フォーラムエイトが開発する3次元有限要素法(FEM)解析プログラム「Engineer’s Studio」は、構造物を梁要素や平板要素などで3Dモデル化し、精密な静的解析や動的解析を行うものだ。そのリアルさは、部材断面の部分的な塑性変形を考慮できるほどだ。新日本コンサルタントや建設技術研究所でどう使われているかをレポートする。
第1部:新日本コンサルタント
最小のコストで最強の高架耐震補強を追求
建設ソフトベンダーの老舗、フォーラムエイト(本社:東京都港区)では、1980年代から約40年間、様々な土木構造物を対象とした設計ソフト「UC-1」シリーズの開発・販売を続けてきた。その間、解析対象の構造物も2Dから3Dへ、解析範囲も弾性から塑性域へ、そして静的解析から動的解析へと広がってきた。その最先端技術を結集したのが、UC-1「Engineer’s Studio」だ。
新日本コンサルタント 東京本社首都圏技術部構造橋梁グループでは近年、中日本高速道路(NEXCO中日本)向け橋梁の耐震補強や床版橋の改良設計など改築に関わる業務が次第に増加してきた。これらのプロジェクトでは「Engineer’s Studio」を活用し、良い成績評定を得られるようになってきた。
最近、取り組んだ高速道路の延長3kmにわたる、高架橋の耐震補強設計のプロジェクトもその一つだ。高架下には道路や歩道、線路が交差しているほか、高架橋下の空間利用などもあった。
建設時に比べて、想定される地震動も大きくなり、地震の発生も多くなっている。以前は設計に使われる力学モデルも単純だったため、解析の精度を考慮して安全率も過大になりがちだった。しかし、その手法をそのまま現在に当てはめると、補強のコストも過大になってしまう。
そこで既設の橋梁を3Dモデルで忠実にモデル化し、Engineer’s Studioで非線形動的解析を行ったのだ。その結果によって、より現実に即した補強を行うのが狙いだ。
UC-1シリーズの導入は働き方改革に
「UC-1シリーズの各種設計ソフトの導入は、ある意味、働き方改革にも通じるのかなと思います」と、新日本コンサルタント 東京本社 首都圏技術部 構造橋梁グループ 課長の丸山貴弘氏は語る。
「専用の設計ソフトを使えばトータル的に作業の大幅な効率化が可能になります。そこで構造計算などでは、以前から専用ソフトを用いるアプローチが積極的に取られてきました」(丸山氏)。
「東京本社でUC-1シリーズの各種設計ソフトが導入され始めるきっかけになったのは、以前はあまり多くなかった構造設計系の業務を、戦略的に拡大しようと努めてきたことが大きいです」と、丸山氏は振り返る。
専用ソフトによる働き方改革の取り組みは、経験のある人材確保に力を入れてきた近年の流れとも連動している。
Engineer’s Studioを導入した背景も同じだ。耐震補強が遅れている構造物は、条件が複雑なものが多く、従来のシンプルな検討では解決が難しい。
そこで、既設構造物の複雑な情報を、Engineer’s Studioによって忠実に3Dモデル化し、解析することで、合理的な解決へと進むことができる。
「こうした複雑な業務としては、ロッキング橋脚が付いた橋脚の耐震補強プロジェクトで動的非線形解析を行った例や、築55年の水管橋の下部工を動的非線形解析によって耐震性照査を行った例があります」と丸山氏は語る。
フォーラムエイトの各種ソフトの利用と並行し、同社では現在3名が当社の「建設ICTマスター養成講座」をオンラインで受講している。
丸山氏はこれまでの講座を通じ、VRの活用可能性を実感し、フォーラムエイトの3DリアルタイムVR「UC-win/Road」の導入を視野に入れている。
「既設橋を壊して新橋が供用されるまでの間に道路がどう振られ、どのような新設橋梁ができるのか、といったことを可視化して住民説明会などで示せるようなものを作っていきたい」(丸山氏)と、次の展開を脳裏に描いているようだった。
第2部:建設技術研究所
新入社員はフォーラムエイト製品が”必修” に
「どんな形式の橋梁設計にも対応できるように、UC-1シリーズの橋梁設計関連ソフトは、ほとんどの種類のライセンスを持っています。新入社員はまず、フォーラムエイト製品の使い方を教育され、使えるのが当たり前になっています」と語るのは、建設技術研究所東京本社構造部主任の鵜飼隼氏だ。
例えば、同部技師の吉田太輝氏は、UC-1シリーズの「橋脚の設計・3D配筋」や「橋台の設計・3D配筋」をよく使っている。どちらも最新版ではパラメトリックモデルを採用した3D仕様になっていて、入力する数値に基づいて構造形状や配筋情報を3Dモデルとして分かりやすく表示される
