BIM/CIMモデル作成や点群データ処理など、大容量の3Dデータを扱うデバイスワークス(本社:東京都中央区)は、高性能CPU「AMD Ryzen Threadripper PRO 7000WXシリーズ プロセッサ」を搭載した日本HPの最新ワークステーション「HP Z6 G5 A Workstation」を業務に活用。プラント設備を3D計測した100億点規模の点群データやBIM/CIMモデル、港湾工事の施工ステップVRの作成などを行った。その結果、従来のワークステーションに比べて計算時間は最大10分の1に短縮された。設計や施工管理業務の2024年問題解決にも大きな効果をもたらしそうだ。
大容量点群の処理時間が10分の1に
「300器械点、150GBの点群データを合成するのに、当社のパソコンだと4時間12分かかっていました。しかし、HPの最新ワークステーションだと、19分で終わってしまいました。処理時間が10分の1に短縮されたのです」と、デバイスワークス コンサルティング室 室長の秋山佳祐氏は語る。
秋山氏はBIM/CIMモデル作成や点群データ処理、GIS(地理情報システム)など、大規模な建設プロジェクトで使われる大容量の3Dデータを扱う業務を専門に担当している。
「これまで私が使っていたPCは、CPUがIntel i9 11世代、メモリー32GB、グラフィックボードはRTX2080Tiと、この種の業務ではよく使われているレベルです。それが最新のHPワークステーションだと、1桁速いスピードが出せるとは驚きでした」(秋山氏)。
秋山氏が言うHPの最新ワークステーションとは、CPUにAMD Ryzen Threadripper PRO 7000WX シリーズ プロセッサ、メモリー512GB、グラフィックボードにNVIDIA RTX 6000 Ada Generation 1基を搭載した、「HP Z6 G5 A Workstation」のことだ。
では、なぜ今、建設業の点群処理業務で、こんな“モンスター”とも言えるスペックのマシンが注目されているのだろう。
デジタルツイン施工管理で点群が大容量に
2006年に設立されたデバイスワークスは、建設コンサルタントや建設会社などでのCADやBIM/CIMの活用をサポートする様々な業務を行ってきた。中でも、最近増えているのが、現場の地形や建物などをそっくりそのまま3Dデータ化した「デジタルツイン」の作成業務だ。
「これまで現場の現況図を作るときは、測量機や標尺を持って現場に出掛け、現場の各部分を点と線で測りながら図面を作っていたので多くの人員と時間を要していました。その作業が、3Dレーザースキャナーやドローンによる空撮で、現場を一気に3D計測し、そのデータをもとに現場を丸ごと3Dのデジタルツイン化する方法に変わってきたのです」とデバイスワークス代表取締役の加賀屋太郎氏は語る。
3Dレーザースキャナーは毎秒、100万~200万回のレーザー光を現場に照射し、地物に当たった位置を3次元座標点の集合体として計測するものだ。大規模な施設や現場では、3Dスキャナーの位置を数百カ所も移動させて点群を計測し、そのデータを一つに合体させる必要がある。
「そこで困っていたのが点群処理にかかる時間が長くなってきたことです。300カ所で計測した点群データは100億点、容量は150GBに及ぶことあり、PCに読み込むだけでも半日程度かかります。合体した点群データの書き出しは、夜通し行っても、朝出社したらまだ終わっていないこともありました」と秋山氏は言う。
あまりにデータ量が多いので、途中でPCが落ちてしまうこともあるという。そうなると、相当な手戻りとなり、自社業務の生産性も低下してしまう。
96コアの並列計算で点群処理速度が大幅高速化
そこで同社は、高性能CPU「AMD Ryzen Threadripper PRO」を搭載したHP Z6 G5 A Workstationの性能に期待し、大容量の点群処理やBIM/CIMモデル、GIS、VRの作成などに活用。従来のPCと比べてみた。
その分野はプラントやテーマパークから、鉄道、空港、さらには港湾、河川構造物までに及ぶ。
●HP Z6 G5 A Workstationを活用した業務の例
活用分野 | 業務内容 |
プラント | 0.5haのプラントで300器械点、100億点の点群を処理し、配管BIM/CIMモデルを作成 |
