建築予定地の条件をフルに生かし、最大の建物を建てるのに有効なのが、2003年に生まれた「天空率」の制度だ。従来の斜線制限に比べて、床面積を3~4割広げられる場合もある。しかし、そのメリットを使いこなしている建築設計者は少ない。そこで生活産業研究所がリリースしたのが、「天空率空間」というアプリだ。天空率を活用すると、建築可能空間がどれだけ広がるかを瞬時に計算し、ビジュアルな表示と定量的な面積で表示してくれるのだ。
天空率の利用で床面積が4割近く増えた
「土地の条件によっては、天空率を活用することで、建物の床面積を4割近く増やせることもあります」と語るのは、生活産業研究所のテクニカルディレクター、菅原潤一氏だ。
東京都内のある場所に中層ビルを建設するとき、従来の斜線制限による設計と、天空率を活用した設計でどのくらい建物の大きさが違ってくるのかを比較した。
従来の斜線制限による設計だと6階建てで床面積は313m2ほどだったのに対し、天空率の規定を利用した場合は8階建てで床面積は433m2という設計が可能になったのだ。なんと、床面積は38%も増える結果になった。
「少しでも土地を有効活用したい投資物件などの場合、4割近くも広い床面積が広げられるのは、大きなメリットです。しかし、天空率を活用した確認申請は10年前も今も、全体の10%くらいしかないのが現状です」と、生活産業研究所 代表取締役の石川健氏は語る。
取っつきにくい天空率の規定と“コスパ”がネックに
床面積を広げられるという大きなメリットがありながら、なぜ、天空率の活用は進んでいないのだろうか。
「その理由は、まず円盤形の極座標に基づく天空率の考え方が、直線・直角に慣れ親しんだ設計者にとって一見、とっつきにくく感じることにあります。そして、苦労して天空率を利用した結果、どれだけの効果があるのかが予想しにくいので“コストパフォーマンス”が読みづらいということにあるでしょう」と説明するのは、生活産業研究所 セールスディレクターの田澤敏之氏だ。
天空率とは、2003年1月に施行された改正建築基準法で追加された制度。建物を設計する際、天空率という新たな指標を使うことで、従来の斜線制限を緩和できるものだ。
簡単に言えば、周辺の任意の場所から建物を見て半球上にトレースし、それを真下に見下げた図(天空図)で、円に占める建物の面積が何パーセントになるかを示した値である。
確かに、下の天空図を見ると、直線・直角に慣れ親しんだ建築設計者は取っつきにくそうだ。
天空率制度のポイントは、従来の斜線制限によって建築可能な最大の建物(適合建築物)の天空率よりも、設計中の建物(計画建築物)の天空率が同じか大きければ、従来の斜線制限から飛び出してもよい点にある。その結果、従来よりも床面積を広げたり、建物を斜めにカットしたりしなくても済む場合が出てくる。
●天空率制度の概要
天空率の活用効果がわかるアプリ
天空率の制度によって、最大限、どれだけ床面積を広げられるのかという問題の答えを導き出すのは難しい。その理由は同じ敷地内でも建物の平面形状や配置によって、計画建築物と適合建築物の組み合わせが無数にあるため、最大の効果はどれだけなのかを求めるのに、大変な手間ひまがかかっていたからだ。
天空率の効果は、土地の条件によって大きく異なる。そして、日影規制や用途地域による規制は、従来同様に守らなければいけない。手間ひまのかかる天空率による検討を行ってから、大きな効果が見込めないと分かっても、コスパが悪すぎる。
天空率の活用をめぐるこれらの課題を解決するため、長年、天空率を生かした設計ソフト「ADS」シリーズを展開してきた生活産業研究所は、「天空率空間」という新アプリを開発。2024年2月29日にリリースした。
対象となる敷地の形状や境界線条件、用途地域、地盤面高、階高を設定し、建物の平面形状を描くだけで、従来の斜線制限と、天空率を利用した場合の最大ボリュームの比較を、瞬時に計算しビジュアルに表現してくれるのだ。
「天空率の効果を最大化した天空率空間を求めるロジックは、当社独自で開発したもので特許申請中です」と、生活産業研究所ディベロップメント ディレクターの山田直樹氏は説明する。
同じ敷地内でも、建物の平面形状や配置する場所を複数パターン指定でき、同時に計算して比較することもできるので、天空率を利用するメリットがあるかどうかも、わかりやすい。
天空率で設計事務所の差別化戦略を
建物の建設予定地の条件から、天空率でどれだけ床面積を増やせるかがわかると、設計の“コスパ”も判断しやすいだろう。また、「天空率空間」アプリからは面積表や天空率空間、面積表用のフロア形状をDXF形式やJww形式で書き出すこともできる。
これらのCADデータなどは、生活産業研究所が20年以上にわたって開発してきた「ADSファミリー」のアプリにそのまま取り込める。そして、天空率のほか斜線制限や逆日影計算、日影計算を行いながら、建築設計を効率的に進めていくことができるのだ。
ADSファミリーのアプリは、Jw-cadやAutoCADなどの主要CADソフトに読み込めるほか、RevitやArchicad、VECTORWORKSといったBIMソフトには、それぞれアドオン版のアプリが用意されている。使い慣れた設計ソフトで、手軽に天空率を活用した設計が進められるのだ。
天空率によって、床面積のアップや建物デザインの幅が広がると、設計事務所や設計者自身の差別化戦略として有効だ。これまで天空率を活用してこなかった設計者も、「天空率空間」アプリをきっかけにチャレンジしてみてはいかかだろうか。
「天空率空間」アプリはサブスクリプション制で提供され、価格は年間2万4000円(税別)で、ADSファミリーの既存ユーザーの場合は半額の1万2000円(同)となる。2024年7月中旬までは、下記のサイトから無料でダウンロードし、試用できる。
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