ヤマトがGLOOBEとRebroを連動、設備設計を3D運用
2021年12月20日

株式会社ヤマト

リーンな製造業マインドで建設をDXする「建物のトータル価値をサポートする」ために

ヤマトは、東京証券取引所市場第一部に上場している総合建設業者である。創業は昭和20年10月に遡り、現在、本社を群馬県前橋市に構え、関東圏内を中心に7支社、14営業所、3工場の体制で事業展開している。建設プロダクトを標榜し、事業コンセプトである「建設製品をワンストップ(基本計画〜設計〜施工〜メンテナンス〜資産管理・一部運用から資金供給まで)でお客様に対応します。」をホームページ上でも公にしている。それらの理念に基づき、「建物のトータル価値をサポートする」ために、早くから多様な3次元ソフトウェア導入、運用していた。新参者ともいえるBIMソフト「GLOOBE」運用の現況を企画推進部の莅戸氏と江原氏にお話しを伺った。

BIM導入の下地ともなった設備配管の3次元運用

 ヤマトは、自社工場を持ち、設備配管の工業化を行うといった、他の総合建設業と比較してもユニークな業態を誇っている。具体的には、「建築物における設備の重要性が高まる中で、その重要な動脈ともいえる配管の品質確保は大きなテーマ」として捉え、設備配管の工業化に取り組み、配管加工専門工場、加工センターで、ステンレス配管を採用した加工管など高品質な設備配管を生産している。ここでは製造業的マインドで設備配管の3次元運用が行われていたことになる。更には、施主へのプレゼンテーションを行う際に、その見える化効果を最大限に引き出すため、建築系のユーザーにも人気がある汎用3次元モデラー「form・Z」を早期導入していた。重要なのは、設備関連を中心に各種の3次元モデルを運用するノウハウと、製造業的なマインドが定着していることだ。そのため建物3次元モデルを構築するBIMソフト「GLOOBE」へのアレルギーも少なく、導入の下地ができていたといえよう。

図面間の整合性確保で設計品質と効率向上実現

 BIMソフト「GLOOBE」導入は2011年に遡る。取材時には全11台が導入済みとなっており、3〜4台が常時稼働している。BIMソフト「GLOOBE」による設計運用では、自社で設計施工する案件を前提としている。以前から「form・Z」で施主へのプレゼンテーションを行っていた経験もあり、BIMソフト「GLOOBE」の導入効果として最初に明らかとなったのは、施主への「見える化」であった。BIMソフト「GLOOBE」で作成した建物3次元モデルを建築レンダリングソフト「Lumion」へと移行し、動画によるプレゼンテーションも多用している。設計者におけるBIMソフト「GLOOBE」の導入効果は、図面間の整合性確保の二側面からも明らかとなった。製図オペレータに依存していた2次元CADと異なり、BIMソフト「GLOOBE」では設計者自らが操作し、建物3次元モデルを構築していく。ひとつの側面としては、それら設計の過程で効果が明らかとなる。BIMソフト「GLOOBE」では「平立断」面図が瞬時に連動して切り変わるので、各図面間の整合性を担保しつつ、図面相互での精度の高いチェックが可能となり、結果として建物3次元モデル側での精度向上へと寄与している。それによって設計の質的向上へと繋がり、ひいては建物の品質を高めている。

もうひとつの側面は、現状、設計の成果物である2次元図面間の整合性の確保が完璧に行えることだ。これによって作業としての製図の効率化が実現する。2次元CADにおける製図では、各図面がそれぞれに独立したデータであり、図面間の相互性は皆無のため、不整合のチェックと共に、それらの修正にも膨大な時間を要していた。設計者は、その一点をもってしても、BIMソフト「GLOOBE」の導入効果は大であると考えている。

GLOOBE矩計図作業画面

GLOOB総合図作業画面

施工時の見える化と数量把握によるコスト意識の向上

 設計段階で構築した建物3次元モデルを施工段階での建物3次元モデルへと展開し、現状の建設プロセスでは必須となっている施工図をいかにして生成するのかは次なる課題だ。それらの課題をシステム面で解決したとしても、旧来の2次元の施工図を前提としている現場担当者の存在がある。将来的には、施工段階の建物3次元モデルを主として、2次元の施工図は補助的なツールとするなど、建設プロセスそのものの改変が求められるかもしれない。

一方で、設計段階で構築した建物3次元モデルを施工段階へと援用する事例も顕在化している。LOD(モデルの詳細度)は施工段階のそれとは合致しないものの、BIMソフト「GLOOBE」による建物3次元モデルは、複雑な納まり部分などの施工現場での視覚的な確認に役立っている。ここでは設計と施工間に跨る見える化効果が明らかとなっている。

