日建設計がBIMの社内向けeラーニングサイトを無料公開
ARCHICADの基礎を10時間でマスター(グラフィソフトジャパン)
2017年11月28日

日建設計は2017年10月、社内設計者のトレーニングを目的として開発してきたBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「ARCHICAD」の基本を学べるラーニングサイト「ARCHICAD-Learning.com」を無料公開した。各ツールの使い方を短い動画で解説しており、10時間程度で一通り学べるのが特徴だ。同4月には3Dモデリングソフト「Rhinoceros」や「Grasshopper」を学ぶサイトも公開している。日建設計のBIM活用ノウハウが込められたこれらのサイトを企画、制作した関係者に直撃インタビューした。

ARCHICADでファンズワース邸のモデリングを行う手順を解説する動画。ゾーンを配置する方法を3分程度の動画で解説している

ARCHICADでファンズワース邸のモデリングを行う手順を解説する動画。ゾーンを配置する方法を3分程度の動画で解説している

   ARCHICADを10時間でマスターできる無料サイト

「この動画ではファンズワース邸のオブジェクトを配置します。オブジェクトツールをダブルクリックし、お好みのテーブルを選択してください」―――パソコンから流れる解説の音声とシンクロするように、ウェブブラウザーの画面ではARCHICADのメニューをマウス操作で選ぶ様子が映し出された。

10月2日に日建設計が公開したARCHICADのトレーニングサイト「ARCHICAD-Learning.com」のひとこまだ。サイト運営は同社が、グラフィソフトジャパン、髙木秀太事務所の協力を得て行っている。

「ARCHICAD-Learning.com」のトップページ

「ARCHICAD-Learning.com」のトップページ

サイトの構成はシンプルでわかりやすい。ARCHICADの基本をざっくりとマスターする「Training」コースと、建築設計でよく使うツールを個別に学ぶ「ARCHICAD100」からなる。

「Training」では基本操作を約1時間、設定を約30分で学んだ後、ファンズワース邸を題材にモデリングを約2.5時間、レンダリングや図面、レイアウトを約1時間で体験する。

そしてBIMを効率的に活用するうえで欠かせない「ゾーンツール」を使って保育所を約1時間で設計するというカリキュラムだ。合計約6時間のトレーニングを行えば、ARCHICADの基本的な操作や建築モデリングの基礎がざっくりと身に付くのだ。

「ARCHICAD100」では文字通り、よく使われるARCHICADのツール100種類を厳選し、各ツールの使い方を1~2分の動画で解説している。

ARCHICAD100のメニュー画面。建築設計でよく使われるツール100種類を厳選している

ARCHICAD100のメニュー画面。建築設計でよく使われるツール100種類を厳選している

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日建設計 設計部門
3Dセンター室
西 勇 氏

サイトの企画や制作を担当した日建設計 設計部門3Dセンター室の西勇氏は「すべての内容を視聴しても10時間程度しかかからず、しかも無料です。短い動画での解説なので、わからない部分は何度でも繰り返し再生して確認できます」と、そのメリットを語る。音声や動画、テキスト、画像を適材適所に使ってわかりやすく解説できる「eラーニング」ならではの強みを生かしている。

パソコンのほか、スマートフォンやタブレットでも見られるので、いつでもどこでも、すき間時間を生かしてARCHICADを攻略できる。これまでの書籍やセミナーにはない強みをもった新しいBIM学習法と言えるだろう。

 

   日建設計のBIM活用ノウハウを凝縮

先にも述べたように、このサイトは日建設計がもともと社内用に開発したものだ。同社は「ARCHICAD-Learning.com」の公開に先立ち、同年4月に3Dモデリングソフト「Rhinoceros(ライノセラス)」と「Grasshopper(グラスホッパー)」の使い方を解説したサイト「Rhino-GH.com」も公開している。

日建設計が2017年4月に公開した「Rhino-GH.com」のトップページ

日建設計が2017年4月に公開した「Rhino-GH.com」のトップページ

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日建設計
設計部門3Dセンター室
中川 歩 氏

これらのコンテンツには、同社のBIM活用で培われた建築物のモデリングや図面作成の貴重なノウハウが凝縮されている。

この点について、「Rhino-GH.com」の制作を担当した日建設計 設計部門3Dセンター室の中川歩氏は「例えば、Rhinocerosで3Dモデルを作るとき、一般のウェブサイトでは、プロダクト寄りの曲面造形について 解説されているものがほとんどでした。しかし、建築の場合は一度、2D平面上 で断面形状や点の位置を決めてから押し出して3Dモデル化することが多いです。建築分野での活用法に特化して解説しました」と語る。

 

Rhinocerosでタイルをモデリングする方法の手順説明。建築分野で活用するための解説にこだわった

Rhinocerosでタイルをモデリングする方法の手順説明。建築分野で活用するための解説にこだわった

 

GrasshopperとRhinocerosを連動させて、パラメトリックモデリングを行う方法の解説動画

GrasshopperとRhinocerosを連動させて、パラメトリックモデリングを行う方法の解説動画

建築設計でよく使われるGrasshopperのスクリプト150個を集めた「Grasshopper150」

建築設計でよく使われるGrasshopperのスクリプト150個を集めた「Grasshopper150」

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グラフィソフトジャパン
BIMインプリメンテーションディレクター
飯田 貴 氏

