建築・土木業界では、景観検討や合意形成、営業活動に、実寸大で立体的に建物や土木インフラの3Dモデルを見られるVR(バーチャル・リアリティー)が使われ始めている。このとき“VR酔い”が起こってしまうと、せっかくのプレゼンテーションも逆効果になりかねない。その問題解決のコツは、グラフィックボードの選び方にあるのだ。VR酔いはなぜ起こるか、どんな製品を選んだらよいのかを世界的グラフィックボードメーカー、NVIDIA(エヌビディア)の田中秀明氏に突撃取材した。
“VR酔い”は0.02秒の映像遅れで起こる
3次元モデルで建物や土木構造物を設計するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)による設計が普及する中、実寸大で立体的に3Dモデルを見られるVRによるプレゼンテーションに注目が集まっている。
しかし、BIM/CIM用の高性能ワークステーションにHMD(ヘッドマウントディスプレー)をつないで、顧客にHMDで周囲や上下を見回してもらうと、気分が悪くなる“VR酔い”を起こしてしまうことが少なくない。
その原因について、NVIDIA エンタープライズマーケティングマネージャーの田中秀明氏は「VR酔いの原因は、HMDを着けた人が上下左右に頭を動かしたときに、3D映像の動きが遅れてしまうことにあります。VR酔いを防ぐには、映像の遅れを0.02秒以内にすることが必要です」と説明する。
ディスプレーでBIM/CIMによるウオークスルーをサクサク行えるマシンを使っていても、VR酔いが起こることはよくあるのだ。いったい、何が問題なのだろうか。
「例えば、ハイビジョン仕様のディスプレーでウオークスルーを行うときは、毎秒6000万画素の表示性能が求められますが、VRの場合はその7.5倍の毎秒4億5000万画素の表示性能が求められるからです」(田中氏)。
VR用のNVIDIA QUADROグラフィックボードによって、BIMモデルの映像がHMDの動きにどれだけ素早く追従するかをデモしたYouTube動画
なるほど、従来のウオークスルーで十分な表示速度をもっていたとしても、VRの場合はその7.5倍の表示速度が必要となると、マシンにもワンランク上の性能が求められることになる。その解決策は、どこにあるのだろうか。
「VR Ready」のグラフィックボードなら安心
「もし、机上のディスプレーで問題なくウオークスルーができるパソコンやワークステーションなら、グラフィックボードを『VR Ready』のものに変えるだけで、VR酔いのないプレゼンテーションができるでしょう」と田中氏は言う。
「VR Ready」とは、NVIDIAなどがVRでの使用に適したスペックをもつグラフィックボードの製品に付けた認定マークだ。
例えば、NVIDIA VR Readyのエントリー機種である「QUADRO P4000」は、小規模から中規模の建物のVRプレゼンに適している。メモリー容量が8GBで、4096×2160画素のディスプレー4面に対し、別々の視点から見たVR映像を毎秒120フレームで表示できる性能をもっている。つまり、毎秒42億4000万画素の表示速度をもっているわけだ。VR Ready製品がいかに高性能なのかがうかがえる。
また、ハイエンド機種の「QUADRO P6000」は、画素単位の表示速度はそのままだが、メモリー容量が24GBと3倍になる。大規模なビルや都市計画のVRプレゼンは、瞬時に大容量のデータを処理する必要があるため、メモリー容量の大きなグラフィックボードが向いている。
さらに大規模なBIM/CIMモデル用には2枚差しで使う「P5000 SLI」や「P6000 SLI」といった製品も用意されている。
VR Readyタイプのグラフィックボードなら、HMDの動きに対する画面の遅延も0.02秒以内で収まるのでVR酔いのない快適なプレゼンや検討をじっくり行うことができるのだ。
日本HPのVR用ワークステーションにも採用
VR Readyタイプのグラフィックボードは、パソコンやワークステーションにも続々と採用されている。
