2020年以降のコロナ禍では、感染防止のため人が集まる機会が大きく制限された。その代替手段として注目を集めたのがフォーラムエイトの3DVR(バーチャルリアリティー)システム「F8VPS」だ。東京工業大学(=取材当時。以下同じ)やアカマツ(本社:愛媛県松山市)などは、コロナ禍において、このシステムを使ってキャンパスや展示会場を再現してイベントを開催。そこには多くの人々がインターネットを介して集まり、交流が実現した。その成果は、今後のイベント開催方法にも影響を与えそうだ。
<東京工業大学>
F8VPSでキャンパスをデジタルツイン化
海外パートナーへの広報や共同研究を推進
東京工業大学では、独創的な基礎研究の推進や、産学連携を通じて、新たな研究分野の創出を担う「研究・産学連携本部」がある。この本部は、理事・副学長(研究担当)が本部長を務め、教職員や産学連携コーディネーター、ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター(URA)が協力して活動する体制を整えている。
同本部にある「Tokyo Tech ANNEX」という部門は、海外の大学や研究機関、企業などの戦略的パートナーとの協働し、国際的な認知度向上を図るための国際的な戦略拠点だ。
ANNEXの活動は、1) 優秀な学生の獲得・交流や海外の大学との連携、2) 情報収集と同大の活動に関する発信、3) 国際的な産学連携や共同研究の推進、という3つの柱に基づいて行われている。
産学連携部門のURAとして海外共同研究を担当する水越達也ディレクター(当時)は、国際部と協力してANNEX事業を運営している。
水越氏は「各大学には海外拠点があり、留学生向けの広報を主な業務としています。本学にも海外拠点はありましたが、『アネックス』という新たな発想を展開しています」と説明する。
タイ、ドイツ、米国に続々とANNEX拠点を開設
東工大は2002年、タイの国立科学技術開発庁(NSTDA)内に初の海外オフィスを設置し、2007年以降はタイの大学と連携して国際連携大学院「TAIST-Tokyo
Tech」を運営してきた。2018年には、これを基にTokyo Tech ANNEX Bangkokが開設され、タイ国内での最先端研究発信の場としてリサーチ・ショーケースが開催されている。
2007年にはドイツのアーヘン工科大学と全学協定を締結し、研究者や学生の交流、イベントの共同開催を行ってきた。この関係を背景に、2019年3月、初のヨーロッパ拠点としてTokyo
Tech ANNEX Aachenを開設し、共同研究の基盤として機能している。これまでジョイントワークショップを定期的に開催してきたが、2020年には新型コロナウイルスの影響でオンライン形式によって実施した。
そして2021年10月には、北米における本学の拠点として、「Tokyo Tech ANNEX Berkeley」が日本学術振興会サンフランシスコ研究連絡センター(米国カリフォルニア州バークレー市)内に開設された。
水越氏は、2018年4月に現職に就任する前、昭和電工ヨーロッパの社長を務めていた。その豊富な海外経験を積んだ経験を生かし、国際共同研究の機会を創出するために活動している。
コロナ禍が生んだ3DVRによるバーチャルイベント
コロナ禍により物理的な移動が制限される中、ANNEXの機能を強化するための手段として、3D仮想空間を活用するアイデアが生まれた。水越氏は、バーチャル空間を使うことで、海外のパートナーに東工大の魅力を伝える新たな方法を模索している。これにより、従来のウェブサイトやパンフレットを補完し、視覚的に分かりやすい情報発信が可能となると考えた。
同氏は、以前タイで開催されたバーチャルイベントに参加した際、その没入感に感銘を受け、ANNEXにおけるバーチャル空間の活用を検討するようになった。2020年11月には、3D仮想空間ウェブページの制作を目的とした公募を実施し、フォーラムエイトが制作を担当することとなった。
2020年末に契約が締結され、3D仮想空間ウェブページの制作が始まった。キャンパスの入り口や建物の配置、必要な機能を備えた仮想空間が構築され、2021年2月にはβ版が完成した。水越氏は、仮想空間の再現性に満足し、細部の修正作業も進めていった。
2021年3月、Tokyo Tech ANNEX BangkokとNSTDAが共催した第3回「Tokyo Tech Research Showcase」では、F8VPSによって開発された「3D仮想空間ウェブページ」がお披露目された。このウェブページを通じて、参加者はバーチャルキャンパスを探索し、会議室に入るとZoom会議に参加することができる仕組みが整えられている。
