コロナ禍の中、麻生建築&デザイン専門学校がBIMコンペを開催
ArchicadとBIMcloudで在宅コラボ(グラフィソフトジャパン)
2021年2月2日

福岡市博多区にある麻生建築&デザイン専門学校は、2020年12月にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Archicad」を使った校内デザインコンペをグラフィソフトジャパンと共同開催した。コロナ禍で集まっての作業が難しい中、参加した10チームは「BIMcloud」を活用し、自宅にいながら共同作業を行い、短期間で高いレベルの作品を作り上げた。その成果は、BIMによる建築教育の可能性を予見させるものだった。

2020年12月11日に、麻生建築&デザイン専門学校で開催された最終審査

   1カ月のコンペでBIMのスキルが急上昇

風呂に入るだけでなく、人々が気軽に集える新しいコミュニティースペースとしての銭湯をBIMで提案してください───コロナ禍で集合教育もままならなくなっていた2020年11月9日、JR博多駅に近い麻生建築&デザイン専門学校の学生に「学生BIMコンペティション」の課題が公開された。

締め切りは4週間後の12月6日。1チーム5人以内で、モデリングにはGRAPHISOFTの「Archicad」とオンラインで共同設計が行えるチームワーク機能を使うのがルールだ。

参加10チームの作品は、グラフィソフトジャパンのスタッフがモデルの完成度や図面の整合性、表現力などの観点から総合評価を行った。

そして12月11日に麻生建築&デザイン専門学校で、予選を勝ち抜いた上位4チームがArchicad用のプレゼンテーションツール「BIMx」による発表を行った。

審査員は、オンラインで参加したグラフィソフトジャパンのコバーチ・ベンツェ代表取締役社長、カスタマーサクセス ディレクターの飯田貴氏とマーケティングサクセス ディレクターのトロム・ペーテル氏が務めた。

福岡の会場で発表した学生(左下)とオンラインで質問するグラフィソフトジャパンの審査員たち。左上から時計回りにトロム・ペーテル氏、飯田貴氏、コバーチ・ベンツェ氏

どの作品も力作であり、審査員も甲乙付けがたい出来栄えに悩んだが、僅差で最優秀賞に輝いたのが、「チームアダルト」の作品「くらの湯」だった。

メンバー全員が成人で、お酒好きが集まった同チームは、衰退しつつある日本の酒蔵と銭湯文化を組み合わせて活気を取り戻す施設の魅力を、BIMxによるウォークスルーで余すところなく紹介した。

BIMxのウォークスルー機能を使った「チームアダルト」のプレゼンでは、女湯の中も案内した

「既存の酒蔵を改修してコミュニティースペースに改装するという具体性のあるアイデアが他チームとの違いでした。適材適所のツールを使い、木造の軸組構造までを含めてArchicadでしっかりモデリングしていました。メンバーみんなが楽しそうに作業していたのが印象に残っています」と同校教務部 建築系リーダーの福光春子先生は振り返る。

最優秀賞を受賞したチームアダルトのメンバー

最優秀賞に輝いた「チームアダルト」の作品

酒だるを生かした浴室スペース

酒蔵の雰囲気を残した脱衣場

木造軸組構造もArchicadでしっかり表現した

全体プラン

   1カ月のコンペでBIMのスキルが急上昇

いったい、どんなメンバーが1カ月足らずの短期間で、このような本格的な作品を仕上げたのだろうか。

チームのリーダーを務めたのは、泉尚希さん。1年生ながら年齢は23歳。というのも、高校卒業後に陸上自衛隊に入隊。4年間の勤務の後、前から好きだった建築への道を目指して同校に入学した経歴を持つ。

「自衛隊でも建設関連の部署にいたので、CADは使っていましたがArchicadに触ったのは、入学前のオープンキャンパスでの体験が初めてでした。今回のコンペでは、各メンバーそれぞれに得意な分野があるので、LINEでグループを作って作業を分担しました」と泉さんは振り返る。

メンバーの一人、キム・エニ(KIM ENI)さんは2年生。韓国で不動産と建築の仕事を経験した後、入学した。日本には6年間住んだ経験がある。

「Archicadはこの学校に入ってから学びました。BIMのスキルはそんなに高くなかったのですが、今回のコンペを通じていろいろと他のメンバーに教えてもらったので、上達しました。卒業後は建設会社に就職しますが、仕事でもBIMを生かしたいと思っています」と語るキムさんの表情からは、Archicadで将来の活動が広がった感じがうかがわれた。

田籠由樹さんは、普通科の高校を卒業し、大学を経て家具の営業の仕事をしていた。昔から建物が好きだったので同校に入学した。今回のコンペの題材となった酒蔵は、田籠さんの地元・久留米市内にある。

「今は廃業しているこの酒蔵を、リニューアルして銭湯にすることを思いつき、他のメンバーと現地の下見もしました。これからも建築の力で地元を盛り上げていけたらと思います」と、今回のコンペを通じて、メンバーと共に出し合ったアイデアをBIMで可視化できた経験に手応えを感じているようだ。

最後の一人、髙良拓実さんは21歳の1年生。工業高校の電気科を卒業し、大手電機メーカーのファクトリーオートメーション部門で3年間働いた後、同校に入学した。

「初めはBIMの操作に自信がありませんでしたが、仲のいいメンバーに誘ってもらったことに感謝しています。コンペを通じてBIMのスキルも上がりました」と高良さんは、1カ月間の進歩に満足そうだ。