例えば、BIM/CIMユーザーに定評のある日本HPのモバイルワークステーション「HP ZBook17 G4 Mobile Workstation」には、モバイル用の「NVIDIA QUADRO P5000」が搭載されている。グラフィックボードのメモリー容量は16GBで、画素単位の表示速度はP6000などと同じだ。
そして背負って歩けるウエアラブルタイプのVR用ワークステーションとして話題の「HP Z VR Backpack」には、16GBのメモリー容量をもつ「NVIDIA QUADRO P5200」が搭載されている。
BIM/CIMでのVRプレゼンにQUADROを選ぶ理由
建設業界ではBIMソフトで設計したマンションやビル、住宅などを、着工前からVRで購入希望者にプレゼンする営業手法を取り入れるデベロッパーや建設会社などが増えている。
こうしたVR化の動きに、BIM/CIMソフトベンダーも対応し始めた。例えば、ダッソーシステムズの「CATIA」は3Dモデルを直接VRで見られる出力機能を搭載している。また、オートデスクの「Revit」は「Revit Live」というクラウド上でVRコンテンツの変換が行えるサービスを提供している。またグラフィソフトの「ARCHICAD」なども、ゲームエンジンの「Unity」用にデータを変換するとVRでのプレゼンが行える機能をもっている。
VRでのプレゼンだけなら、ゲーム用のグラフィックボードでも行えるがBIM/CIMソフトのユーザーは、圧倒的多数がQUADROシリーズを選んでいる。その理由は、主要なBIM/CIMソフトベンダーとNVIDIAが密接に連携し、各ソフトがQUADRO上でスムーズに動くように開発されているからだ。
BIM/CIMソフトは設計段階だけでなく、施工段階での活用も増えてきた。現場を3Dレーザースキャナーやドローン(無人機)で計測し、現場の3次元形状を数千万~数億の「点群データ」として取得し、BIM/CIMによる設計の元データや施工管理などで活用されることもある。QUADROはこうした用途にも問題なく使えるのだ。
また、万一、ソフトとグラフィックボードの連携に不具合があったときには、NVIDIAからしっかりしたサポートが受けられる。しかし、ゲーム用のグラフィックボードの場合は、BIM/CIMソフトに対してこうしたサポートはないので自分自身の責任で解決するしかない。納期が決まったBIM/CIMでの業務に、QUADROが選ばれるのにはこうした理由がある。
VRによる遠隔地コラボ、HMDの低価格化も
BIM/CIMでのVR活用は、今後、ますます設計や施工管理の生産性を高める可能性がある。例えば、離れた場所にいるプロジェクト関係者同士のリアルなコラボレーションだ。これを実現したのが、NVIDIAの「Holodeck」というクラウドステムだ。
自動車開発の例では、クルマのVRデータをHolodeckにアップしておき、離れた場所にいる関係者がHMDなどを付けてWEBブラウザーからこのVRデータにアクセスする。
すると目の前にはクルマのリアルな姿がVRによって実寸大の立体で見えるとともに、離れた場所にいる関係者もクルマの周囲に“バーチャル集合”してデザインについて話し合うことができるのだ。
Holodeckでは、オートデスクの3ds MAXやMaya向けにVRデータをアップロードするためのプラグインが用意されている。Holodeckは2017年11月現在、アーリーアクセスプログラムとしてアプリケーション開発者などに限定して公開されている。一般向けには来年、公開される予定だ。
また、マイクロソフトでは、Windows10でVRやAR(拡張現実)に対応したシステム「Windows Mixed Reality」を提供している。このシステムに対応したHMDがパソコン関連メーカー各社から発売されており、価格も5万~6万円と従来の半額程度となっている。
HMDの低価格化によって、VRはコスト的にも敷居が低くなり、ますます建築・土木でのプレゼンや合意形成、コラボレーションなどに使いやすくなってきた。VR酔いのない快適なVR活用には、NVIDIAの「VR Ready」タイプのグラフィックボードをぜひ、選びたい。
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