札幌市中央区の岩崎は、大規模なCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)モデルの作成や、点群データなど大容量のデータ処理を行うため、日本HPの高性能ワークステーションを導入した。最もハイスペックなマシンには、128GBのメモリーと20個のコアが搭載されている。岩崎の技術者に、大規模化が進む土木分野のデータ処理業務におけるワークステーション活用についてインタビューした。
延長60km、2GBの道路のCIMモデルも処理
札幌市中央区に本社を構える岩崎は、3Dマシンコントロール搭載のブルドーザーによる情報化施工やトータルステーションによる出来形管理など、土木分野での3Dデータ活用に以前から力を入れてきた。
岩崎は以前から情報化施工に取り組んできた(左)。岩崎代表取締役社長の古口聡氏(右) |
2012年からは国土交通省が属性情報付きの3Dモデルで土木構造物の設計、施工、維持管理を行うCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の導入を始めたのに伴い、同社が扱う3Dデータはますます大規模化している。
「2014年に東京支店を開設してから、大手ゼネコンさんから持ち込まれる仕事はさらに大容量のデータ処理が必要なものが増えました。なかには全長60km、データ容量2GBというCIMモデルを作成することもあります」と、岩崎の代表取締役社長、古口聡氏は語る。
土木分野の設計、施工業務で扱う3Dデータが大規模化してきたのに伴い、岩崎は昨年秋以降、企画調査部 企画開発グループに、日本ヒューレット・パッカードのワークステーションをまとめて導入した。
機種の内訳はデスクトップ型のワークステーションとしては、Z820とZ420を各1台、Z230を2台、そしてモバイルワークステーションのZBook15が10台だ。
それぞれ、建築分野のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に使われるワークステーションに比べて、メモリー容量などのスペックは大きめだ。
最もハイスペックなZ820は128GBのメモリーと10のコアをもつIntel Xeon E5-2690v2プロセッサを2個、そしてグラフィックボードには12GBの容量を持つNVIDIA
Quadro K6000を搭載している。他の機種のメモリー容量もZ420は64GB、Z230は16GB、ZBook15は32GBと大きい。
Z420(左)とZ230(右)による作業風景 |
施工手順や重機配置も考慮したCIMモデルを作成
これらのワークステーションを使って、企画調査部 企画開発グループが行っているのは、施工手順や重機の動きを考慮した施工用のCIMモデル作成だ。
施工段階で使うCIMモデルは、構造物の完成形を表しただけでは不十分だ。道路や堤防などの土工では切り土と盛り土をバランスさせる位置関係や、橋脚や基礎などのコンクリート構造物では、生コンクリートの打設工程に合わせてCIMモデルを分割するなど、施工のノウハウを生かしたモデル作りが求められる。
同グループCIM・情報化施工チームの後藤紫郁(ちふみ)課長は以前、北海道内の建設会社で情報化施工による法面の仕上げなどに携わってきた。
「施工用のCIMモデルでは施工過程や施工順序をシミュレーションし、第三者にアニメーションなどで施工のイメージを理解してもらえるようにする必要があります。60m以内の運土はブルドーザー、100m以上はバックホーとダンプなどを選びますが、土質によってはキャリアダンプの方が適している場合もあります。こうして選定した重機の配置や動き方もCIMモデルに作り込んでいきます」と後藤課長は説明する。
情報化施工のシミュレーション用模型の脇に立つ後藤紫郁課長(左)。杭頭処理の工程も考えたCIMモデル(右) |
これらのCIMモデルを作成するソフトも、目的によって使い分けている。通常の設計やシミュレーションには、オートデスクのCIMソリューションのパッケージ「Infrastructure Design Suite」(以下、IDS)、天候やクルマ、人の動きまで表現したい場合にはフォーラムエイトのバーチャルリアリティーソフト「UC-win/Road」を使っている。
「プレゼンテーションの目的に応じて、IDSとUC-win/Roadの間で3Dモデルデータを交換し、高画質のレンダリングを行ったり、天候を変えてシミュレーションしたりすることもあります。これらのデータ処理はこれまで数時間かかっていたこともありますが、HPのワークステーションだと数十分で完了できるようになりました」と企画調査部の取締役部長、木下大也氏は説明する。
また、同部CIM・情報化施工チーム係長の真柄毅氏は「CIMモデルの作成などは、複数のソフトを同時に立ち上げて作業することも多くあります。様々なCIMソフトが安定して動くHPのワークステーションで作業していると安心感があります」と言う。
農業の肥培施設のCIMモデル。左がInfraworks、右がUC-win/Roadで作成したもの |
点群処理でもワークステーションが威力を発揮
岩崎は昨年、3Dレーザースキャナーで計測した点群データから、地表面の3Dモデルを作る「PET’s」というソフトを発売した。
3Dレーザースキャナーで地形を計測すると、98%程度のレーザー光が草木に当たってしまい、肝心の地表面ではなく草木の表面形状を図ってしまうことになる。
そこで岩崎では独自の技術で、地表面に到達した残り2%の点群だけを取り出し、草木に隠れた地表面の3Dモデルを作成するソフトを開発したのだ。
岩崎が導入したZ820のようにハイスペックなワークステーションを持っている企業は少ない。そこでZ820を使って膨大な量の点群データから、設計や施工などに必要十分な部分だけを残し、取引先が持っているマシンで開けるように調整し、納品している。
「点群データで必要なのは数%にすぎません。不要なデータを捨てるという作業にもHPのワークステーションは活躍しています」と古口社長は説明する。
土木分野での点群データ活用は広がる一方だ。これからは航空機に搭載した3Dレーザースキャナーで計測した大容量の点群データから、地形モデルなどを作成する業務も増えてきそうだ。
新入社員も最新鋭のワークステーションを活用
新入社員には、先輩が使ってきたマシンの「お下がり」を配布している企業も少なくないが、岩崎ではあえて最新鋭のワークステーションを使わせている。
「企業のコストで最も大きいのは人件費だ。データ処理に時間がかかったり、フリーズしてやり直したりするようなことがあれば、大きな無駄になる。ワークステーションなど情報機器への投資は惜しまない」と古口氏は語る。
同社では新入社員も2台の4Kディスプレーを付けたワークステーションを活用している。経験と知識が豊富な先輩に囲まれ、最新鋭の機器を与えられる環境下では、新入社員もぐんぐんと実力をつけ、入社半年後にはCIMモデル作成業務を担えるまでに成長する。
2008年に入社したCIM・情報化施工チームの主任、熊谷大輔氏は「私は文学部の出身ですが、新入社員時代から3Dソフトを使い、周囲の先輩が“生き字引”のように指導してくれました。その結果、今ではエンジニアとしてCIMモデルを作成し、現場を指導しています」と言う。
道内の建設会社をはじめ、全国において年間100カ所以上の現場で情報化施工を支援する岩崎は、CIM関連イベントなどで自社の事例を積極的に発表し、北海道内だけでなく全国でCIMの普及を促進する活動も行っている。
【問い合わせ】 |
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