「部分係数法・H29道示対応となっているので、新たに導入された部分係数などに対する考え方を理解するのに、プログラムの丁寧なヘルプ画面が参考になります」と、吉田氏は評価する。
一つのソフトで樋門全体をワンストップ設計
札幌市中央区にある同社の北海道支社でも、UC-1シリーズは活躍している。北海道水工室主任の佐々木洋人氏は、「5年ほど前から『柔構造樋門の設計・3D配筋』プログラムの利用機会が増えました。一つのソフトで付属構造物すべての条件を入力し、ワンストップで計算できるメリットを実感してします」と語る。
例えば、樋門の設計では、函体の横に接する胸壁を他ソフトで計算し、その結果を別の構造物の計算に手作業で反映させていた。「柔構造樋門の設計・3D配筋」は、こうした計算結果をワンタッチでインポートする機能を搭載しているので、作業の省力化はもちろん、転記するときのヒューマンエラーも防止できている。
さらに出力された2D図面に少し改造を加えるだけで、配筋図の作成に使えるなど設計計算の後工程での利用もできるようになったのだ。
河川構造物の3D解析にEngineer’s Studioを活用
UC-1シリーズの中でも、モデリングの自由度が高く、幅広い解析に対応できる「Engineer’s Studio」は、幅広い分野で使われている。同社は10年ほど前に、「Engineer’s Studio」を導入した。そのきっかけは、2007年に河川構造物のレベル2地震動対応を求める耐震性能照査指針(案)・同解説が策定されたことだ。
水門や樋門、排水機場など、河川構造物には多種多様な構造形式がある。これらを3Dで解析・表現できる汎用的なFEM解析ソフトを探す中、Engineer’s
Studioに出会った。
導入の決め手は、(1)河川構造物の多様な形状をモデリングできるようなカスタマイズ性の広さ、(2)道路橋示方書に準拠し、河川構造物の基準にも適合した照査の設定が可能なこと、(3)解析結果や条件設定をビジュアル的にも確認可能なことだった。
現在では、北海道水工室での河川構造物の耐震設計に欠かせないツールとなっている。
一方、解析作業の内製化を推進する東京本社構造部でも、Engineer’s Studioの活用が増えている。同部主任の三谷昂大氏は、7年ほど前に担当したコンクリートアーチ橋の耐震補強設計で初めてEngineer’s Studioを使用した。
「当時はまだ入社3年目でしたが、解析モデルを一から作成しました。出来上がっていく過程が視覚的に分かり、動的解析を動画で確認できるので、楽しんで作業を行えました」と三谷氏は語る。
最近取り組んだ斜張橋の設計業務では、景観に配慮しつつ合理的な構造を検討するため、Engineer’s Studioを使って解析モデルを作成。複雑な構造解析とともに、主塔や橋桁の形状など、細部も含めて形を変えながら景観検討も行った。発注者を交えた合意形成でもその有用性が発揮されたという。
3DパラメトリックツールでCIMに対応
建設業界では今後、CIMへの対応がますます求められ、設計業務も3Dモデルの活用に移行しつつある。
「設計計算や2D図面、3Dモデルの間での整合性をとることが課題になってきます。それを実現するものとして、フォーラムエイトの『3Dパラメトリックツール』に期待しています」と鵜飼氏は言う。
3Dパラメトリックツールとは、橋梁下部工や土工、遂行などの構造物の主要な外形寸法など、基本的なパラメーターを入力すると、自動的にCIMモデルを作成してくれるものだ。
その結果は、UC-1シリーズのほか、フォーラムエイトのリアルタイムVR(バーチャルリアリティー)システム「UC-win/Road」や、3次元CAD「Shade3D」などにも読み込んで、設計計算や2D図面、3Dモデルの作成を行える。これからCIMを始めるユーザーにとって、強力な助っ人ツールになりそうだ。
(参考記事)
Up & Coming 131号 株式会社新日本コンサルタント編
https://www.forum8.co.jp/user/user131.htm
Up & Coming 132号 株式会社建設技術研究所編
https://www.forum8.co.jp/user/user132.htm
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