佐藤工業がRevitの設計機能をDynamoで自動化し生産性を向上! 手作業から「プログラミングのBIM」への転換戦略(オートデスク)
2021年12月20日

今後、激化する人手不足時代に備えて、佐藤工業はこれまで手作業で行ってきたBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデル作成や作図などを、プログラムで自動化する取り組みを行っている。その武器となるのが、オートデスクのBIMソフト「Revit」などを自動化するために開発された「Dynamo」というビジュアルプログラミングツールだ。この自動化によって、Revitを活用する社内の構造設計者が、急速に増えた。

  手作業のBIMをDynamoで自動化へ

佐藤工業 BIM推進部
主任
山口 善弘 氏

「これまでのBIMは手作業による部分が多くありました。例えば、梁や柱などの部材をひとつひとつ、3D空間に配置したり、BIMモデルから出力された図面を仕上げたりする作業です。しかし、これから厳しくなる一方の人手不足に対応するためには、こうした手作業はいずれ限界がくるでしょう」と語るのは、佐藤工業
BIM推進部主任の山口善弘氏だ。

「そこで当社では、これまで手作業で行ってきたBIMモデルの作成や図面化、ファミリやテンプレートの管理を、プログラムで自動化する取り組みを始めました。その武器となるのが、『Dynamo』です」(山口氏)。

Dynamoとは、RevitやCivil 3DなどオートデスクのBIM関連ソフトを自動制御できるように開発されたビジュアルプログラミング言語。その機能を簡単に説明すると、これまで設計者がマウスやキーボード操作で部材をひとつひとつ、入力してきた作業を、Dynamoが自動的に行ってくれるものだ。いわば、表計算ソフトのマクロや関数のBIMソフト版と言えるだろう。

例えば、数式によって生み出されたカーブや曲面形状を3Dモデル化する、資材や機器などのデータベースを仕様に従って検索し、最適なものを配置する、といった作業を自動化してくれる。

「Dynamoを使うきっかけは立体トラスのモデリングを行いたいという要望を受けたことでした。後追いBIMだったので、立体トラスの3D dxfが存在し、座標は分かっていましたが、約3,700の部材を手作業で配置するのは現実的ではありません。方法を探していたところ高取昭浩氏のブログ『Revit Peeler』の『ダイナモ白熱教室』にたどり着き、見よう見まねでプログラムを作りました」と山口氏は振り返る。

3D dxfから書き出した座標(上)をDynamoによるプログラムで自動配置した(下)

プログラムと言っても、FortranやBasicのように1行ずつ処理内容を書いていくタイプではなく、サブルーチンや関数に相当する処理単位を記号化した「ノード」を並べて、線でつないでいくタイプだ。そのため、フローチャートを描く要領でプログラミングが行える。

サブルーチンや関数に相当する「ノード」を線でつなぐとDynamoのプログラムが作れる

 国内外のDynamo情報を活用し、プログラムを開発


佐藤工業 構造設計部
構造設計第一課
御木 敦司 氏

佐藤工業のBIM推進部は2017年7月に設置され、現在、意匠設計者6人と設備設計者1人の陣容からなる。当初からのBIM推進部のメンバーである山口氏とともに、数々のプログラム作成にかかわってきたのが、かつてBIM推進部に所属し、現在は構造設計第一課の御木敦司氏だ。

「Dynamoの情報収集は国内外のウェブサイトから行っています。国内のサイトだと前述の『Revit Peeler』やオートデスクが開催するオンラインセミナー、海外のサイトでは英語版の『Dynamo Forum』を参考にしています。近年では、三菱地所設計の矢野健太郎氏が執筆した『Dynamoトレーニングガイド』など、Dynamoに関する情報が得やすくなっていると思います。」と御木氏は語る。

山口氏、御木氏ともプログラミングの経験は少しあった程度だが、Dynamoは約半年で使えるようになったという。

「山口さんがこれまでに作成したDynamoのプログラムを見せてもらいながら、Dynamo Forum等を見て変更する、というようなことを繰り返しているうちに、作成もできるようになりました」と御木氏は振り返る。

BIM推進部では、図面のタグ配置自動化プログラムのほか、Revitアドイン『pyRevit』も利用しながら、構造柱と構造フレーム等の“勝ち負け”をカラー表示するプログラムなどを次々と開発し、「手作業のBIM」から「プログラミングのBIM」への移行を着々と進めている。