テーマパーク | 2haのテーマパークを200器械点で計測した45億点の点群から3Dモデルを作成 |
鉄道 | 2.3haの鉄道施設を160器械点で計測した18億点の点群からBIM/CIMモデルを作成 |
空港 | 80haの空港施設のGISデータから工事ポリゴンを数量計算 |
港湾 | 工事のBIM/CIMモデルから施工ステップをVRコンテンツ化 |
河川 | 新川を広域フォトグラメトリーで3Dモデル化し、PLATEAUの都市モデルデータと合成 |
その結果、従来は4時間かかっていた点群処理が30分で終わる、2つの点群を合体させるのに2秒かかっていたのが0.5秒に短縮される、点群処理ソフトで点群のインポートや結合をしながらBIM/CIMモデルを作成する作業がストレスなく行える、といった大幅な作業スピードの向上が確認できた。
その理由について日本HP ソリューション営業本部 本部長の大橋秀樹氏はこう説明する。「一般的なパソコンは一つのCPUに4~16個程度のコアが内蔵されており、その数をコア数と言います。AMD Ryzen Threadripper PRO 7000WX シリーズ プロセッサの特長は、これまでにない96コアという多数のコアを内蔵している点です。そのため、大容量の点群データなどを多数のコアで同時並行に処理することができ、飛躍的に計算スピードが上がるのです」
秋山氏は「大規模なBIM/CIMモデルや広域のデジタルツインの作成、点群の処理を行ってみて、圧倒的なスピードという優位性を感じました。複数のソフトを同時に動かしても、マシンが途中で止まることは1回もありませんでした」と、そのパワーを評価する。
これだけ処理スピードが速いと、消費電力の増加も気になるが、どうなのだろうか。
この疑問に対し、大橋氏は「電力は1KWタイプの電源ユニットでまかなえます。その理由はAMD Ryzen Threadripper PRO 7000WX シリーズ プロセッサの集積回路幅は、わずか5ナノメートルなので電流も少なく、データ処理量の割には省エネ設計となっています。HPが以前から得意としてきた通風シミュレーションによって、筐体内部の冷却も効率的に行っています」と説明する。
集積回路幅と言えば、かつて世界一の計算速度に輝いた日本のスーパーコンピューター「京」は45ナノメーター、「富岳」は7ナノメーターだった。それよりも細い回路を実装したCPUが、自社の業務に使えるようになっているのだ。
デジタルツイン時代に必要なワークステーションとは
BIM/CIMや施工管理などのアプリは、クラウド化が進んでいるが、サイズが大きい点群データをそのまま、クラウドにアップして共有するのはかえって非効率になる。
「現場で取得した精緻で大規模な生の点群データは、まず手元のワークステーションでノイズ除去や間引き、3Dモデル化などで軽量化を行ってから、クラウドで共有するワークフローがますます増えてくるでしょう」と秋山氏は予測する。
「全員参加型のデジタルツイン施工管理で生産性を上げるためには、ハイスペックなワークステーションで点群処理やメッシュ化をスピーディーに行ってクラウドにいち早くアップすることが必要です。その後、多くのプロジェクト関係者が、ロースペックなパソコンでデジタルツイン上での施工計画や数量計算、BIM/CIMモデリング、発注者による遠隔臨場などを並行して行うのが効率的でしょう」と秋山氏は説明する。
初めの段階で点群データの処理時間が長くかかり、クラウドでの共有が遅れてしまうと、そのデータを活用した施工計画の検討や施工土量の算出など、デジタルツイン施工管理に携わる多くの関係者に”点群データ待ちのムダ”が発生し、プロジェクト全体の生産性も低下してしまうことになりかねない。
HP Z6 G5 A Workstationの価格は、96コアCPU、128GBメモリ、2TB SSD、NVIDIA RTX 6000Ada構成のフラッグシップモデル1の定価で4,293,300円(税込・送料込)と従来のワークステーションよりも高価だ。
しかし、初期の点群処理スピードが10倍に上がることで、後に続くデジタルツイン施工管理に従事する関係者は待ち時間なく業務をスタートでき、プロジェクト関係者全員の生産性向上を図ることができる。そのコストパフォーマンスを考えると、決して高すぎる投資ではないだろう。
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