BIMソフト「GLOOBE」の優位性としては、構築した建物3次元モデルが数量などの各種情報を保持している点が挙げられる。それら数量情報は、現状、自社開発の積算ソフトへと連携はしていないが、それでも初期の設計段階から対象建物の数量情報を把握できるメリットは大きい。2次元CAD状況では不可能であった数量=コストを意識した設計実務が実現し、それらのコスト意識は、施工段階にも引き継がれていくからだ。

建築設備専用CAD「Rebro」との連動で設備設計を3次元運用

 自社工場を持ち、自ら設備配管の3次元製造を行う優位性を活かすべく、設備系のBIMソフトとして広く普及している建築設備専用CAD「Rebro」との連携も常態化している。設備設計においては、対象建物で用いる設備配管の製造時の3次元モデルを「Rebro」に読み込み運用する。これによって設備配管の複雑な経路や対象建物との干渉チェック、正確な数量の把握などが実現している。

「Rebro」上で運用する建物3次元モデルは、BIMソフト「GLOOBE」で構築したものを援用している。BIMソフト「GLOOBE」側の建物3次元モデルをbuildingSMARTが提唱する中間ファイル形式のIFCデータとして出力し、「Rebro」に読み込む。「Rebro」では、設備系のBIMソフトとしての機能を活かし、3次元モデルの優位性を最大限に生かした設備設計を可能にしている。

「Rebro」の基本機能「建築」では、BIMソフト「GLOOBE」から躯体データを直接、読み込むことで設備設計に用いる建物3次元モデルが瞬時に完成する。

GLOOBE躯体取込_Rebro合成1

GLOOBE躯体取込_Rebro合成2

視野に入った建物のライフサイクル全般をサポートするDX

ヤマトは、「建物のトータル価値をサポート」するとホームページに掲げている。設計から施工段階で積極運用した建物の各種デジタル情報は、竣工後の施設管理へと援用され、施主へのサービス向上に貢献する。そのためには、設計施工段階で構築した建物3次元モデルを、いかにしてかつての竣工図に類する竣工モデルへと連動させるのかが課題となる。

施主の立場に立ってみる。建物の全ての構成要素が3次元で見える化され、数量や仕様なども明確であれば、願ったり叶ったりだ。リノベーションによって資産価値を上げるなどの際にも工事は容易だし、設備機器などの仕様から耐用年数を割り出し、適切なメンテナンスも可能となる。近い将来、BIMによる建物3次元モデルを収納した竣工モデルが納品されるかもしれない。更には施主から3次元の竣工モデルを要求されるかもしれない。

BIM先進国の米国では、「カイゼン」に象徴される製造業の雄、トヨタの生産方式を建設業に取り入れる生産方式「リーンコンストラクション(※Lean Construction)」が提唱されている。ヤマトは、リーンな製造業的マインドをベースに、BIMソフトなどの運用を通して建物のライフサイクルを網羅的にサポートするDX(デジタルトランスフォーメーション)を視野に入れている。
※Lean:脂肪がない、無駄のないとの意味。

 

内外装の色変え検討が瞬時に可能となり施主から好評を博す

 BIMソフト「GLOOBE」の採用によって施主との合意形成に効果を発揮したエフエム群馬新社屋新築工事について検証してみる。エフエム群馬新社屋は、鉄筋コンクリート造4階建ての事務所建築で、特徴的なのは、放送局としてスタジオを実装していることであった。そのためダクトの納まりに制約が多々あることが容易に想像でき、計画段階からダクトの納まり部分を3次元モデル化して検討しなければ適正な階高が確保できないと考えた。それらの課題を解決するためにBIMソフト「GLOOBE」と「Rebro」を駆使して計画段階から詳細設計も視野に入れてモデル化を行った。更に加えてモデル入力に時間が要するため計画段階から実施設計レベルのモデルを可能な範囲で先回り入力して肉付けし、通常の設計期間の範囲内に納める工夫を行った。

施主との合意形成においてもBIMソフト「GLOOBE」の見える化は効果的であった。毎週、開催された定例会では3次元のパースで確認してもらいながら打合せできたため、施主に対して設計者の意図がダイレクトに伝わり、イメージも共有でき、決断しやすいと好評であった。合わせてBIMソフト「GLOOBE」の3次元モデルを「Lumion」に読み込み、活用したため、リアルなイメージで内外装の色変え検討が瞬時に、その場で可能となり、施主からは好評を博した。

今後は、BIMソフト「GLOOBE」における概算の精度を向上させ、早期にコストを把握しながら、より高度な生産設計を行えるようスキルアップを図る。それによって施主が早期に意思決定できる情報を保持した3次元モデルを構築し、フロントローディングを加速、理念として掲げる建設プロダクトの実践を通して価値あるサービスを提供していくための取り組みを続けていきます。

GLOOBE外観モデル作業画面

■取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏    ■取材時期/2021年11月

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