●チームアダルトのメンバープロフィール

泉 尚希さん
高校時代から建築には興味があった。陸上自衛官として4年勤務後、入学。

KIM ENIさん
韓国で不動産と建築の仕事を経験。卒業後はBIMを仕事に生かしたい。

田籠 由樹さん
普通科の高校、大学を卒業後、家具の営業を経験。酒蔵の近くに実家がある。

髙良 拓実さん
ファクトリーオートメーションの仕事を3年経験後、入学。BIMが得意に。

   BIMcloudでコロナ禍でもコラボレーション

今回の学生BIMコンペ開催のいきさつについて、麻生建築&デザイン専門学校の校長代行を務める今泉清太先生はこう語る。

「以前は学生向けのBIMコンペがよく開催されていましたが、最近は少なくなりました。学生にとって、勉強やスキルアップの目標としてこうした発表の場が欲しいと、2020年の5月ごろにグラフィソフトジャパンに相談したところ、まずは学内でやってみようということになりました」。

銭湯とコミュニティスペースを組み合わせた課題について、学生の自由な発想を重視するため、部屋数や床面積など細かいことはあえて要求しなかった。

コンペの課題が発表された日、教室で話し合う各チームの学生たち。その後は、BIMcloud上でのオンライン作業が中心となった

これまでなら、各チームのメンバーは教室などに集まって作品作りをするところだが、昨今のコロナ禍のため集合しての作業は行いにくい。そこで威力を発揮したのが、Archicad用のクラウドシステム「BIMcloud」だ。

学校で課題が発表された後、各チームのメンバーは自宅からBIMcloudにアクセスし、「チームワーク機能」を使ってオンラインでの共同作業を行いながら、作品を作り上げていったのだ。コンペ最終審査で学生が口々に語ったのは、「学校だけでなく、自宅でもArchicadを使って作業できたのがとても便利だった」ということだ。

福光先生は、「本校では毎年、BIMゼミという授業が開講され、1年生から3年生までが参加し、Archicadのチームワーク機能もよく使っています。そのため自宅からでも、メンバー間でのスムーズなコラボレーションができたようです」と語る。

グラフィソフトジャパン営業部で九州や沖縄を担当するシニアセールスマネージャーの伊佐野寛氏は、「学校での建築教育を支援しようと、2020年10月に学校教育用のBIMcloud「EDU.BIMcloud」を無償化しました。同年12月には既に200人近いユーザーに達しています」と説明する。

学生BIMコンペを通じて学生の成長を見守った麻生建築&デザイン専門学校の先生方。左から福光春子先生、今泉清太先生、道脇力先生

同校でBIMゼミの指導を担当する非常勤講師の道脇力先生は、「BIMゼミでは先輩と後輩が週に1回、同じ教室で学びます。そして先輩は後輩の面倒を見ながら、BIMについて『説明できる』能力を身につけて行きます。今回のコンペではその文化が生かされました」と言う。

コロナ禍の中でも、Archicadのチームワーク機能やBIMcloud、そして学生同士で教え合う文化があれば、建築教育は止まることなく進むことがコンペによって実証されたと言えそうだ。

「さらにBIMとオンラインを組み合わせることで、国内外の他校とのコミュニケーションを図ることも可能です。毎年、課題を変えてBIMコンペを実施すると、病院や保育所など様々な分野の設計を体験でき、建築教育にも幅が広がりそうです」と道脇先生はBIMによる建築教育の可能性について語った。

●学生BIMコンペの参加作品

 2位 優秀賞 「HAKK」チーム 作品名:憩いの湯

和風テイストの作品。ツールや部材を適材適所に使い、外観・内観ともにモデリングした。もみじのガラスなど、オリジナルな建材も作成した
メンバー:久保田大樹、平尾杏海、赤城七奈、木村勇樹(以下、敬称略)

 3位 入賞 「すえながまん’s」チーム 作品名:夜永

福岡の繁華街、天神にスケールの大きな酒だる形の建物が集まる施設を設計した。銭湯だけでなく、コミュニティースペースには様々なお店もデザインした
メンバー:末永乃愛、江川優美、角川瑞稀、和田あずみ

 4位 入賞 「山猿」チーム 作品名:海底十五万マイル

カナダのフェンディ湾に巨大な銭湯を建設する壮大なテーマをArchicadで表現した。15mもある潮の干満を利用したエレベーター機構も取り入れた。
メンバー:山野皓成、奥野修史、深浦天、山岡士晃

 参加作品

「ナナナガレ」チーム
高瀬陸人、中山翔太、梅尾伸明、吉田祐昇

「アジア連合」チーム
上別府涼太、深港鈴華、DILIDANA XIAOKETI、YI GYUNG HYUN

「MORI TAN」チーム
森浩介、熊野翔太、山本夏瑠、松嵜樹

「マイケル」チーム
神本壱晟、永淵悠希子、田中稜祐、宇津咲楽

「Snow」チーム
古藤日和、新地葵、江田華菜

「チームノウサン」チーム
原愛、山口千尋、新納悠加、笹村愛実

参加チームのメンバー全員での記念写真

【問い合わせ】
グラフィソフトジャパン株式会社
<本 社>
〒107-0052 東京都港区赤坂3-2-12 赤坂ノアビル4階
<大阪事業所>
〒532-0011 大阪市淀川区西中島7-5-25 新大阪ドイビル6F
<福岡営業所>
〒810-0801 福岡県福岡市博多区中洲5-3-8 アクア博多5F

ウェブサイト https://graphisoft.com/jp

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