英国グリニッジ大学火災安全工学グループ(FSEG)が開発し、フォーラムエイトが販売する火災・避難シミュレーションソフト「EXODUS/SMARTFIRE」は、日本だけでなく海外でも建物の利用者や船の乗客を火災から守る安全設計に使われている。中国・上海の船舶設計審査機関、中国船級社と、韓国・釜山にある国立大学、釜慶大学校のユーザーを直撃取材した。
船の安全設計に「maritimeEXODUS」を活用
中国船級社(中国・上海)
船を造る前に設計図を審査し、中国の基準に基づいて安全性が確保されているかどうかを審査するのが中国船級社の業務だ。その認定証がないと船会社は、船舶保険もかけられない。こうした重要な審査を、年間1億トン以上の船に対して実施している。
中国では経済成長とともに、旅客船によるクルーズブームが到来している。「船の安全性に対する関心も高まっています。世界の新造船のうちアジアは9割を占めており、客船の割合が増えています。大型クルーズ船の計画も持ち上がっています」と、中国船級社の上級技術者、シュウ・ジエミン(Zhou Jie Min)氏は語る。
より安全なクルーズ船や客船を造るため、中国船級社はこのほど、船舶用の避難シミュレーションソフト「maritimeEXODUS」を導入し、運用を始めた。
「船の設計会社や造船会社もmaritimeEXODUSを使っています。その検査を担当するわれわれも同じソフトを使うことで、設計、製造、検査を通じてより安全な船を造っていきたいと思い、このソフトを導入しました」とシュウ氏は説明する。
全員が30分で船体から出られるか
火災などの非常時における避難についての安全性は、船の図面に基づいてチェックする。船のデッキなどに通じる各出口に、人数を割り振り、30分以内で出口付近に集まれるかどうかをまず、確かめるのだ。そして、その後の30分間で救命ボートに乗り移れるかを確かめる。
飛行機の場合は「90秒ルール」というものがあり、乗客全員が90秒以内に機外に脱出する必要があるのに比べて、ゆっくりした印象だ。
「昼と夜とでは、船の中にいる人の位置が違います。また、火災や衝突、浸水など緊急事態の種類によっても、避難状況が違ってきます。乗客がパニックになったときのことも想定し、複数の避難パターンを考えておきます」と、上級技術者のチェン・グォキン(Chen Guo Qing)氏は説明する。
船が浸水して傾いたときは、当然、避難スピードが遅くなる。これからは火災や衝突のほかテロ対策も考慮しなければならない。
「実際に起こった様々な事故や災害に基づいて開発された実績あるmaritimeEXODUSでもチェックを行うことで、安全性に対する自信が生まれてきます。従来の安全基準を60点主義とすると、このソフトによって80点、90点とさらに船の安全性を高めることができます」とチェン氏は言う。
また、maritimeEXODUSの開発者である英国・グリニッジ大学火災安全工学グループ(FSEG)のエドウィン・ガリア(Edwin Galea)教授は、国際海事機関(IMO)の火災安全委員会でも活躍している。最近も「IMOC1533」という火災シミュレーションの数値解析基準の変更があったが、SMARTFIREも即座に対応した。
「国によって船の安全基準は違いますが、英国のソフトで検証した結果は、国際基準の品質というわかりやすさもあります」(シュウ氏)という点でも、中国船級社はmaritimeEXODUSを使う意義を見いだしているようだ。
EXODUSとSMARTFIREを連携して火災事故を検証
釜慶大学校 ジュンホ・チョイ助教授(韓国)
韓国の釜山にある釜慶大学校工学部 火災防御工学科で助教授を務めるジュンホ・チョイ(Jun-Ho Choi)氏は、様々な火災安全プロジェクトや事故の分析などにかかわり、この分野では韓国でも有数の研究者だ。6月30日、釜山でフォーラムエイトが開催した「EXODUS SMARTFIRE国際防災セミナー」でも、講演した。
チョイ氏が建築土木用の避難シミュレーションソフト「buildingEXODUS」と火災シミュレーションソフト「SMARTFIRE」を導入したのは約10年前だった。
「実際の火災事故などに基づいて開発されたソフトなので解析結果の精度がよいこと、研究成果をもとに常にアップデートされることが導入のきっかけでした」とチョイ氏は振り返る。
チョイ氏の研究対象は幅広い。buildingEXODUSとSMARTFIREを組み合わせて、実際に起こったカラオケ店の火災や客船の沈没事故に基づいて避難シミュレーションを行うだけではない。
人々が避難行動をとるまでの時間や誰がリーダーシップをとるのか、避難を始めた後にエレベーター、エスカレーター、階段のどれを選ぶのかという問題や、煙の中を逃げるときに煙の濃度によって歩行速度がどう変わるか、という実際の非常時に人々がとる行動のデータを検証するための実験も行っている。
「火災安全工学は技術だけではありません。社会的、経験的な側面も重視する必要があります」とチョイ氏は言う。
2003年の地下鉄火災事故で火災安全の道に
チョイ氏が大学生だった2003年に、大邱広域市で地下鉄放火事件が起こり、200人近くが死亡した。「このような大きな被害をなぜ防げなかったのかと思ったのが。が火災安全工学の道に入ったきっかけでした」とチョイ氏は振り返る。
buildingEXODUSやSMARTFIREの開発者であるガリア教授が火災安全工学を志したのも、1985年に英国・マンチェスター空港で起こったボーイング737型機が離陸滑走中に起こったエンジン火災により、55人が死亡した事故がきっかけだった。チョイ氏の動機はガリア教授と通じるところがある。
コンピューターシミュレーションを活用し、韓国の火災安全工学界を背負うチョイ氏が目指すのは、データベース作りだ。
「韓国人は1~2分しかエレベーターを待たないなど、韓国人と日本人の避難行動には大きな違いがあります。buildingEXODUSなどによる解析に使える韓国用のデータを自分の手で作っていくのが、これからの目標です」とチョイ氏は将来の夢を語った。
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