福岡市博多区にある麻生建築&デザイン専門学校は、2020年12月にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Archicad」を使った校内デザインコンペをグラフィソフトジャパンと共同開催した。コロナ禍で集まっての作業が難しい中、参加した10チームは「BIMcloud」を活用し、自宅にいながら共同作業を行い、短期間で高いレベルの作品を作り上げた。その成果は、BIMによる建築教育の可能性を予見させるものだった。
1カ月のコンペでBIMのスキルが急上昇
風呂に入るだけでなく、人々が気軽に集える新しいコミュニティースペースとしての銭湯をBIMで提案してください───コロナ禍で集合教育もままならなくなっていた2020年11月9日、JR博多駅に近い麻生建築&デザイン専門学校の学生に「学生BIMコンペティション」の課題が公開された。
締め切りは4週間後の12月6日。1チーム5人以内で、モデリングにはGRAPHISOFTの「Archicad」とオンラインで共同設計が行えるチームワーク機能を使うのがルールだ。
参加10チームの作品は、グラフィソフトジャパンのスタッフがモデルの完成度や図面の整合性、表現力などの観点から総合評価を行った。
そして12月11日に麻生建築&デザイン専門学校で、予選を勝ち抜いた上位4チームがArchicad用のプレゼンテーションツール「BIMx」による発表を行った。
審査員は、オンラインで参加したグラフィソフトジャパンのコバーチ・ベンツェ代表取締役社長、カスタマーサクセス ディレクターの飯田貴氏とマーケティングサクセス ディレクターのトロム・ペーテル氏が務めた。
どの作品も力作であり、審査員も甲乙付けがたい出来栄えに悩んだが、僅差で最優秀賞に輝いたのが、「チームアダルト」の作品「くらの湯」だった。
メンバー全員が成人で、お酒好きが集まった同チームは、衰退しつつある日本の酒蔵と銭湯文化を組み合わせて活気を取り戻す施設の魅力を、BIMxによるウォークスルーで余すところなく紹介した。
「既存の酒蔵を改修してコミュニティースペースに改装するという具体性のあるアイデアが他チームとの違いでした。適材適所のツールを使い、木造の軸組構造までを含めてArchicadでしっかりモデリングしていました。メンバーみんなが楽しそうに作業していたのが印象に残っています」と同校教務部 建築系リーダーの福光春子先生は振り返る。
1カ月のコンペでBIMのスキルが急上昇
いったい、どんなメンバーが1カ月足らずの短期間で、このような本格的な作品を仕上げたのだろうか。
チームのリーダーを務めたのは、泉尚希さん。1年生ながら年齢は23歳。というのも、高校卒業後に陸上自衛隊に入隊。4年間の勤務の後、前から好きだった建築への道を目指して同校に入学した経歴を持つ。
「自衛隊でも建設関連の部署にいたので、CADは使っていましたがArchicadに触ったのは、入学前のオープンキャンパスでの体験が初めてでした。今回のコンペでは、各メンバーそれぞれに得意な分野があるので、LINEでグループを作って作業を分担しました」と泉さんは振り返る。
メンバーの一人、キム・エニ(KIM ENI)さんは2年生。韓国で不動産と建築の仕事を経験した後、入学した。日本には6年間住んだ経験がある。
「Archicadはこの学校に入ってから学びました。BIMのスキルはそんなに高くなかったのですが、今回のコンペを通じていろいろと他のメンバーに教えてもらったので、上達しました。卒業後は建設会社に就職しますが、仕事でもBIMを生かしたいと思っています」と語るキムさんの表情からは、Archicadで将来の活動が広がった感じがうかがわれた。
田籠由樹さんは、普通科の高校を卒業し、大学を経て家具の営業の仕事をしていた。昔から建物が好きだったので同校に入学した。今回のコンペの題材となった酒蔵は、田籠さんの地元・久留米市内にある。