「単純にRevitを利用するだけでは、使い慣れた他社のCADソフトからRevitへ移行するメリットがないというのが構造設計部内の総意でした。その状態を変えるためには、Revitを利用するメリットを示す必要がありました。構造設計業務においては、データのやり取りができれば人の手をかけなくて良い場面が多くあると感じていたため、その部分をうまくRevitの使い方に落とし込み自動化したいと思っていました。」(御木氏)

Revitの標準タグ配置機能を使うと図面と文字が重なってしまう(上)。Dynamoでタグを再配置した例(下)

鉄筋コンクリートの梁に対する勝ち負けをpyRevitでカラー表示させ、その結果をリストとして出力している

 構造計算結果の“差分変換”でRevitユーザーが急増

BIM推進部の大きな成果としては、一貫構造設計プログラム「SS7」とRevitのデータ連携機能の改善がある。SS7の計算結果を「ST-Bridge」に書き出した後、Revitに読み込む過程で、変更された差分だけを取り込むようにしたものだ。

オートデスクでも同様の機能を2020年に開発したが、佐藤工業はその完成を待たず、独自で差分変換機能を開発したのがポイントと言える。

「最初にSS7からRevitに変換した後、Revit側では意匠や設備との関係などを考えて設計を詳細化して行きます。設計内容に変更があったとき、SS7で再度計算し、その結果を設計者が見て変更された部分を調べ、手作業で修正しなければなりませんでした。これでは、設計者の手間が増えるだけで、Revitの恩恵を十分に受けられているとは言えませんでした。」と御木氏は振り返る。

「そこで、DynamoとPythonスクリプトによって設計過程で結果が変わった部分を見つけ出し、Revitモデルを更新するプログラムを開発しました。このプログラムでは、変更点を事前に確認し、設計者が判断して差分を取り込むことができます。状況によって、SS7が正しい部分とRevitが正しい部分が混在するため、SS7のモデルをすべて正として、Revitを更新してしまうと、意図せずRevitが編集前の状況になってしまうことを防ぐためです」(御木氏)。

SS7による変更前モデルと変更後モデル(上段)。SS7で変更があった部分をDynamoで自動更新した例(下段)

2020年4月から7月にかけて開発されたこのプログラムは、社内の構造設計者に大好評を博した。それまでは構造設計に他社のCADソフトを使っていたが、構造計算結果の差分変換機能の開発によりRevitに乗り換える設計者が続出した。

「構造設計部では新規物件の基本設計はほぼ100%Revitで行っています。中には建築確認申請までこぎ着けた物件もあります」と御木氏は説明する。これも「プログラミングのBIM」による生産性向上の効果が、社内で認められた例と言えそうだ。

オートデスク社による差分変換のイメージ

 BIMマネージャーとしてのDynamo活用法

BIMを組織で活用する上では、誰もが同じ仕様で図面やBIMモデルを作れるようにすることが重要だ。そのためには、BIMマネージャーが、様々なファミリやテンプレートを同じ基準で作られているかを常に確かめ、変更があった場合も漏れなく反映することが求められる。

「しかし、これまでのファミリやテンプレートの管理は、ひとつひとつ、中身を開いて線種や線幅、パラメーターの名称や値などをチェックする必要がありました。また、複数のファミリやテンプレートの設定画面を同時に開いて比較することもできませんでした」と山口氏は語る。

そこでBIM推進部は、ファミリやテンプレートの設定内容を一覧表として書き出すプログラムを、Dynamoで作成した。これを見ると複数のファミリやテンプレートの設定内容が一目瞭然だ。

BIMモデル内のファミリに含まれるパラメーターを一覧表として書き出したところ

変更前後のテンプレートを比較し、設定の違う部分が強調される

「Dynamoで変更前、変更後の一覧表を書き出し、違っている箇所が分かるようにマイクロソフトのPower BIというソフトで可視化したのです。これによって、設定が違っている部分や変更漏れなどをスピーディーにチェックし、直すことができます」(山口氏)

今後、ますます激しくなる人手不足問題に対応するため、DynamoによるBIM作業の自動化は、AI(人工知能)などの活用と並んで有効なソリューションになりそうだ。

山口氏は「BIMによるデジタル・トランスフォーメーションとは、データをつなぎ、何度も利用できる仕組みをつくることです。構造計算の結果とRevitが連携することは、その第一歩だと思います」と語った。

【問い合わせ】
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