構造設計を得意とする髙尾設計一級建築士事務所(本社:福岡県中間市)は、木造建物の一貫構造計算プログラムの出力データから、ArchicadによるBIMモデルや図面を作成するシステムを自社開発した。構造計算と図面が完全に一致するため、確認申請時の手戻りが大幅に減少する。この効率化を可能にしたのは、パラメトリックなBIMオブジェクトを作る「GDL」や、Archicadの操作を自動化する「Grasshopper-Archicad Live Connection」といったツールだ。
2019年にArchicad SoloでBIMデビュー
髙尾設計一級建築士事務所(以下、髙尾事務所)の代表を務める髙尾修二氏は、福岡県北九州市内の建設会社で約20年の勤務を経て、2019年に独立。現在の事務所を設立した。
それまでフリーソフトの「Jw_cad」などを使っていたが、独立を機にBIMに関心が高まり、2019年にグラフィソフトジャパンの「Archicad Solo」の導入を決断し、BIM活用に踏み出した。
初案件は、古巣の建設会社から依頼されたALC(軽量気泡コンクリート)構造の2階建て建物で、構造・意匠設計から施工図作成までを担当。これが初の本格的なBIMプロジェクトとなった。
「最初から施工段階のBIMまで対応しました。構造計算プログラムの結果をもとにArchicadで構造モデルを作成し、図面化まで行ったのです。施工段階ではALC版の割り付けも行い、施工BIMまでやったことになります」と髙尾氏は振り返る。
GDLの活用が自動化への第一歩
その過程で感じたのは、一貫構造計算の出力をそのままArchicadモデルに変換できれば、もっと効率が上がるのではないかということだ。そこでネット上のArchicadユーザーグループに入り、自動化を実現するためのアドバイスを求めた。
「Archicadの先輩が多くいて、みんな親切でした。そして東京のユーザーに教えてもらったのが、『GDL』というツールでした」(髙尾氏)。
GDL(Geometric Description Language)とは、ArchicadのBIMオブジェクトを、寸法などを入力するだけで自動作成するパラメトリックモデリングのツールだ。一度、テンプレートを作っておけばサイズ違いの3Dオブジェクトを迅速に作れる。
「例えば鉄骨構造では、継ぎ手は鉄骨のサイズに応じてボルトの本数が決まっています。基本的なパラメーターを入力するだけで、詳細な3Dモデルが作れるので、モデリング作業が大幅に自動化できます」と髙尾氏は語る。
また、GDLには図面の縮尺や平面図・立面図といった図面種別に応じて記号の表示形状を変化させる機能も備わっており、木造軸組構造の図面作成にも有効である。
例えば筋交いには「片筋交い」や「両筋交い」があり、それぞれ三角形の記号で表される。これらの記号をGDLに組み込むことで、図面や3Dモデルで自動的に表示が切り替えられるようになった。
さらにGDLの属性をArchicadの集計機能で拾い、継ぎ手や金物のリスト作成も自動化した。
筋交いなど斜めになった部材の作図は、まず中心線を引いて左右に平行線を引き、交差する部材のところでトリムする、という手順で行うことが多い。
また木造軸組み構造に使用する金物のオブジェクトを作っておけば、後述の「Grasshopper-Archicad Live Connection」というツールで、一気に配置できる。
GDLはBIMオブジェクトをパラメトリックに作るだけでなく、作図作業の段階で必要だった膨大な「ひと手間ひと手間」を削減でき、大幅な生産性向上を実現するツールとしても役立つのだ。
Grasshopperで木造建物の構造計算結果をモデル化
建築物の確認申請で最も重要なのは、建物各部の強度を照査した一貫構造計算プログラムの計算結果と、BIMモデルや図面が完全に一致していることだ。
鉄筋コンクリート造や鉄骨構造の構造設計では、「ST-Bridge」というデータ交換フォーマットが既に開発されていて、一貫構造設計プログラムとBIMソフトの間で属性情報を含めてデータ交換が行える。しかし、木造建物にはこうしたデータ交換の仕組みがない。
そこで高尾氏は、グラフィソフトが無料公開しているArchicad用のプラグインツール、「Grasshopper-Archicad Live Connection」に着目した。
Grasshopperはもともと、「Rhinoceros」という3Dモデリングソフトの操作を、数式やアルゴリズムによって自動化するためのツールだが、このツールをArchicadと連携させることで、BIMモデルとの双方向接続が可能になる。
髙尾氏は、このツールを活用し、一貫構造計算プログラムの結果データ(CSV形式)から、柱や梁の座標情報をExcelに読み込み、VBAによって属性情報を追加したうえでGrasshopperに読み込むというフローを構築。これにより、Archicad上に構造BIMモデルを自動生成することに成功した。
「1500平米程度の建物なら、Excelでの処理を含めて20~30分程度でモデルが完成します。手作業でデータ転記が不要になったので、一貫構造計算とBIMモデルが完全に一致するようになりました」と髙尾氏は言う。
●一貫構造計算から構造BIMモデルを自動生成するワークフロー |
自動化で個人設計事務所の可能性を広げる
こうしたArchicadの自動化によって、一貫構造計算と図面の間で、部材の大きさや寸法から、仕口の種類、継ぎ手のボルト本数に至るまで、不整合はほとんどなくなった。
「もちろん、大所高所のチェックは欠かしませんが、細かい寸法の転記ミスなどに注意力を使わなくて済む分、本当に重要な部分の異常に気づきやすくなりました」(髙尾氏)という。
GDLや「Grasshopper-Archicad Live Connection」などによる自動化によって、個人事務所であるにもかかわらず、髙尾氏1人でこなせる案件の規模は飛躍的に拡大した。かつては300~500平米、3階建て規模の設計が限界だったが、現在では木造で1500平米、鉄骨造で3000平米、最大7階建てクラスの設計も手がけるようになっている。
自作GDLの無償公開でBIMの普及に貢献
これまで髙尾氏は、全国のArchicadユーザーグループのメンバーから多くの支援を受けながら、自動化のノウハウを蓄積してきた。その恩返しとして、現在では自作のGDLをグループ内で無償公開している。
中でも「フーチング基礎配筋設計」のGDLは、必要なパラメーターを入力するだけで、3Dの配筋モデルが生成され、図面化まで自動で行える便利なツールとなっている。
「構造設計者にももっとBIMを使ってほしい。一貫構造計算プログラムのデータには、BIMモデルの属性情報として有用なものが多数含まれています。それを活用すれば、設計業務の生産性向上は誰でも実現できるはずです」と髙尾氏は力強く語った。
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