U’s Factory(本社:横浜市保土ケ谷区)は、AI(人工知能)を使って、PDF図面や紙図面から構造BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルを自動作成するツール「AI Structure」を開発し、2024年6月に発売した。これまでの手作業に比べて、構造BIMモデル作成の作業工数は10分の1に激減する。設計者がこのツールを「アシスタント」として活用することで、スピーディーかつ正確な積算が可能となり、生産性向上や働き方改革を進めることができるのだ。
AIが図面を読み取り、構造BIMモデルを自動作成
建築業界にBIMが普及したとは言え、2次元CADソフトで描かれた構造図をBIMモデル化する作業は、平面図や立面図の寸法や部材リストの鉄筋径・本数などを設計者が読み取って、手作業で一つ一つ、BIMモデル化する必要があった。
その常識を打ち破ったのが、U’s Factoryが開発した「AI Structure」だ。PDFの平面図や部材リスト図に描かれた図形や文字、記号などを、AIが読み取り、構造BIMモデルを自動作成してくれるのだ。
出来上がったBIMモデルのチェックを含めて、作業時間やコストは手作業に比べて10分の1に激減する。
「その結果、これまで手作業で1~2週間かかっていた見積もりを、当日中に提出することも可能になります」とU’s Factory代表取締役の上嶋泰史氏は説明する。
AI Structureが2次元図面を読み取って、構造BIMモデルを作る手順は次の通りだ。
各階の平面図にスケールや階高、原点を与える。そしてAIが平面図上の「部材符号」を読み取り、それぞれの柱や梁にひも付けていく。
部材符号とは、平面図とは別に用意され、鋼材や鉄筋の仕様を表した「部材リスト図」と照合する情報だ。
AIは同時に、部材リスト図の部材符号と鋼材、鉄筋の仕様を読み取る。
そして、平面図上の通り芯を参照しながら、1階から順番に各階の柱や梁を立ち上げ、部材リスト図に従ってそれぞれの鉄骨や鉄筋の3Dモデルを作成。構造BIMモデルを作っていくのだ。
●AI StructureがPDF図面から構造BIMモデルを作成する過程
【もとのPDF図面】
【AIがPDF図面を読み取り、構造部材の情報を統合】
【Archicad上で構造BIMモデルを自動作成】
人間の図面読み取りノウハウをAIが学習
人手不足が年々、深刻さを増す建設業界では、人間の労働力を補うために様々な建設ロボットが開発され、現場での墨出し作業や鉄筋結束作業、3Dプリンターによるコンクリート部材の造形などが行われ始めた。
頭脳労働が中心の設計業務はこれまで、従来のプログラミングだけでは自動化が難しい部分もあった。しかし、最近はChatGPTなど、生成AI も登場し、人間の頭脳労働をコンピューターに任せることができるようになってきた。こうしたAIの進化を、BIMの世界にいち早く取り入れたのが「AI Structure」なのだ。
人間の設計者が描く図面は、様々なフォーマットや記号の付け方が存在する。そのため、従来のプログラミング技術によって、あらゆる書式の図面カら、部材の位置や各部の仕様、数値を読み取り、BIMモデルの作成に使用するのは不可能だった。
そこで、U’s FactoryのAI技術陣は、建設業界で実際に使われた図面を使って、AIに学習させたのだ。その結果、人間と同じように様々なPDF図面から、BIMモデル作成に必要なデータを読み取れるようになったのだ。
AIが作成したBIMモデルは、人間の設計者がチェックする。例えば、平面図や部材リスト図などから読み取った数値や文字などが図面と食い違っていた場合は、画面上でそのデータを修正する。するとその部材符号と紐づいたBIMモデルも一斉に修正される。
「その修正データによって、AI Structureも追加で学習されます。実務で多くの図面をBIM化すればするほど、AI Structureも将来的に賢くなっていきます」と上嶋氏は説明する。
AI Structureから始めるBIMの自動モデリング
PDF図面からAIが必要なデータを読み取った後、鉄筋や鉄骨などの3Dオブジェクトを使ってBIMモデルの作成を行うのは、U’s Factoryが2020年に開発した「BI for AC」というBIMモデルの自動作成システムが担う。
つまり、AI Structureは、BI for ACのアドオンソフトとして動作するのだ。
これまでのBIMソフトは、各部材の3Dオブジェクトを一つ一つ、手作業で配置しながらBIMモデルを作っていた。
この方法に対して、BI for ACは3D空間上で範囲を指定すると、決まったルールに従って、その範囲内に様々な3Dオブジェクトを自動配置してくれるものだ。
例えば、足場をモデリングするときは、下の画面のように建物のBIMモデルの周囲を選択し、足場作成用のコマンドを選ぶと、足場が自動発生して建物を囲むように配置されるのだ。
このとき、昇降階段や足場板、足場つなぎ、落下防止養生ネットなども指定した使用に従って自動的に発生する。
●BI for Archicadによる足場材の自動配置
自動発生できる部材は、足場材のほか、型枠や断熱材、鉄筋、デッキプレート、さらには山留め材や木造建築用の金具まで、幅広い部材がある。
BIMモデルを一通り作ったら、工程を自動的に分割して、現場が下から立ち上がってくる工程シミュレーションを自動的に作成する機能も備えている。
ゼネコン時代の疑問から生まれた実用システム
もともと「BI For AC」は、見積もりソフトとして開発されたので、単価を入れておくと見積書や鉄筋の重量明細書なども自動作成できる。
BI for ACやAI Structureを開発したきっかけは、上嶋氏がかつて現場監督として勤めていた大手ゼネコンで経験した「疑問」にあった。
「ゼネコンで必要な積算機能は、積算基準に沿って数量や金額を算出するものです。一方、サブコンでは、資材の購入やトラックの手配に、鉄筋が何kg、石膏ボードが何枚といった実数による数量算出が必要です。ゼネコンもサブコンも使えるソフトがないのが不思議でした」と上嶋氏は振り返る。
上嶋氏がそんな疑問を温めてきた25年間に、BIMソフトやAI技術が進化し、BI for ACやAI Structureが実現したのだ。
ゼネコンの現場監督として設計や施工管理、サブコンや職人の作業から、BIMやプログラミング、さらにはAIに至るまでの幅広い知識と経験が融合して実現したこれらのシステムは、実務者の「アシスタント」となって仕事を支える実用性がある。
「当社には、これまで6000件を超える改善要望が寄せられ、1年間に1500件以上、毎日5件以上の追加修正を実現した年もあります」と上嶋氏は言う。
気になるお値段だが、サブスクリプションとなっており、BI for ACが1年目約200万円(税別。以下同じ)で2年目以降は半額となる。AI Structureは年間利用が30万円で、100枚の図を処理でき、追加分は15万円で100枚分を購入できる。
人手不足問題や時間外労働時間の上限規制に対応するため、建設業界では省人化や時短化が課題になっている。BIMによる生産性向上をAIや自動化する具体策として、AI StructureやBI for ACの導入を検討してみてはいかがだろうか。
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