建設現場では経験豊富なベテラン技術者や作業員が次々と引退し、安全管理の重要性はますます高まっている。その一方で、経験の浅い施工管理者も増え、現場のリスクや事故発生の可能性に気づきにくいこともある。そんな現場の安全管理をサポートするのがEARTHBRAINが開発した「安全支援アプリ」だ。現場の写真を1枚アップロードするだけで、AI(人工知能)が隠れたリスクや対策をアドバイスしてくれるのだ。
1枚の写真から現場に潜むリスクと対策がわかる
建設業の大きな課題は、ベテランの技術者や作業員が次々と引退する一方、経験の浅い若手や外国人労働者が増えていることだ。技術の継承が難しくなる中で、安全管理の重要性はますます高まっている。現場の安全を守るための取り組みは、十分に機能しているだろうか。
経験が浅い施工管理者の中には、現場をパトロールしても、どこにリスクが潜んでいるのかに気づかなかったり、それがどのような事故につながるのかを具体的にイメージできなかったりすることがある。
また、朝礼などでKY(危険予知)活動を行っても、抽象的な注意喚起に終始し、具体的な作業の対策まで至らないことも多い。その結果、KY活動の形骸化やマンネリ化を招き、十分機能しないことも増えてきた。
こんな安全管理のお困りごとを一発で解決してくれるのが、EARTHBRAIN(本社:東京都港区)が開発した「安全支援アプリ」だ。
その最大の特徴は、たった1枚の現場写真をクラウドシステムにアップロードするだけで、安全管理に必要な情報が瞬時に手に入ることにある。AIが現場写真を解析し、転倒・転落、重機との接触、開口部の未養生といったリスクを自動で検出してくれるのだ。
例えば、現場の安全パトロールで撮った左上の写真を見て、あなたはどんな事故の危険が潜んでいると感じるだろうか。
この写真を「安全支援アプリ」にアップロードすると、右側の写真のように、AIが写真のリスク箇所を赤枠で囲んで示したうえ、リスクとして「重機との接触事故」を指摘した。たしかに、右の作業員はカルバートのようなものの上に立っており、動ける範囲が狭い。
そして重機との接触事故を防ぐ対策案として「誘導員を配置する」「作業エリアを明示する」「安全教育の実施」を即座に挙げてきた。確かに、重機との接触事故は、重機と人間が同じ時間、同じ場所にいることが原因となって発生する。
それが起こらないようにするために、誘導員という第三者による監視や、作業エリアを限定することによる人間と建機の分離、そしてなによりも現場で働く人全員がこれらの対策を身に着けておく安全教育という、3つの異なる角度からの対策をアドバイスしてきたのだ。
例えば、別の写真では「作業員が安全帯を着用していません」「高所作業時の転落リスクがあります」「バックホーの旋回範囲内で作業員が動いているため、巻き込み事故の危険があります」といったリスクが指摘されることもあるだろう。
過去の類似事故や根拠となる法令も明示
さらに、このアプリは過去に発生した類似事故の事例を参照し、「バックホーのオペレーターが着席する際に作業服のポケットが操作レバーに引っかかり、旋回して作業員がはさまれた」などの事実に基づいた情報も提供する。
これらの類似事故は、厚生労働省や国土交通省が公開している数千件ものデータベースをAIが学習したもので、土木・建築から設備、プラント、電気まで、あらゆる建設業の業種、職種の事故事例を網羅していると言っても過言ではない。
事故は日ごろ、思ってもいなかったことがきっかけで起こることが多いので、こうした過去の事例は大きな教訓になる。同様なリスクを放置した結果、具体的にどんな事故や負傷者が出たかといった事実を突きつけられると、未然に事故を防ごうという気持ちも高まりそうだ。
さらに、現在の状況は「どの法律に違反しているのか」ということもすぐに分かるのも大きな利点だ。例えば、「労働安全衛生法第◯条に基づき、安全帯の着用が義務付けられています」や、「規則では開口部には養生が必要です」といった具体的な法的根拠を示すことで、現場の是正措置を迅速に進めることができる。
イラスト、点群、BIM/CIMモデルも使用可能
「安全支援アプリ」は、写真以外にも対応している。現場のイメージイラストや点群データ、BIM/CIMモデルなどの現場画像でも、同様なリスク管理が行えるのだ。そこで、いくつか試してみた。