今後、水越氏は、さらなるイベントや共同研究の場において、この3D仮想空間ウェブページを活用していく考えを示している。また、東工大への留学イベントでも、バーチャルキャンパスを通じて、キャンパスの雰囲気を伝える有効なツールとして期待されている。
<アカマツ>
F8VPSで展示ブースを3DVR化
リアルとバーチャルによる四国初のハイブリッド展示会
コロナ禍は、展示会への出展や、客先に出向いてのデモンストレーション営業を得意とする企業が、3DVRに着目するきっかけにもなった。
愛媛県松山市でOA機器やオフィス家具など販売やサービスを手掛けるアカマツは、2021年10月にリアルな展示とバーチャルな展示を並行して行う「ハイブリッド展示会」を開催した。バーチャルな展示会を実現するために導入したのが、フォーラムエイトの「F8VPS」だ。
その背景には、コロナ禍による対面営業の制限があった。従来は展示会に加え、顧客先でのデモンストレーション営業に注力していたが、コロナ禍で「非対面」が求められるようになった。徐々に制約は緩和されたものの、対面営業に抵抗を感じる顧客もいた。
また、以前から展示会場への来場が難しいという声もあった。そこで、バーチャルとリアルを組み合わせたハイブリッドイベントという発想が生まれた。
F8VPS初のハイブリッド展示会が大成功
2021年10月、香川支店高松営業所が主催したハイブリッド展示会は、F8VPSの初めての適用事例となった。この展示会では、リアルの展示内容と同等の体験をオンラインでも提供することに力を注いだ。
現場の配置を再現し、OA機器やサブスクリプション製品などの目玉商材のカタログや動画コンテンツをオンデマンドで閲覧できるようにした。また、セミナーコーナーや抽選、アンケートなどのリアルイベントで行われる内容もオンラインで対応した。
この四国初のハイブリッド展示会には、想定以上の参加者が集まり、延べ1000人以上がアクセスした。コロナ禍でも職場内の目を気にすることなく、リアルと同様の体験ができるバーチャル展示会は顧客にとって新鮮で、好評を得た。
バーチャル単体の展示会でリモート顧客を新規獲得
このハイブリッド展示会の成果を基に、2022年には松山本社の特販課が中心となって、バーチャル単体での展示会を開催した。今回は新規顧客の開発に注力し、商材に関する情報をアップデートするとともに、動画配信型セミナーと連携した仕組みを構築した。
このバーチャル展示会は、従来の対面営業では接触できなかった新規顧客に対しても効果的にアプローチできる手段となった。バーチャル空間を活用することで、場所や時間にとらわれず、商材に関する情報を提供することが可能になり、特にリモートワークが定着している層に対して好評を博した。
アカマツは、F8VPSのさらなる活用を目指している。赤松社長は、同社がこれまで顧客に十分に伝えきれていなかったバーチャル空間の可能性を、より広く訴求していきたいと考えている。コロナ禍を経て、バーチャル空間の利用はビジネス領域にも浸透し始めており、リモートワークの普及に伴い、その需要は増加している。
ショールーム代わりにF8VPSを活用
同社の商材は大きくて重いものが多く、簡単に顧客に見せられない場合もある。これまでは、遠方のショールームへ顧客を案内することが一般的だったが、費用の問題で全てのケースに対応するのは難しい。そこでF8VPSを活用し、顧客が手軽にバーチャル空間で商材を体験できるようにすることが今後の課題となる。
F8VPSを用いたバーチャル展示会の成功を受け、アカマツの赤松正教代表取締役社長は「まずバーチャル展示会で顧客に製品を予習してもらい、その後リアルの展示会で実物に触れられるようにすれば、より効果的です。両者の役割をうまく使い分けたい」と、同社独自の展示会戦略について語った。
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コロナ禍ならではの環境下で生まれた、「F8VPS」をはじめとする3DVRの活用技術は、国土技術政策総合研究所のバーチャル見学ツアーや、栃木県宇都宮市の次世代型路面電車(LRT)を生かしたスマートシティ体験、カーレースのFIA世界ラリー選手権(WRC)日本ラウンドである「FORUM8
Rally Japan 2023・2024」のPRなどに活用され、多くのバーチャル来場者を集めている。
現在はコロナ禍も一段落し、リアルな学会や展示会などのイベントが多く開催されるようになってきたが、今後もリアルなイベントをさらに盛り上げるツールとして、F8VPSの活用は広がっていきそうだ。
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