Pix4Dが発売した「viDoc RTK rover」は、スマートフォンやタブレットに外付けし、RTK-GNSSによる高精度な位置補正を可能にするデバイスだ。LiDARを搭載したスマホに取り付けると、公共座標系での点群計測が簡単に行える。三栄コンサルタント(本社:岐阜市)は、このツールを現場調査に活用し、スピーディーな現場情報の共有や設計、施工方法の検討を実現したという。同社の技術者に直撃インタビューした。
スマホ自体がRTK-GNSS対応に
「先日は洪水で被害を受けた、岐阜県内の魚道の細部を、viDoc RTK rover付きのスマホで点群計測してきました。その点群を、ドローンで計測した周囲の地形に重ねて読み込んだところ、どちらも公共座標系なのでピッタリと位置が重なりました」と驚くのは、三栄コンサルタント名古屋支社技術部の瀧澤亘紀氏だ。
viDoc RTK roverとは、スマホやタブレットなどに取り付けて、RTK-GNSSによる高精度な位置計測を可能にするデバイスだ。ドローン用写真測量ソフトなどを開発・販売するPix4D(日本オフィス:東京都渋谷区)が発売した。
Pix4Dが無料提供しているアプリ「PIX4Dcatch」をLiDAR機能付きのスマホなどにインストールし、viDoc RTK roverを取り付けて、Bluetoothで接続する。こうして点群計測を行えば、そのままセンチメートル精度の公共座標系点群データが取得できる。
「スマホには自動的に公共座標系がついて回るので、地上にマーカーなどを置くといった手間ひまがかかりません。スマホを持ち歩いて計測するだけで、すべて公共座標系の点群データになるのです」と瀧澤氏は説明する。
三栄コンサルタントでは、洪水によって損傷した魚道の構造物や洗掘被害を受けた詳細部分をスマホで計測し、魚道の周辺地形を従来のドローン測量で計測し、両者の点群データを3Dソフトに読み込んだ。
すると、同じ公共座標系なので原点を調整するといった手間なく、両者の点群が自動的にピッタリの位置で重ねることができたのだ。
発注者も現場の損傷状況を一目で把握
魚道の幅は約10m。スマホによる点群計測は、約30分で終わった。計測後は、点群データなどをクラウド上で共有できるオンラインプラットフォーム「PIX4Dcloud」に、スマホから10分もあればアップできる。
事務所に点群データを持ち帰ってから、クラウドにアップするという「ひと手間」がいらないので、発注者や社内の関係者とすぐに点群データを共有し、報告や検討が始められる。
通常点群データの閲覧には、大容量のメモリーや高性能なグラフィックボードを備えたパソコンが必要だが、PIX4Dcloudならごく普通のパソコンやスマホ、タブレットなどのウェブブラウザーでアクセスするだけで、クルクルと点群を回したり、動かしたりしながら手軽に閲覧できるのも、発注者などとの情報共有に便利だ。
「今回、計測した魚道は全断面式魚道と呼ばれるものです。全体的にやや左岸側に傾いており、川の流量が少ないときは左岸に沿って水が流れます。今回の洗掘された部分も左岸側で、魚道のコンクリート部の裏側に空洞ができていたり、魚道脇の護岸浸食を受けたりしていました」と三栄コンサルタント名古屋支店技術部の近藤裕貴氏は説明する。
こうした立体的な洗掘の被害は、これまで写真やイラストによって報告書にまとめて、発注者に報告していた。しかし、被害の空間的なつながりや全体像は、現場に行って確認しないとわからなかった。
「そこで当社が提案し、発注者に3Dの点群データを見てもらいました。すると『現場に行かなくても崩壊の範囲や状況が把握でき、補修方法も検討できる』と好評でした。点群データと写真を重ねて見ることで、水が左岸側を流れていることや、石の形も手に取るようにわかり、さらには距離計測なども行えるからです」(近藤氏)。
設計業務での“手待ちのムダ”を大幅削減
三栄コンサルタント名古屋支社のオフィスには、技術部共用のviDoc RTK roverが置いてあり、現場調査に出掛ける技術者はいつでも持ち出して使えるようになっている。
「ドローンや3Dレーザースキャナーだと、事前の準備が大変ですが、viDoc RTK roverなら気軽に持って出られます。現場で写真を撮るような感覚で扱えるので、点群計測のハードルが下がりました」と瀧澤氏は言う。
これまでの設計業務では、現地調査で行う平面測量や縦断測量の結果が出来上がってくるまで、現場の調査から数カ月間、作業が中断してしまうことがあった。それがviDoc RTK roverがあるおかげで、現地調査のついでに点群を取ってきて、そのデータを使って事前検討や概略設計を始められるようになったのだ。
「その結果、設計や検討の作業にこれまであった測量データを待つ“手待ちのムダ”が大幅に削減されました。小規模な砂防堰堤などの設計では、現場の点群データを使って概略設計を行い、測量結果が届いたときに寸法調整を行って設計が完了できます。その結果、設計を完了するまでがスピーディーになりました」と瀧澤氏は言う。
また、これまでのクラウドは高価で、大容量の点群データをクラウドで保存するのはもったいないという感じもあったが、PIX4Dcloudはその常識も変えた。
viDoc RTK roverでの公共座標系による点群計測と、クラウドによるデータ共有が合体することで、異なる時期、異なる場所で計測した点群データも同じ座標系の中で時系列管理が行えるのも生産性向上に有効だ。
「PIX4Dcloudの全機能を使えるAdvancedというコースを使っていますが、サーバーの容量が無制限なので、すべての点群データをクラウド上にアップし、業務に使っています。土砂崩れなどが発生したとき、被災前の点群データがあれば、被災後の点群とウェブブラウザー上で比較して、どの部分がどれだけ崩壊したのかといった検討もすぐに行えます」と近藤氏はメリットを説明する。
簡単な操作と信頼性、低価格で導入を決定
三栄コンサルタントは2022年にドローンで撮影した写真から3Dモデルを作るソフト「PIX4Dmapper」を導入した。
その後、構造物の細部を簡単に点群計測できるソリューションを探していたところ、Pix4DのウェブサイトでviDoc RTK roverを発見。代理店の株式会社イメージワンを通じてサポートを受けて導入した。
「点群計測する際に地上に標定点を設ける必要がなく、アプリも直感的で特にマニュアルを読まなくても使えるので、誰もが簡単に点群を使って高精度のオルソ画像作成などの業務が行える点を評価しました」と瀧澤氏は説明する。
「他社の製品も検討しましたが、点群処理の計算方式が非公開のためデータ品質の保証ができなかったり、スキャナーの機器や専用ソフトが高価だったりしました。一方、viDoc RTK roverは位置補正用のNtripサービスを含めても、年間90万円程度と低価格なので導入を決めました」(瀧澤氏)。
viDoc RKT roverは、国土交通省の出来形管理要領で定められた精度にも準拠している。また、2023年4月時点で同省の新技術情報提供システム「NETIS」にも申請中だ。
現地調査の効率化、スピード化や、施工管理の生産性向上や省人化を図りたい建設コンサルタントや建設会社は、viDoc RTK roverや関連ソリューションの導入を検討してみてはいかがだろうか。
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Pix4D 株式会社 〒150-0041 東京都渋谷区神南一丁目5番6号H¹O渋谷神南905 WEBサイト https://www.pix4d.com/jp/product/vidoc-rtk-rover/ |