「今は廃業しているこの酒蔵を、リニューアルして銭湯にすることを思いつき、他のメンバーと現地の下見もしました。これからも建築の力で地元を盛り上げていけたらと思います」と、今回のコンペを通じて、メンバーと共に出し合ったアイデアをBIMで可視化できた経験に手応えを感じているようだ。
最後の一人、髙良拓実さんは21歳の1年生。工業高校の電気科を卒業し、大手電機メーカーのファクトリーオートメーション部門で3年間働いた後、同校に入学した。
「初めはBIMの操作に自信がありませんでしたが、仲のいいメンバーに誘ってもらったことに感謝しています。コンペを通じてBIMのスキルも上がりました」と高良さんは、1カ月間の進歩に満足そうだ。
●チームアダルトのメンバープロフィール
BIMcloudでコロナ禍でもコラボレーション
今回の学生BIMコンペ開催のいきさつについて、麻生建築&デザイン専門学校の校長代行を務める今泉清太先生はこう語る。
「以前は学生向けのBIMコンペがよく開催されていましたが、最近は少なくなりました。学生にとって、勉強やスキルアップの目標としてこうした発表の場が欲しいと、2020年の5月ごろにグラフィソフトジャパンに相談したところ、まずは学内でやってみようということになりました」。
銭湯とコミュニティスペースを組み合わせた課題について、学生の自由な発想を重視するため、部屋数や床面積など細かいことはあえて要求しなかった。
これまでなら、各チームのメンバーは教室などに集まって作品作りをするところだが、昨今のコロナ禍のため集合しての作業は行いにくい。そこで威力を発揮したのが、Archicad用のクラウドシステム「BIMcloud」だ。
学校で課題が発表された後、各チームのメンバーは自宅からBIMcloudにアクセスし、「チームワーク機能」を使ってオンラインでの共同作業を行いながら、作品を作り上げていったのだ。コンペ最終審査で学生が口々に語ったのは、「学校だけでなく、自宅でもArchicadを使って作業できたのがとても便利だった」ということだ。
福光先生は、「本校では毎年、BIMゼミという授業が開講され、1年生から3年生までが参加し、Archicadのチームワーク機能もよく使っています。そのため自宅からでも、メンバー間でのスムーズなコラボレーションができたようです」と語る。
グラフィソフトジャパン営業部で九州や沖縄を担当するシニアセールスマネージャーの伊佐野寛氏は、「学校での建築教育を支援しようと、2020年10月に学校教育用のBIMcloud「EDU.BIMcloud」を無償化しました。同年12月には既に200人近いユーザーに達しています」と説明する。
同校でBIMゼミの指導を担当する非常勤講師の道脇力先生は、「BIMゼミでは先輩と後輩が週に1回、同じ教室で学びます。そして先輩は後輩の面倒を見ながら、BIMについて『説明できる』能力を身につけて行きます。今回のコンペではその文化が生かされました」と言う。
コロナ禍の中でも、Archicadのチームワーク機能やBIMcloud、そして学生同士で教え合う文化があれば、建築教育は止まることなく進むことがコンペによって実証されたと言えそうだ。
「さらにBIMとオンラインを組み合わせることで、国内外の他校とのコミュニケーションを図ることも可能です。毎年、課題を変えてBIMコンペを実施すると、病院や保育所など様々な分野の設計を体験でき、建築教育にも幅が広がりそうです」と道脇先生はBIMによる建築教育の可能性について語った。
●学生BIMコンペの参加作品
2位 優秀賞 「HAKK」チーム 作品名:憩いの湯 | ||
3位 入賞 「すえながまん’s」チーム 作品名:夜永 | ||
4位 入賞 「山猿」チーム 作品名:海底十五万マイル | ||
参加作品 | ||
【問い合わせ】 グラフィソフトジャパン株式会社 <本 社> 〒107-0052 東京都港区赤坂3-2-12 赤坂ノアビル4階 <大阪事業所> 〒532-0011 大阪市淀川区西中島7-5-25 新大阪ドイビル6F <福岡営業所> 〒810-0801 福岡県福岡市博多区中洲5-3-8 アクア博多5F ウェブサイト https://graphisoft.com/jp |