BIM/CIMの本格導入に伴い、年々、増大する設計データの共有手段に頭を悩ませてきた東京コンサルタンツ(本社:東京都千代田区)は、2022年8月にオートデスクの建設向けクラウド「Autodesk Docs」(以下、Docs)のライセンス200本を導入し、全社で活用を始めた。決め手となったのは「容量無制限」と、NAS(ネットワーク接続型ハードディスク)の運用コストと比べても安価な「ボリュームライセンス」、セキュアな環境のもとでの「社内外からのスムーズなデータアクセス」だった。
45台のNASからDocsに乗り換え
「データは社内の7拠点に分散するNASへ保存していましたが、Docsへの移行により社外からもセキュアにアクセスが可能となり、複数の支店が連携するプロジェクトや、在宅勤務もスムーズに行えるようになります」と語るのは、東京コンサルタンツ業務管理部ICT推進室長の坂本靖典氏だ。
同社では2017年に、オートデスクのRevitやCivil 3D、Infraworksなどを含むBIM/CIMパッケージ「AECコレクション」を本格導入し、現在では約半数の業務でBIM/CIMを活用するまでになった。
以前から、社内には45台ものNASがあった。その内訳はメインが15台、バックアップ用が15台、それに遠隔地バックアップ用が15台だ。
その一方で、坂本氏の頭を悩ませていたのは、年々、増大する設計データのセキュアな管理と、スムーズなデータ共有をどう両立させるかだった。
「BIM/CIMのデータは容量が大きいので、数年に一度、NASの容量アップのため増設や入れ替えが必要でした。また社内でNASを運用していると、その保守要員も必要になります。そこでクラウドシステムに乗り換えようと検討したところ、Docsが最良という結論に達したのです」(坂本氏)。
決め手は「容量無制限」と「ボリュームライセンス」
建設業では、現場の写真や図面、BIM/CIMモデル、そして最近は点群と、大容量のデータを保存しながら業務を進める必要がある。
そこで東京コンサルタンツでは、総容量が8TBのNASを全国7カ所の各拠点に配置し、WANによって相互にアクセスするという方式をとってきた。貴重なデータを守るため、遠隔地には別のNASを用意し、毎日、バックアップを取るなどといった運用を行ってきた。
一方、クラウドサービスは、サーバーを増設したり、バックアップを取ったりというメンテナンスの手間はかからないが、NASに比べて高価な印象がある。大容量のNASをDocsに切り替えるのに、コストは気にならなかったのだろうか。
「Docsを選んだ決め手は、『容量が無制限』というこれまでのクラウドサービスにはない条件でした。また、まとめて200ライセンスで契約すると安価な『ボリュームライセンス』が適用されます。確かにNASはハードウエアとしては安価ですが、日々のメンテナンスやトラブル発生時の対応などのコストを考えると、Docsに乗り換えた方が有利と判断しました」と、東京コンサルタンツ常務取締役の松田正人氏は説明する。
万一、サイバー攻撃でサーバーがダメージを受けたとき、NASの場合はハードウエアの復旧から始める必要があるが、Docsは履歴管理機能を実行するだけでスピーディーに復旧できるという安心感もある。
「Docsは、サブスクリプション制のため、契約期間に応じた費用を払うだけなので、支出も先が読めます。一方、社内にNASを設置していると、コストも不透明になります。Docsのようにセキュアなクラウドサービスであれば、オンプレミスに比べて管理が容易であり、長期的に見れば維持コストが有利になると考えています」(坂本氏)。
従来のNASと違って、DocsのデータにアクセスするためにIDやパスワードを入力する必要があるが、2日間、午後の研修を行っただけで全社での活用が始まった。今はすべての新規業務をDocsで運用し、過去業務も順次移行して、2024年中にはNASは全廃する予定だという。
在宅勤務や支店間のコラボもスムーズに
Docsの導入によるメリットとしてはまず、社内のデータを一元管理できるようになったことが挙げられる。
「例えば、東京本社と富山支店が共同で設計プロジェクトを行う時、以前は両拠点のNASでデータをバラバラに管理していたので、どれが最新版のデータなのかを探すのに時間がかかっていました。それがDocsの導入によって一目で最新版データが分かるようになりました」と松田氏は言う。
また、コロナ禍で増えた在宅勤務もスムーズに行えるようになった。以前は大量のデータを自宅で処理するために、パソコンにコピーして持ち運ぶという手間ひまがかかっていたが、今はDocs上でのやりとりだけで済むようになった。
「在宅勤務を含め、『指摘事項』という機能を使い始めています。設計案などで、ある人が指摘したことについて、どのように対応されたのかというやりとりや作業の履歴を、個人間のメールでなくチャットのように記録しておくことができます。トレーサビリティーや『言った、言わない』などの不毛な議論もなくなります」(坂本氏)。
どこからでもデータにアクセスできるということで、客先でのプレゼンテーションのスタイルも変わりそうだ。
「例えば、客先にタブレットだけを持っていき、Docsで図面やBIM/CIMモデルにアクセスして動画やCGでプレゼンすることもできるでしょう」と坂本氏は、クラウドによるプレゼンの魅力アップや働き方改革にも期待している。
また、若手社員からは、社外のパートナーともプロジェクトのデータを共有しながら、スピーディーな協業を行う業務スタイルについての提案も出ている。社内だけにとどまらない生産性向上が追求できるのも、Docsの魅力と言えるだろう。
「統合クラウドプラットフォーム」を先取り
オートデスクは、建設業におけるクラウド活用の重要性にいち早く着目し、様々な製品を提供してきた。
古くはクラウドストレージを主とした「Buzzsaw」に始まり、クラウド上でのBIM/CIM閲覧機能などを加えた「BIM360」をリリース、そして最新の建設業向けクラウドシステム「Docs」へと進化を続けている。その変化のスピードは、オートデスクユーザーのみならず、関係者さえ戸惑うほどだ。
Docsは、これまでのクラウド製品を集大成し、設計、施工から数量算出まで、建設プロジェクトにおけるデータを統合的に管理する「Autodesk Construction Cloud」の中核となる「共通データ環境」(CDE:Common Data Environment)を実現するものなのだ。
「今後、Docsを社内で使い込んでいく中で、業務のスピードアップや労働時間の短縮、そして働き方改革を実現し、当社のバリューアップを実現することを目指します」と、松田氏は力強く語った。
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