ワークステーションの遠隔操作というと、設定やソフトの操作方法の指導などを想像しがちだ。しかし、東京・渋谷の建築設計事務所、アーバンスクエアは、日本HPの遠隔操作ツール「RGS」を活用して高性能ワークステーション「Z440」を事務所内で共有するために活用している。いったい、どんな使い方をしているのか。現場を直撃取材した。
無人ワークステーションの画面に突然図面が
東京・渋谷にある建築設計事務所、アーバンスクエアの事務所内には、1台の高性能ワークステーション「HP Z440」(以下、Z440)がぽつんと置かれたテーブルがある。
その前には、だれもいないのに、モニター画面には突然、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Vectorworks」が立ち上がり自動車ディーラーの店舗図面が映し出された。
実は、別の席にいた同社設計部課長の塚本真也氏が、ノート型パソコンを使ってこのワークステーションを遠隔操作していたのだ。
遠隔操作に使ったのは日本HPのワークステーション用に開発された「RGS(リモート・グラフィックス・ソフトウエア)」という遠隔操作ツールだ。
このツールをワークステーションにインストールしておくと、LANやインターネットを通じて画面とキーボードやマウスの操作機能を別のパソコンに転送し、どこからでも操作できるのだ。
「大容量のBIMモデルを扱ったり、高画質のレンダリングを行ったりしたいときは、ハイスペックなワークステーションが必要になります。そんなとき、RGSのおかげで自席にいたままZ440が使えるので効率的です」と塚本氏は語る。
RGSは独自の圧縮技術「HP3テクノロジ」を採用し、転送データを170:1の比率で圧縮する。そのため、バンド幅の狭いネットワークでも、3Dグラフィックス動画や画像の回転なども、オリジナルとほぼ同等のイメージクオリティでストレスなく円滑に表示できる。この技術は米航空宇宙局(NASA)の火星探査の画像転送にも利用された。
RGSは“親機”となるRGSセンダーをインストールしたワークステーションと”子機”となるRGSレシーバーをインストールしたパソコンの組み合わせで使用する。センダー側はHP社のワークステーションに限定されるが、レシーバーはWindowsパソコンであればメーカーは選ばない。最新バージョンではMacOS 10にも対応している。
HP Zシリーズのワークステーションやモバイルワークステーションであればライセンス費用がかからない無償のツールである点も特徴だ。
遠隔操作ツールでハイスペックマシンを共用
Z440は高速のCPUインテルXeonプロセッサーE5v4シリーズを搭載し、32GBのメモリーや高性能のNVIDIA Quadro M5000グラフィックを搭載するハイスペックなデスクトップ型ワークステーション。当然、価格も高い。BIMソフトのVectorworksやARCHICADがインストールしてある。
「これだけの性能を持ったワークステーションを、所員1人ずつに配置することはスペースや消費電力、そしてコストの点から見てもあまり効率的ではありません。ハイスペックなマシンをうまく共有する方法はないものかと考えていたところ、日本HPとエーアンドエーからRGSの活用を提案されました」と、同社取締役社長の金田昭宏氏は語る。
遠隔操作というと、パソコンメーカーなどがユーザーに対して設定を手伝う、ソフトベンダーがソフトの使い方を指導する、というサポート的な用途を想像しがちだが、アーバンスクエアではハイスペックのZ440を所内で共有するのに使っている。
1台のセンダーマシンに対して複数のレシーバーパソコンからアクセスができる機能を使うことで所員が自席のパソコンからZ440に順次アクセスしてフル活用している。
「試したところ、Vectorworksの大容量データも、画面がカクカクすることなく、想像以上にスムーズに動くので驚いています」と金田氏は言う。その秘密は、画面の表示が変わった部分の「差分データ」だけを転送する仕組みにある。そのため、大容量のネットワークでなくても、画面がスピーディーに転送されるのだ。
レンダリングや図面作成にフル活用
アーバンスクエアは、輸入車の日本法人やディーラー向けのCI(コーポレート・アイデンティティー)関連デザインや、店舗設計などの業務を手がけている。本社が数年ごとに改訂するCI戦略に沿って、日本向けのデザインマニュアル作りから、日本の建築法基準に沿った店舗のデザイン、そして建築確認申請用の実施設計までを、ワンストップで行えるのが強みだ。
そのため、顧客にはボルボ、ポルシェ、ジャガー、メルセデスなど名だたる高級車を扱う企業名がずらりと並んでいる。
「メーカーによって、店舗のデザインも大きく変わります。例えば、ショールームでのクルマの並べ方や、窓からの見せ方、コーポレートカラーの使い方、ロゴの大きさなどは、『CI図面』と呼ばれる図面によって、マニュアルに沿っているかどうかを確認しながらデザインを進めていきます。この作業にはVectorworksを使います」と金田氏は言う。
「さらに、実施設計までを当社が担当する場合には、そのデザインをARCHICADに引き継いで、実施設計や高画質のCGをレンダリングで作成します。年間で100件程度の物件をこなしています」(金田氏)。
RGSによってZ440を共用できるようになってからは、稼働状況も高まっている。1度に遠隔操作できるのは1人だけだが、必要なキーボードやマウス操作を行った後は、別の人がすぐに操作できる。
そのため、ある所員がARCHICADで高解像度のレンダリングを行っている間、別の所員がVectorworksで大容量の企画図を作成する、といった具合に、ハイスペックなマシンを効率的に利用できるからだ。
インターネットを使って海外からの活用も
RGSによるワークステーションの共有に成功したことから、アーバンスクエアはすでに次の計画も描いている。それは社内にVPN(Virtual Private Network)を構築し、社外からインターネットを通じてZ440を活用できるようにすることだ。
「今は、BIMソフトを入れた大きなモバイルワークステーションを、リュックサックに入れて顧客のもとに出掛けていますが、社外からRGSでハイスペックマシンが使えると、小型・軽量のワークステーションで十分です。おしゃれな自動車ディーラーのお客さんのところには、われわれ設計者もスタイリッシュなパソコンを持って出掛けたいですね」と塚本氏は言う。
CIポリシーを変更する時期には、各クライアントの海外本社に出張することもある。いざという時も、事務所のZ440にアクセスできると安心だ。
「RGSは画面の色情報だけを暗号化して転送しています。つまり実際の設計データは一切外部には出ません。ですから万一、パソコンを外出先で紛失しても、貴重なデータは事務所にしかないので安心です。使い慣れた日本HPのワークステーションを、どこからでも使えるRGSは、社内外のコラボレーションに大きく役立ちそうです」と塚本氏は語った。
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