まずは上のような足場作業のイメージイラストだ。リスクとして指摘されたのは「高所からの落下事故」だった。
その対策案としてKY活動などで出てきがちなのは、「安全帯の着用」や「安全柵の設置」など、表面的な注意点だが、安全支援アプリがアドバイスしてきたのは「足場の固定と点検を強化」「作業区域の安全性確保」「工具の安全管理」だった。
「足場の固定」や「作業区域の安全性確保」など、むしろぱっと見ただけでは気づきにくい点をアドバイスしてくれたことで、足場の組み立て作業もより慎重に行えそうだ。
続いて判定してみたのは、クレーンで資材をトラックから荷下ろしする作業のイメージ画像だ。この画像についてのリスクは「吊り荷の落下による事故」だった。その対策としては、「吊り荷の下に入るな」ということがまず思い浮かびそうだが、アプリからは「吊り荷の安定化」や「立ち入り禁止区域の設定」がアドバイスされた。
確かに吊り荷の落下を起こさないことが重要であり、そのためには吊り荷を安定して吊ることが重要だ。安易に吊り上げず、荷物に合った吊り具や治具を使うなどのひと手間を忘れないためにも重要な指摘だろう。
続いて、現場を計測した点群データをBIM/CIMソフトに読み込み、建機モデルなどを追加して作成した施工計画の3Dモデルをキャプチャーした画像を現場写真として安全支援アプリに判定させてみた。
リスクとして指摘したのは「ショベルと作業員の接触事故」だった。3Dモデルによる検討は、現場を縮小して俯瞰した状態で検討することが多いので、その中にいる作業員の存在には気づきにくい。しかしアプリは縮尺とは関係なく、まず作業員の存在と接触というリスクに気付いた。
対策としては「作業エリアを明確に区画する」も含まれていた。現場の3Dモデルでは、交通誘導員や工事看板、カラーコーンなども配置されているのがわかるが、「作業エリアの明確化」という指摘があれば、これらの配置方法もより安全な配置に改善できる。
チャット機能でAIの力をさらに活用
安全支援アプリでは、出力された指摘事項をさらに活用するためのAIチャット機能も搭載している。例えば、出力された指摘事項に対してチャットで「ベトナム語に翻訳」と送信すれば、リスクや対策に関する文章をそのままベトナム語で出力してくれる。
他にも、「標語をつくって」といったメッセージを送ると、現場で掲示できるレベルの安全標語をAIが考えてくれる。
また、「必要な対策を他に考えて」「写真の中で好事例を探して」といったメッセージを送信すれば、最初に出力された指摘事項以外にも様々な情報を得ることができる。得られた結果に対して、利用者が気になる部分を深掘りすることが可能になる機能だ。
現場の安全パトロールやKY活動が変わる
この安全支援アプリを導入すると、安全パトロールやKY活動が劇的に変わるに違いない。これまでのKY活動は、形式的でマンネリ化しがちであり、「気をつけましょう」といった抽象的な注意喚起に終わることが多かった。
しかし、安全支援アプリを活用すれば、その場で写真を撮り、AIが即座にリスクを指摘することができる。過去の事故情報と照らし合わせながら、具体的な対策を議論し、法的根拠を明示しながら、安全対策を実行できるようになる。KY活動の時間が「実効性のある安全対策の場」に変わるのだ。
気になる利用料金だが、1つのIDで月額2万円から利用できる(※)。またカスタマイズにも別料金で対応でき、リスクや類似事故に社内の事故事例やヒヤリハット事例などを追加することも可能だ。
(※)1社あたり5IDから契約が可能
現場写真だけでなく、点群データやBIM/CIMモデルのキャプチャー画像にも対応していることは、施工計画段階で仮設計画や作業手順の3Dシミュレーションを行いながら、未来のリスク評価を「フロントローディング」(前倒し)で行えることを意味する。その結果、隠れたリスクを未然に予知し、施工計画をより安全性の高いものに改良することもできそうだ。
EARTHBRAINはこれまで、国土交通省のi-Construction施策を踏まえた情報化施工や建設現場のDX化を推進し、3Dデータを活用した業務プラットフォームの開発・運営に取り組んできた。その裏ではAIを施工計画や建設現場で活用するための技術開発にも取り組んでおり、事業の柱として注力する方針だ。
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