鹿島建設(以下、鹿島)建築管理本部西日本プロダクションセンターでは、同社と数十社の専門工事会社が協働して施工BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルを構築する体制を確立した。元請け会社の鹿島は「Revit」を軸として3Dビューワーソフト「Navisworks」を中心に活用し、鉄骨は「Tekla」、設備は「Rebro」など、各専門工事会社は自由なBIMソフトで効率的に業務を進め、統一した座標系によって“ぴたりと結合”する方式を採用している。その結果、最終的には施工および受発注に活用できるレベルという高精度な「実施工統合BIMモデル」が出来上がるのだ。
協力会社と“ストレスフリー”なBIMモデル連携
「実施工に使えるBIMモデルは、現場の施工を担う専門工事会社の協力がなければ作れません。各社のBIMモデルを一つにまとめた『実施工統合BIMモデル』を構築するために、ストレスフリーなBIMのマネジメント方法にたどり着きました」と、鹿島 建築管理本部西日本プロダクションセンター PD建築グループ グループ長の吾郷明人氏は語る。
吾郷氏は1994年に入社して以来、20もの建築現場で施工管理業務に携わる中で、施工段階でのBIM活用を実践してきた。その経験を生かし2022年に西日本プロダクションセンターが設立されたのを機に、複数のプロジェクトを通して効率的なBIM運用を追求し続けてきた。
鹿島では、工種モデルの統合、課題把握、方針決定の一連の作業をメインのBIMソフトとしてオートデスクの「Navisworks」を使っているが、施工図会社は「Revit」や「Archicad」、専門工事会社は構造用の「Tekla Structures」や建築設備用の「Rebro」、金属工事は機械加工用の「Inventor」などを使いながら生産設計や施工を進めていく。
「ストレスフリーなBIMマネジメントに必要なことは、各社がBIMを使って効率よく生産設計や施工図の作成を行えるようにすることです。そのため、各社にはその工種に適するBIMソフトで効率的な作業を行ってもらい、鹿島は各社のBIMモデルを統合・総合調整し、最終的には施工および受発注に活用できるレベルの詳細な実施工統合モデルへと仕上げていきます」と吾郷氏は言う。
ストレスフリーなBIM活用を支える「3つの柱」
鹿島では、同社と数十社もの専門工事会社が、ストレスフリーなBIM活用を行うための「3つの柱」を定めた。(1)プロジェクト原点や通り芯の設定、(2)BIMデータの細分化、(3)LODを徐々に高める「ブラッシュアップ」だ。
まず(1)では、鹿島でソフトごとに通り芯、レベル、所定レベルでの基準2D平面図一式を取りまとめたテンプレートファイルを用意し、各社はこのテンプレートファイルを用いて必要な他社の情報を適宜リファレンス挿入し作図する。
この時に各社が使用するソフトには、ソフトごとにデフォルトの基準点があるが、「絶対に触らない、触ってはいけない、触る必要もない」ということを徹底している。
すべての会社がこの鹿島が用意したテンプレートファイルをベースに作図することで食い違いをなくし、寸分違わずBIMモデル同士を重ね合わせられるようにするためだ。これにより、干渉チェックや施工図の調整が行いやすくなる。
このことはBIMに限らずBIMから書き出される2D図面にも当てはまる。世界のあらゆるソフトの(0,0,0)は、デフォルトではすべて同じなのでこのルールを活用する。
その理由は、コンピューターの宿命ともいえる計算時の誤差を極力、なくすためだ。例えばA社が作図したBIMモデルをB社のBIMモデルに取り込み、B社がA社のモデルを移動・回転などを行うと必ず誤差が出る。
そこで「他ソフトの基準点を触らない」というルールを徹底することで、図面やモデルの重ね合わせ時に他社のBIMモデルを取り込んで修正する必要がなくなり、他社情報は解放せずにリファレンスのままで必要な情報のみ自社の作図に活用する。そうすることでストレスフリーでBIMモデルの作図が出来る。
「とにかくBIMでの作図にストレスがあると、専門工事会社の皆さんは絶対に活用しません」と吾郷氏は説明する。
必要BIMデータを組み合わせてサクサク作業
続く(2)BIMデータの細分化は、BIMモデルの容量を必要最小限に保てるようにするのが目的だ。鹿島では、階ごとや部位ごとにBIMモデルを分けて保存し、作業に必要なデータだけをパソコンに読み込んで作業できるようにしている。
「例えば『屋上のトップライト』というように、BIMモデルを細分化しています。そのため屋根のモデリングを行う時は、基礎のデータは読み込まないのでサクサクと軽快に作業できます。各BIMモデルはグループ化していますので、階別に全データを読み込むときも簡単です。ファイル名も記号ではなく、あえて冗長なわかりやすい名前にしました。初めて見る人も、その内容を把握しやすくするためです」(吾郷氏)。
鹿島では、専門工事会社がどんなBIMソフトを使ってもBIMモデルを読めるようにするため、Revit用の「RVT」などネイティブ形式のほか、共通規格の「IFC」形式、一般的によく使われている「DWG」形式、統合用のNavisworks用の「NWD」形式、そして誰でも簡単に見られる「PDF」形式の5種類のデータを常にセットで準備し、他の専門工事会社が自由に参照できるように準備する。
