東京・三番町で高層マンションの施工を行う東急建設は、オートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Revit」で施工前に1400段階もの施工ステップ図を作成。バーチャルに建てられることを確認してから実作業を行っている。そのBIMモデルはクラウドシステム「BIM 360」で共有し、施工図の作成はテレワーク化している。同社の施工BIMへの挑戦を突撃取材した。
1400の施工ステップ図で事前に施工確認
「この現場では完成までの施工手順を一度、BIMで確認してから実際の作業を行っています。そのため、現場で初めて『部材が納まっていない』といった施工の手戻りはほとんど発生しません」と語るのは、東急建設の作業所長を務める大山茂雄氏だ。
現場は東京・三番町で同社が施工する「三番町26」と呼ばれる地上17階、地下2階の鉄筋コンクリート造マンション。都心の現場のため、敷地の周囲は道路や既存の建物に囲まれており、スペース的な余裕はない。
そのため、現場では重機が乗って作業する仮設の構台や足場をこまめに設置・撤去を繰り返しながらの施工が続く。こうしたステップ図の作成には、リフォーム工事の設計で使われるRevitの「解体フェーズ」と「構築フェーズ」の機能を利用している。
「現場の作業に着手する前に、完成までの施工ステップ図をRevitで作りました。その数は約1400段階にもなります。1年後の現場で、重機や仮設の配置がどうなっているのかということまでわかりますよ」と大山氏は説明する。
この工事の所長、工務長、工事長が頭の中で考えている工事の進め方が、BIMモデルとして具現化され、周囲の工事関係者に“見える化”されているのだ。
「朝礼ではその日、行う作業の内容を3次元のCGパースで説明しています。職人さんからも機械の配置などがわかりやすいと好評です」(大山所長)。
BIM 360で協力会社と最新BIMモデルを共有
東急建設はこのプロジェクトの施工BIMモデルを5つに分け、必要に応じて重ね合わせながら施工検討を行っている。
(1) 躯体モデル+仮設材(山留、構台)
(2) 共用仕上・外装・外構モデル
(3) 専有部モデル
(4) モデルルームモデル
(5) 配筋モデル
「これらのBIMモデルは、常に最新版をオートデスクのクラウドシステム『BIM 360』で、協力会社と共有し、施工図を作成しています。そのため、古いモデルで施工図を作ってしまうといった手戻りはありません」と、東急建設の工事長、渡辺道弘氏は言う。
このマンションは、外形が高さ方向に緩やかな曲線を描くようなデザインになっている。その影響で、窓の形や寸法は、すべて異なっていると言っても過言ではない。また、使われている鉄筋は太く、主筋に至ってはD41と土木工事並みの太さだ。
「もし、現場で鉄筋同士が干渉した場合、とても現場で曲げられる太さではありません。そのため、鉄筋や型枠の施工図は、時々刻々と変更される最新の躯体モデルに基づいて描く必要があります。BIM 360によるBIMモデル共有は、『移動のムダ削減』とともに『手戻りのムダ』も省いてくれます」(渡辺氏)。
現場では地下室も含めて、BIM 360をどこからでもアクセスできるようにするため、全面的にWi-Fi環境を構築している。
BIMで新入社員も積極的に施工計画を立案
この現場では、昨年入社したばかりの新入社員が2人、配属されている。彼らは学生時代に特にBIMモデルの操作経験はなかったが、この現場でめきめきとBIM力を上げている。
「配属後、2カ月くらいでRevitの使い方をひと通りマスターし、施工ステップごとのコンクリートの打設量などを、数量集計機能で効率的に行っています。3DのBIMモデルはわかりやすいので、2D図面だけのときに比べると、建物の構造や施工の手順などの理解も早まりました。そのため、今では主体的に施工計画を行ってくれるようになりました」と渡辺氏は新人の活躍ぶりに目を細める。
所長の大山氏も「単に『やれやれ』と言うだけでは、若手は育ちません。現場の職人さんを説得するのも、見た目がきれいな図だけを持って行ってもダメです。その点、BIMモデルからは数量的な裏付けが得られるので、若手職員も自信を持って現場で活躍しています」と言う。
BIMは若手人材の早期育成にも役立っているようだ。
協力会社、M&FのBIM自動化ツールも活用
曲線を帯びた外観のデザインを表現するため、鉄筋コンクリート柱には曲線形状の「フカシ」が付いている。柱に作用する荷重を正確に計算するため、Revitでコンクリート量を集計するとき、構造部分とフカシ部分に分けて集計する必要がある。
こうした細かい集計を効率化するのに役立っているのが、施工図の作成を担う協力会社、M&F(本社:東京都江東区)が開発した「MFTools」というRevit自動化ツールだ。
MFToolsはRevitのAPI機能を利用して開発され、施工図に特化した様々なツールが用意されている。例えばコンクリート打設量や足場数量などの数量計算や、施工図表現に最適な寸法表記を一括で挿入する、といった現行の施工図作成業務においても効率化の図れる機能が搭載されている。
このほか、壁リスト自動作成や型枠・鉄筋加工図の自動作成、プレカット用自動割り付け機能なども順次開発し、公開する予定だ。
2000年に設立された同社のスタッフは、施工図作成の経験が豊富で、建設会社出身のスタッフもいる。そのため、現場の施工管理者がどんなニーズを持っているのかも熟知している。こうした背景からMFToolsは生まれた。
●施工図に特化したMFToolsのツール例(※開発中も含む)
設計モデルを利用した施工計画 API :コンクリート打設打継計画、足場数量等 【関連製品】 |
360°カメラやロボットで現場業務をテレワーク化
この工事の施工管理を担う現場事務所は、現場から10分ほど離れたビル内にある。そのため、頻繁に行き来していると「移動のムダ」が積み重なり、生産性を阻害してしまう。
そこで導入したのが、360°カメラと専用クラウドだ。「毎日、午前11時と午後4時に、現場担当者が現場の各部分を360°カメラで撮影し、クラウドにアップしている。いわばデジタル写真による現場のデジタルツイン(デジタルの双子)化だ。
「クラウド上でこの写真を見ると、現場の進ちょくや安全状況はかなり把握できるので、現場と事務所の往復回数はかなり減り、その分、生産性向上に役立っています」と大山氏は言う。
このほか、現場の打ち合わせ室には、アバターロボットも配置されている。どうしても時間の都合で現場の会議に出られないときは、事務所からこのアバターロボットに遠隔で“乗り移り”、会議にリモート参加することもできるのだ。
2022年3月現在、現場では基礎工事が進みつつある。東急建設では、M&Fとの二人三脚で施工BIMを実践することができた。今後は、Revitで作成した施工ステップ図にはさらに改良が加えられ、フルBIMによる施工BIMによる施工管理が本格化していく見込みだ。
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