、実物の周辺環境に完成した建物がどんな風に調和するのか──これ以上無いくらいリアルにシミュレーションできる。「若手の技術者が偶然作り出した手法で、リアルな完成予想図としてお客様に見せていますが、それ以上に施工時の途中経過も見られる点が“分かりやすい!”と、現場でもすごく好評です」(橋本氏)。
つまり、この手法を使えば、現場の施工計画を、実際の周辺環境と合わせてリアルなビジュアルで段階ごとにパース化できる。協力会社の技術者にとって、これ以上ないくらい分かりやすい施工計画の解説となるのである。「さまざまな業種の技術者が、それぞれ必要な箇所を見て各自の施工内容を把握し検討できるわけです。彼らは専門家ですから、私たちが気付かぬような問題点もいち早く発見して事前に対策してもらえる。当然、現場はとても円滑に進むのです」。たいへんに効果的な手法と言えるが、現状では施工BIM自体の普及が十分進んでおらず、活用できるのは特定の現場でしかない。やはり、まずは施工BIMの普及こそが急務なのである。

施工計画パース(空撮+BIM)

完成パース(空撮+BIM)

BIMモデル連携による事前検討

地域へのさらなる普及を目指す

 「現在はメインとなる2現場でBIM施工を運用しているほか、複数現場で部分的にBIMを使っています。私の担当は県発注のメイン現場でBIM活用を技術提案しています。ドローンと施工計画の合成やBIMモデルによる設計士との連携、また鉄骨ファブや設備会社ともBIMモデル連携を図っていきます」。まさに本格的な施工BIMの運用に取り組む橋本氏だが、その普及についてはまだまだ満足していない。「施工BIMでは、モデルを作って活用しても、その手間に見合った効果が見えにくいのが難点です。現場がトラブルなく順調に進めば効果があったと言えますが、アピールにはなりません。やはり、目に見える形で効果を示す必要がある。そこで考えているのがARです。大手ゼネコンで活用が始まったこの新技術を早く現場へ導入したいですね」。一方、見谷氏は、BIMへの取り組みについてよりマクロな視点で捉えている。
「施工部隊によるBIMの取り組みは、ドローン空撮との合わせ技やBIMモデルを活かした事前検討等、確実にメリットを生み出しています。営業部にとってもパース等のプレゼン効果はもちろん、BIMやドローンの活用自体が当社の強みとしてお客様へアピールできています」。しかし、同時にそうした果敢な取り組みが現場に負担になる事を懸念しているのだと言う。「本来、ベースになるBIMモデルは設計者が作成し、施工者はそのモデルを活かして施工BIMを進めるものです。実際、設計者からBIMモデルが提供された現場では現場負担も軽く、BIMも幅広く展開できました。BIM普及が進めばそれが当たり前になり、当社から設備会社等にモデルを提供しそれぞれ活用してもらえるようになるでしょうし、最終的にはFMでの運用も視野に入ってきます。当社内はもちろん地域全体に、BIMを広く普及させていきたいですね」。

MILKEN・BIMは独自のBIM活用手法を生み出し、いまや当社の施工技術の一つとして定着しています(橋本氏)

取材:2021年3月

詳しくは、福井コンピュータアーキテクトのウェブサイトで。

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