鹿島では「速さは力」を念頭に置き、何十社にも及ぶ工事協力会社がBIMでの作図作業に前向きに取り組めるように2Dと同じ程度のストレスフリーなハンドリング環境を提供している。多くの作業員の方々に渡す2D図面はRevitから出力している。
「その際、1つの基軸となるファイルのプロジェクトブラウザに各2D図面を整えて配置し、他の必要な情報は全てRevitの挿入で取り込んでいます。ここで重要になるのはRevitに挿入する多くのデータは『バインドしない』ということです。バインドしてしまうとデータ量が増えハンドリングが極端に悪化します。また下絵に使うために挿入する数々のデータは各々の作成者によって管理されるべきものでバインド先で勝手に編集してはいけません」と吾郷氏は語る。
専門工事会社には使用ソフトは指定せず、ほとんどのBIM系ソフトから出力が可能なIFCやDWG形式でデータを提出してもらうことで、BIMモデル全体を統合できるようにした。建物全体の実施工統合BIMモデルなど、各社のBIMモデル同士を組み合わせるときは、大容量モデル統合にも対応しているNavisworksを使っている。
これらのBIMデータは、クラウドサービス「BOX」を使って各社が共有している。
専門工事会社とともにBIMモデルを成長させる
最後の(3)LODを徐々に高める「ブラッシュアップ」とは、最初は簡単な「スタートアップ・モデル」から始め、専門工事会社とともに精度を高めていき、最終的には施工および受発注に活用できるレベルの「ブラッシュアップ・モデル」まで成長させることを意味する。
多くの専門工事会社が、日々、BIMモデルを更新して精度を上げていく。統合モデルや各所の詳細検討、関係者間での協議を繰り返し決定した方針は、元請けから各専門工事会社へ伝達され、BIMデータは1日に何度も更新される。BIMモデルの修正や更新が容易に行えるためこのワークフローを採用している。
最終的に、各専門工事会社のブラッシュアップ・モデルから施工図や製作図が切り出されるため、モデルと製作の情報整合性が保たれる。
鹿島では、モデルに挿入するIFCファイルやDWGファイルを常に最新状態に更新するため、専門工事会社との間でモデルの更新による不整合や手戻り、認識の違いなどの問題は、ほとんど発生しない。
NavisworksでBIMモデルを目的に応じて活用
工事関係者全員で、これらのBIMデータを閲覧・活用するためのツールとして、Navisworksを選んだ。その理由は、幅広い種類のデータを読み込める汎用性と、簡単に使えることだった。
「BIMに不慣れな人でも、Navisworksを使ってBIMデータを閲覧したり、重ね合わせたりできるようにするため、4ページの簡単なマニュアルを作り、各社に使ってもらっています」と吾郷氏は言う。
表示/非表示を切り替えたり、各階の2D平面図をBIMモデルと重ねたマルチモーダルBIMモデルで寸法を直接読んだりと、同じ統合BIMモデルから各社の目的に合わせて必要なビューを表示できる環境を構築している。
統合BIMモデルを工場製作に展開
各専門工事会社が統合BIMモデルを見られることにより、従来は現場での現物合わせによる加工を、BIMモデルに基づく工場加工に切り替えた例もある。
例えばプラント系施設で、実験機器の3Dオブジェクトと建物のBIMモデルから、電源ケーブルの位置を割り出し、金属壁面パネルに工場加工で穴をあけるといった施工の「フロントローディング」を実現した例がある。
また、金属天井・壁を施工する専門工事会社は、金属天井・壁パネルの設備開口をBIMモデル上で割り付けた。その結果、工場出荷時に金属パネルに開口をあけておくことができ、現場での加工が激減した。
「専門工事会社の担当部分は限定されているので、BIMソフトの操作もそれほど難しくはありません。BIMのメリットを生かしやすいようです」と吾郷氏は言う。
2D図面による調整の限界をBIMで突破
これまで現場で意匠、構造、設備の施工の調整や干渉チェックは、これらの図面を大きな1枚の図面にまとめた「総合図」を描くことによって行われてきた。しかし紙図面による調整や意思疎通には多くの時間がかかっていた。
また、大きなプロジェクトでは、煩雑な図面管理やデータ管理により、手戻りや認識の違いがよく起こっていた。
こうした現場体験から、吾郷氏は実施工BIM統合モデルの活用を思い立ち、今日まで実践し続けてきたのだ。
「BIMモデルは属性情報を含むので、施工管理から発注までのプロセスを一貫して行えます。専門工事会社の若い人は楽しそうにBIMを使っています。BIMになじみのない会社には、Revitを日割りで利用できる環境を提供していますが、最終的に各企業がサブスクリプションを購入して使い始めることがほとんどです」と、吾郷氏は専門工事会社を巻き込んだ施工BIMの効果を確信し、今後も普及に努めていく考えだ。
また今後の課題として、通信インフラと建設DXとの融合を目指し、現在のワークフローをクラウド上で構築することを考えている。
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