不動テトラは、オートデスクのビジュアルプログラミング言語ツール「Dynamo」を使って、BIM/CIMソフト「Revit」のモデルに属性情報を一斉に付与する「属性情報自動一括付与プログラム(仮)」を開発した。同様の機能を持つプログラムは、NavisworksやCivil 3D用には開発されていたが、Revit用としては初めてだ。不動テトラはこのプログラムを2000本に上る地盤改良杭の施工管理に使用したほか、今後、様々な工種の設計や施工管理に使用していく方針だ。
属性情報入力時間は約50分の1に
「Revitで作成した地盤改良杭のBIM/CIMモデルに、施工時の情報を1本ずつ入力していくと69.5日かかるところでした。それが今回、Dynamoで開発したシステムを使うと、わずか1.5日で済んだのです。属性の入力時間は約50分の1に大幅短縮されました」と、不動テトラ 土木事業本部 技術部開発課課長の山崎真史氏は語る。
同社は2022年4月から、東京・荒川の下流で、中川側の護岸に接する河床の地盤改良工事を行っている。使用しているのはセメント系の材料と現地盤の土砂を混ぜて地盤を固める「深層混合処理工法」という工法だ。
1600mm径のローター2軸を備えた地盤かくはん機を使い、地下を最大16mの深さまで、固めていく。首都高の橋桁下などは、1200mm径の低頭型マシンも使う。地盤改良杭の総数は約2000本にも上った。
地盤改良杭の施工管理をBIM/CIMモデルで行うためには、地盤改良杭のモデルに施工日や改良杭の施工No、施工時の偏心量、改良地盤の圧縮強度などの属性情報を入力する必要があり、膨大な作業工数が従来の課題であった。Civil 3DやNavisworksには、表計算ソフトでまとめた属性情報データをBIM/CIMモデルに転送するプログラムが既に市販されている。
しかし、今回の工事で発注者から提供されたCIMモデルは、オートデスクのBIM/CIMソフト「Revit」で作られたものだった。Revit用にはまだ、属性情報を外部データから取り込むためのプログラムは市販されていなかった。
「そこで、これらの施工管理データを表計算ソフト『Excel』から、Revitモデルに一気に自動登録するために、オートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を使ったプログラムを自社開発しました」と山崎氏は振り返る。
Dynamoによる自動化で手戻り削減
Revitモデルに属性情報を自動登録するプログラム開発に使われた「Dynamo」とは、オートデスクのRevitやCivil 3DなどBIM/CIMソフトを自動制御するために開発されたビジュアルプログラミング言語だ。
BIM/CIMソフトによるモデリングや属性情報の管理はこれまで、設計者がマウスやキーボード操作で部材をひとつひとつ、手作業で入力することが多かった。その作業を、Dynamoが自動的に行ってくれるものだ。いわば、表計算ソフトのマクロや関数のBIM/CIMソフト版と言えるだろう。
「Dynamoを利用すると、エクセルデータが別の列と入れ替わっていたなどの問題が発生したときでも、正しいデータをプログラムに流し直すだけで済むので、手戻りは大幅に削減できます。手作業だと、最初からやり直すのは大変なロスにつながりますからね」と開発課の阿部喜生氏はプログラムによるBIM/CIM自動化のメリットを説明する。
もう一つ、Dynamoを使うメリットは、Revit用に開発したプログラムをAutoCADやCivil 3D、Navisworksなど、別のオートデスク製品でも使えることだ。貴重な知的資産であるプログラムを、他のソフトにも応用できるので、開発や管理のコストもその分、下がることになる。
「Dynamoは『Python』というプログラム言語に近く、開発プロジェクトにはPythonの経験者である20代社員がいたことも、開発の追い風となりました」と、開発課の阿部喜生氏は説明する。
不動テトラでは、属性情報の登録プログラムのほか、海岸などに設置する消波ブロック「テトラポッド」の自動配置プログラムもDynamoで開発した。施工前にブロックの配置や積み方をシミュレーションするほか、実際の施工時にもICT施工用のデータとして活用している。
BIM/CIMスピード展開の秘密は?
不動テトラの土木事業本部では2015年以降、複雑な配筋状況を3Dモデル化するなどBIM/CIMの導入を始めたが、一部での“手作業のBIM/CIM活用”にとどまっていた。
それが本部ベースでの取り組みに進んだのは、2021年に技術部がBIM/CIM推進を始めてからだ。
それからわずか2年足らずで、DynamoによるBIM/CIMの自動化という、高度な活用にまでこぎ着けた。その秘密は、やはり若手社員の力を引き出す人材活用法にあった。
BIM/CIMやICT(情報通信技術)を担当するチームの会議は以前、年に3~4回の開催だったが、毎月開催に頻度を高めた。そして以前はBIM/CIMに対する活動はワーキンググループ扱いだったが、業務として正式に扱うようにしたことで、活動が業務評価につながるようになり、BIM/CIMへの取り組みが一気に熱を帯び始めた。
「会議では、若手社員もアイデアなどを発言しやすいように、自由な雰囲気を心掛けました。その結果、外国人の若手技術者も自分で構造解析ソフト『Robot Structural Analysis』などを見つけてきて、業務での活用を広げるといった効果が、次々と出てきました」と土木事業本部 技術部長の船田哲人氏は振り返る。
このほか各事業部のBIM/CIM、ICT担当技術者同士が、定期的な連絡会でBIM/CIM活用についての情報共有も行っている。その結果、トップダウンとボトムアップの両方で、BIM/CIM活用が急ピッチで進んだのだ。
監理技術者にBIM/CIMスキルを
不動テトラでは、毎年2~3人の現場技術者を土木工事部に所属のまま技術部に籍を置くCIM人材育成要員を選定し、BIM/CIMモデラーとしてのスキルを習得させ、BIM/CIMマネジャーを育成、増員する方針だ。
ターゲットは、若手社員から現場の監理技術者レベルで、今後は現場要員でも現場にいながら、BIM/CIMモデルを取り扱うスキルを習得できるように計画している。3年計画でCIMマネジャーを5人、CIMモデラーを10人育成する。その方法は、トレーニング教材による自習方式を基本とし、オートデスクのBIM/CIM対応クラウドシステム「Autodesk Docs」を教材データの共有および質問の場として活用する。
東京本店 土木技術室の小林純氏は「基本的なBIM/CIMスキルを学びながら、過去に自分が担当した現場の3D化にもチャレンジしてもらいます。橋脚などは比較的簡単にモデリングできる一方、実際に施工した現場なのでやる気も出るでしょう」と、リアルな現場を担当した技術者ならではのBIM/CIM習得効果にも期待している。
実際に、ある工業高等専門学校(高専)を卒業した2年目の技術者は、20日間のトレーニングの後、わずか3日間で現地の地形に排水勾配をすり付けた、精緻な道路CIMモデルを自力で作ったという。生まれたときからインターネットや3Dゲームがあり、それに親しんできたデジタルネーティブのZ世代パワーは、BIM/CIMの世界でもその実力を発揮している。
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