大和ハウス工業はコロナ禍で住宅展示場の来場者が落ち込んだ対策として、インターネット上に「メタバース住宅展示場」を開設した。仮想の3D住宅の外観や、内観の壁紙やインテリアなどを変えながら、オンラインで来場者を案内する”メタバース接客”は、従来の住宅展示場とは違った体験ができると大好評だ。この展示場の”建設”には、STUDIO55が日本総代理店を務める、オンライン3D空間(VR,メタバース)でお客さまとコミュニケーションが図れる「shapespark」が使われ、企画から制作まで一貫して行った。
オンラインでメタバース展示場へ気軽に来場可能
2020年からのコロナ禍の影響で、大和ハウス工業が各地に設ける住宅展示場は、一時、来場者が大幅に減った。その対策として同社はインターネット上に業界初のメタバース住宅展示場を公開した。
「リアルの住宅展示場と違って、どこからでもオンラインで安心してご来場いただけます。中にはコロナに感染して自宅療養中の方が、来られたこともありました」と、大和ハウス工業 住宅事業本部 マーケティング室 顧客体験改革グループ 上席主任の山口知洋氏は説明する。
メタバースとは、VR(バーチャルリアリティー)空間の中に複数の人が仮想的に集合して、会話などのコミュニケーションが行える仕組みのことだ。
大和ハウス工業は、この仕組みを住宅展示場に応用し、バーチャル空間の中に実物と同様の戸建住宅の3Dモデルを建設した。オンライン来場者は、パソコンやスマートフォンなどの画面で、あたかも実際のモデルハウスを訪れたような気分で、住宅の内外を見学できる。
2022年までに、25~100坪の住宅をモデルとしたメタバース住宅展示場を4棟公開した。
生身の社員がだるまに扮して案内
ポイントは、単に住宅の3Dモデル内を内見するだけでなく、愛嬌(あいきょう)たっぷりの「だるま型アバター」に扮(ふん)した生身の社員がオンライン接客を行うことだ。
現在は同社のWebサイト「LiveStyle PARTNER(リブスタイル パートナー)」の会員を対象とした予約制で、1組当たり平均で30分から1時間ほどの接客を行っている。
「お客さまにはまず、ドローンに乗ったような気分で、上空から住宅を見下ろす視点で外観を見ていただきます。普段、目にすることがない太陽光パネルも見せて『これで3.7kWサイズです』などと説明すると、皆さんは『おおー』と歓声を上げられますね」と山口氏は語る。
続いてリビングの内部を案内し、間取りの特徴を説明する。一般の間取り図と違って、上から見下ろしたパースを使えるので、これからの生活がイメージしやすい。
「家具やインテリアの色も、その場で変えながら見ていただけます。犬を飼っているお客さまには、愛犬の視点に切り替えて、犬の休憩場所の高さなどを見ていただきます」(山口氏)。
こうした案内を続けているうちに、お客さまから「階段下に収納スペースを設けられるか」といった質問などが出てくると、だるま型アバターに扮した社員が即座に答える。リアルな展示場にいるのと同じようなやり取りが行えるのだ。
メタバース接客が可能な「shapespark」を選択
このメタバース住宅展示場は、「shapespark」というシステムを使って、STUDIO55(本社:東京都港区)が作成したものだ。
「一般のバーチャル展示場は、来場者は自由に見てくださいというタイプが多いですが、これだと『待ちの営業』になってしまいます。そこで、Webの中で人が接客できるメタバースタイプのシステムを探しました。最後に行き着いたのが『shapespark』でした」と山口氏は振り返る。
「shapespark」の特長は、普通のパソコンやスマートフォンを使ってアクセスできること。VR画面も軽快にサクサク動き、音声もクリアに聞こえる。オンライン会議のような画面共有機能で、資料やプランの図面を見せられるので、リアルの住宅展示場と同じような接客が可能だ。
「だるま型アバターの顔には、接客する社員の顔や表情が映ります。そのため、お客さまと自然なコミュニケーションができ、時には笑いも取りながら接客が進みます」と山口氏は「shapespark」ならではのメリットを説明する。
メタバース住宅展示場の来場者は、当初、30代が多いと予想していたが、40~50代の世代も多かった。来場者も全国各地から集まっている。
「北海道にいる両親と東京にいる子どもをメタバース住宅展示場に集めて、一緒に案内したこともあります。リアルな展示場だと、なかなかできないでしょう」(山口氏)。
地震などの災害に対する強さをアピールするときは、壁を透明にして、内部の頑丈な鉄骨構造を見せる。すると多くの来場者は「おおー」と歓声を上げるという。これもメタバース住宅展示場ならではのアピールポイントだ。
1~2カ月で“建設”できるスピード感
メタバース住宅展示場の制作期間は、通常の2階建てだと3週間ほど。5階建ての店舗付き住宅でも、打ち合わせを含めて2カ月程度だ。
今回のメタバース住宅展示場制作では、大和ハウス工業はSTUDIO55にCAD図面や3Dモデルを提供し、色の指示などを行った。
「リアルの住宅展示場だと、億円単位の費用がかかり、建設にも1年くらいかかります。また、各地の展示場に同じタイプの住宅を複数建てることもあります。その点、メタバース住宅展示場なら1タイプにつき1つのデータを作るだけでよく、制作費用もリアルとは比べられないほどコストパフォーマンスは高いです」と山口氏は言う。
STUDIO55は「デザインデータの見える化」を得意とし、3DCGやVR、点群データサポート、メタバース空間の構築を行っているDXデザイン・プレゼンサポート会社だ。
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のサポートも行っており、ArchicadやRevitのほか、RhinocerosやGrasshopperも使える。2023年1月現在、国内に88人、海外に614人のスタッフを擁している。
可能性が広がるメタバース住宅展示場
メタバース住宅展示場に、現在、同時にアクセスできる人数はスタンダードプランで10⼈、プランによっては最大30⼈までアクセス可能だ。メタバース住宅展示場に多くの人を集めて、オンラインの住宅セミナーを開くこともできそうだ。
最近は南欧風や平屋建てなどの人気が高くなっており、木造とコンクリートの混構造タイプなど、個性的な住宅を志向する顧客も少なくない。
こうしたモデルハウスを、リアルな展示場に建設するのは、土地や費用対効果の点で難しいが、全国から広く集客できるメタバース住宅展示場なら実現できるだろう。
また、住宅から見える外の景色も、春夏秋冬の季節を切り替えて、1年を通したデザインの検討を行うことで、顧客満足度を高めることもできそうだ。
STUDIO55は世界中の家具や建材などのBIMデータを集めた「BIMobject」とも提携しているので、住宅のデザイン時に市販されている家具もセットで提案することで、住宅と家具をセットで販売する、工務店の新ビジネスも期待できる。
大和ハウス工業では、メタバース住宅展示場で同社の住宅に興味を持ってくれた顧客に、次のステップとしてリアルな展示場に足を運んでもらい、より成約率を高めるという効果も期待している。
メタバース住宅展示場は、コストや時間をかけずに大企業から中小工務店までが活用できる、ポストコロナ時代の新たな住宅販売チャネルとなりつつあるようだ。
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