3D CAD設計とDX-働き方改革で変わる設計業務
2022年7月16日

DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるデジタル化ではなく、デジタルにより仕事のやり方を変え、しかも効率化が図れることだと私は考えます。製造業のプラットフォームといえる3D CADもクラウドプラットフォームでの運用が可能になりました。このクラウドプラットフォーム3D CADでは、どんな働き方改革が可能になるのでしょうか。

3D CAD設計とDX-働き方改革で変わる設計業務

1.リモートワークという働き方

前回に続き、完全クラウド版の3D CAD Onshapeの体験から、今回は、チーム設計の在り方について考えてみます。これまで製造業の設計業務は、「設計室」で行うのが一般的でした。しかし、新型コロナのパンデミックにより、設計分野でもリモートワーク(テレワーク)という「働き方」が広く浸透しました。

地域別・企業規模別のテレワーク実施率_出典:第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

出典:第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

私の住む地方では、調査結果同様にリモートワーク率は低く、私自身も通常出勤を行っていますが、首都圏ではリモートワークの比率はまだまだ高いということを耳にします。

新型コロナパンデミックの状況は変化しつつあり、今後、リモートワークの比率も下がることが予想できます。

  • 実際に対面で仕事をしたい人。
  • リモートワークで仕事をしたい人。

いずれの人たちがいることも事実ですが、ポストコロナの社会で経験した「新しい働き方」から「コロナ」というキーワードを外したとしても、首都圏のみならず地方でもメリットがあるものだと、私は考えています。

優秀な人材確保ができる

優秀な人材を確保することは企業にとって重要です。居住先を選ばない・勤務先に縛られない条件で採用できるようになれば、通勤距離に制限されず人材を選ぶことができます。世界的経済の混乱から立ち直る中で、人材は貴重です。特に地方では首都圏に比べ人材不足です。

<参考>
令和4年4月の有効求人倍率は23倍で、前月に比べて0.01ポイント上昇。
令和4年4月の新規求人倍率は2.19倍で、前月に比べて0.03ポイント上昇。
※厚生労働省一般職業紹介状況(令和4年4月分)より

リモートワークは、「地方で働く・首都圏で働く」どちらにもいえるばかりか、「企業側・就業者」のどちらにもメリットがあります。さらに、若い年齢層は柔軟な働き方を望んでいることでしょう。

  • 地方では人材が豊富な首都圏から採用できる
  • 首都圏では地方に支店を作らずともその拠点を持つことができる
  • 就業者は転居というリスクを負わない
  • ライフワークバランス
  • 地方と首都圏の差が縮まる

この「柔軟性のある新たな働き方」は、対面とリモートというハイブリッドな環境で進化していくに違いありません。

デジタル化を図り、仕事の手段や工程を変える=DX

リモートで仕事を行うためには、紙からデジタル化(電子化)による情報共有に変えたり、業務プロセスを変えたりすることも必要になります。業務プロセスを変えるということ、すなわちDXを推進することが必要です。DXにより仕事の効率化が図られ、さらにその普及により、業務の細部にわたりDXの要求が高まれば、ソリューションの開発はさらに進むことでしょう。

実製品の製造現場では全てをリモートワーク化することはできませんが、会社の業務フローの多くで、リモートワークの対応が可能だといえます。次の図をみても製造業のリモートワークの実施率は他の産業に比べて低くはありません。

業種別のテレワーク実施率_出典:第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

出典:第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

私もそう感じましたが、皆さんも、「リモートワークじゃコミュニケーションがとれない。情報伝達ができない」といわれるかもしれませんが、“対面”というのは単に手段です。

コミュニケーションがとれないことや、正しい情報伝達ができないという問題は、対面だからできる・できないというものとは別の課題が、ありそうです。

2.クラウド型プラットフォームでの設計

Onshapeという完全クラウド版の3D CADから、これからの働き方を考えてみましょう。

以前、3D Experience Platform(ダッソーシステムズ ソリッドワークス)上でのチーム設計を体験しましたが、このOnshapeもまた、クラウド型プラットフォームでの設計を行うことができます。クラウドを利用したツールはコミュニケーションという問題の解決・緩和に役立ち、製造系だけではなく様々なソリューションにおいて、ここ数年で導入・利用率が上がっていることから、その期待は大きいといえます。

では、このクラウドプラットフォームのOnshapeから私がこれまで経験してきているチーム設計のあり方を考えてみましょう。

図 チーム設計のイメージ

図 チーム設計のイメージ

私の経験では、装置は複数のユニットから成り、ユニット設計を担当する人と、ユニットが配置された総組図を管理するリーダーによって設計が進みます。ユニット設計が行われると、複数の2D部品図担当者により部品設計が行われます。これらのデータはファイルサーバーに保存されています。設計変更は、これらの階層(総組図・ユニット・部品図)相互によって行われ、「すり合わせ設計」が行われていきます。

外部の設計会社の協力を得ているような場合には、協力会社から設計データをもらい、あらためてリーダーや社内の設計協力会社担当者がそのデータをファイルサーバーに保存をします。

社内に共有のフォルダやPDM(Product Data Management:製品管理) サーバーがあえる場合にはそこに保存を行いますが、実際の設計シーンを見てみると、詳細設計過程では、設計しているPCのローカルディスクに保存している場合も少なくありません。ユニット設計は新規設計ばかりではなく、過去の設計を流用した設計も多く行われます。