建築分野での活用に特化したRhinocerosの解説は、BIMのスペシャリストも恩恵を受けている。グラフィソフトジャパンでBIMインプリメンテーションディレクターを務める飯田貴氏は「社内でもRhinocerosについては本で勉強したことがありましたが、今一つ、コツがつかめませんでした。しかし、Rhino-GH.comを見てわずか2日間、トレーニングしただけで建築での使い方がわかるようになりました」と語る。

日建設計のBIM活用ノウハウは、「ARCHICAD-Learning.com」にも盛り込まれている。「例えばBIMモデルをだんだん詳細化していくときに、壁の位置設定をきちんと決めておくかどうかで、壁のモデルを入れ替える作業や、部屋の面積計算の効率が大きく変わります。こうした設定方法についても、『なぜ必要なのか』『いつ設定するのか』を、建築設計のワークフロー従って説明しています」と西氏は言う。

このほか、日建設計で行っているゾーニングの考え方にも準拠している。

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グラフィソフトジャパン
プロダクトマーケティング
桐木 理考 氏

その一方で、図面のレイヤー設定やテンプレートは、ARCHICADに付属しているデフォルトのものをあえて使っている。「初心者がARCHICADを使って、すぐに練習できるようにするためです」と、グラフィソフトジャパン プロダクトマーケティングの桐木理考氏は言う。

インターネットを通じて、気軽にBIMソフトを学べるようにしたことで、社内では思わぬ効果も現れた。それは日ごろ、BIMソフトを使っていない管理職自らが、ARCHICADなどのトレーニングに励むことが多くなったことだ。

管理職がBIMを理解することは、BIMによるワークフローをスムーズに運営する上でもプラスに働いているようだ。

「日建設計DDLのメンバーが中心となり、先日、『Rhinocerosで学ぶ建築モデリング入門』という書籍の執筆を担当しました。本はじっくり学べるというメリットもありますが、本を購入するまでのハードルもあります。その点、eラーニングはすぐに学ぶことができ、すき間時間を有効に生かせるというメリットもあります。両者が補完し合って、BIMの裾野を広げられるといいと思う」と中川氏は言う。

また、日建設計は新入社員教育にも、Rhino-GH.comを2017年度から活用している。従来は2日間の座学講習を行っていたのが、今年からは独学環境を整備することで半日で済むようになったという。

   なぜ、貴重なノウハウを社外公開したのか

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日建設計
設計部門3Dセンター室兼DDL室兼CGスタジオ室長
吉田 哲 氏

日建設計という超一流の建築設計事務所が、自社のBIM活用ノウハウをつぎ込んで開発した「ARCHICAD-Learning.com」と「Rhino-GH.com」を惜しげもなく、無料で社外公開した理由は何なのだろうか。

日建設計 設計部門3Dセンター室兼DDL室兼CGスタジオ室長の吉田哲氏は「無料公開することでBIMの裾野を広げたいと考えました。BIMを活用して効果を上げていくためには、多くの人がデジタルデザインのワークフローに参加してもらう必要があるからです」と説明する。

また、学生や協力会社が日建設計とBIMで協業するときに、あらかじめこれらのサイトでトレーニングしておくと、業務がスムーズに進むというメリットもある。

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髙木秀太事務所
ディレクター
髙塚 悟 氏

一方、「Rhino-GH.com」については、既に東京大学と東京理科大学、工学院大学が授業 での活用を進めているが、今どきの学生ならではの問題もある。

髙木秀太事務所 代表の髙木秀太 氏は、「Rhino-GH.com」を使って大学で授業を行っている。「最近の学生は、スマートフォンは上手に使いこなせても、パソコンは使い方がよくわからないという人が結構います。その点、Rhino-GH.comのサイトを使って授業を行うと、動画での解説なのでパソコンに不慣れな学生も操作方法を学べるというメリットを実感しました」と言う。

日建設計では今後も第3、第4のeラーニングサイトの開発を行うことも検討している。次のテーマとしては、BIMソフトを中心としたファイルやデータの連携などを考えているという。

開発したサイトのフィードバックを行う、日建設計、グラフィソフトジャパン、髙木秀太事務所のスタッフ

開発したサイトのフィードバックを行う、日建設計、グラフィソフトジャパン、髙木秀太事務所のスタッフ

また、日建設計では「ARCHICAD-Learning.com」や「Rhino-GH.com」のコンテンツを生かして、教育機関や建築設計事務所、建設会社向けのオリジナル教材を作ることも認めている。希望する企業や団体は、髙木秀太事務所に相談してほしいとのことだ。

【参考サイト】
ARCHICAD-Learning.com : http://archicad-learning.com/
Rhino-GH.com : http://rhino-gh.com/


【問い合わせ】グラフィソフトジャパン株式会社
<本 社>
〒107-0052 東京都港区赤坂3-2-12 赤坂ノアビル4階
TEL:03-5545-3800
<大阪事業所>
〒532-0011 大阪市淀川区西中島7-5-25 新大阪ドイビル6F
TEL:06-6838-3080
ウェブサイト www.graphisoft.co.jp
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