このように設計情報を共有しながら設計を行う場合、PDMを使用することが理想的です。チーム設計で最も必要となるのは、「正しい情報の共有」です。

チーム設計の正しい情報共有

  • 共通(共有)の保存場所
  • 何が最新で正しい情報なのか、必要によっては過去の設計情報も知りたい

多くの設計者が、これまで同じ居室のみで行われてきた設計スタイル以外に、リモートワークによりリモート先にいながらも、設計作業ができることを経験しました。

また、WEB会議システムによってコミュニケーションを取ることができることを経験しました。コミュニケーション(会話)の改善の必要とすれば、設計室で設計しているようなCAD操作の快適さと、WEB会議システムで情報量を落とさない工夫ですが、この工夫は画質情報の見せ方音質ネットワークの安定性によって改善することはさほど難しいものではなさそうです。

しかし、会社からCAD用のPCを持ち出してリモート先で操作し、会社のPDMに接続してリアルタイムにデータを共有しながらチーム設計は簡単なことではありません。

3D CADの運用としてクラウドプラットフォームのOnshapeを試してみましたが、

  1. クラウド上のプロジェクト領域で、部品設計者が3D部品設計を行う
  2. レイアウト設計者が3D組立図の設計を行う
  3. 承認された2D部品図設計を行う

というステップを踏むことができます。

また、3D CADにPDMが組み込まれたOnshapeではワークフローが使用できます。ワークフローとはPDMでは、3D CAD設計を行う場合のプロセス管理を行うためのフローチャート(工程の流れを模式図化したもの)機能のことをいいます。これをうまく使えば、レイアウト管理者によるユニット設計承認や、部品図設計者への承認などができるので、設計のプロセス管理(設計→承認→出図許可)ができます。

ユニットや部品の設計者は承認されるのを待つ間、並⾏して他の設計を進めることができるので、設計業務の効率化につながることでしょう。Onshapeではこういった仕組みが標準機能として組み込まれているのがとても便利です。

3.Onshapeで可能なワークフロー

3D CADデータ管理で用いられるワークフローですが、Onshapeで可能な管理について解説します。

Onhsapeのワークフローはリリース管理用と、Obsolete管理用の2種類があります。Professional版では初期に用意されているワークフローのみ使用可能です。Enterprise版ではリリース管理・Obsolete管理用のワークフローのそれぞれ作成/編集が可能です。

リリース管理とは、設計工程として成果物を発行するに至る出図までの管理のことをいいます。Obsolete管理とは、以前のリビジョン(改訂レベル)が新しいリビジョンに置き換えられ使用されなくなったことを管理する方法です。

改訂前の部品は、その使用場所と改訂履歴データがリスト化され記録にのこされます。通常これらの管理は、別購入で導入されていたPDMに実装されているものです。

出典:Onshape Obsoleting(Richard Doyle Onshape User Group Coordinator at PTCより情報提供)

出典:Onshape Obsoleting(Richard Doyle Onshape User Group Coordinator at PTCより情報提供)

 

ワークフローを⽤いたリリース(承認)管理機能 出典:ABKSS

ワークフローを⽤いたリリース(承認)管理機能 出典:ABKSS

 

Onshapeのワークフロー 出典:ABKSS

Onshapeのワークフロー 出典:ABKSS

Onshapeを使用しながら、ショベルカーを設計しましたが、設計は快適そのもので何の違和感もありませんでした。これまでのデスクトップマシンのすべての機能を満足してはいませんが、機能アップされていくことでしょう。

3D部品図作成と3D組立図におけるバージョン管理イメージ(ショベルカー1)

3D部品図作成と3D組立図におけるバージョン管理イメージ(ショベルカー2)

3D部品図作成と3D組立図におけるバージョン管理イメージ

4.設計業務における働き方改革の可能性

Onshapeのトライアルからの感想です。

  • 3D部品、3D組立図作成は快適そのもの(SOLIDWORKS Like)
    →さらなる機能アップに期待
  • システムに組み込まれたPDMによりデータ管理が可能なため、高価な別システムは不要
    →改訂履歴管理ができる
  • バージョン(派生)管理ができる
    →データはクラウドにあり、データ共有が可能(いつでも・どこでも)
  • 使用PCを選ばない運用が可能(どんなマシンでも)

Onshapeを通してクラウドプラットフォームの3D CADシステムを使えば、「チーム設計できる可能性」を感じました。

今話題になっているメタバース(仮想空間)では、

  • 仮想空間上に会社を作り、そのオフィスの中で仕事をする。
  • 社員同士はアバターによりコミュニケーションを行い、情報を共有する。

ことが可能だといわれて、私も、簡単なミーティングを行った経験があり、とてもおもしろいと感じています。

しかし、設計においてもこのような仕事のやり方に変わっていくのかといえば、「正直まだわからない」と答えざるを得ません。重いヘッドセットや、スマートグラスを装着しながら仕事をするという感覚にはまだ違和感があります。

また、いつでもできることのスピード感、無機質ではコミュニケーション、対面式空間の情報量の多さといった対面式の良さをこれまで経験してきているからです。ただ、「進化した仕事のやり方」と技術の進化により、エンジニアリングの世界も更にDX化していくことは間違いないでしょう。

近未来、楽しみです。

 

次回は、「ノーコード」というキーワードからDXについて話を進めます。

著者

土橋美博

3DCAD推進者

詳しくは、ミスミmeviyのウェブサイトで。

 

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