スーパーゼネコン5社をはじめ、建設業界に関係する企業200社以上が結集した「建設RXコンソーシアム」は、競合企業同士が工事現場で働く建設用ロボットやシステムを共同開発するという、世界でも珍しい業界団体だ。既に独自開発のマシンも誕生した。RXコンソでは、世界をリードする「建設ロボット産業」に育てるため、起業家精神あふれる異業種とのコラボレーションを熱烈に求めている。
「技術者にとって、これほどオモロイ活動はない」
「建設会社にとって、人手不足問題は共通の課題です。そのため、工事現場ではこれまでにように多くの人が集まってモノづくりするのが難しくなり、ロボットやIoT(※)などの活用による生産性向上や省人化が求められています」と、建設RXコンソーシアム会長の村上陸太氏(竹中工務店常務執行役員)は語る。
※IoT=モノのインターネット
建設RXコンソーシアム(以下、RXコンソ)は2021年9月に設立され、今では鹿島建設、竹中工務店、清水建設、大林組、大成建設という日本を代表する“スーパーゼネコン5社”すべてが幹事会社となり、建設会社や関連企業200社以上が参加するまでになった。
現在、タワークレーンの遠隔操作や資材の自動搬送、コンクリート系ロボットなどの開発をテーマにした11の分科会やワーキンググループ(WG)に分かれて、普段は競合としてしのぎを削っている企業の技術者同士が、協力してロボットや技術の開発を進めている。
守秘義務に阻まれ、各社が同じ失敗を
RXコンソが開発されたきっかけは、各社バラバラにロボットなどの開発を行っていると、開発費や製作費がかさんだり、操作方法が会社ごとに違ったりと、様々な非効率が生まれるからだ。
「例えば、建設現場用の溶接ロボットの開発では、過去に各社が別々にある溶接機メーカーに開発や実験を依頼し、同じ失敗を繰り返すといったことがありました。メーカーさんも守秘義務があるので他社の失敗について知らせることができない。しかし、もういい加減にしたいということがありました」(村上氏)。
そこで、スーパーゼネコンを中心に行われている技術開発のうち、人手不足対策や省人化、日常業務の効率化など“協調領域”の部分で互いに協力し合おうと、RXコンソが結成されたのだった。
「技術者にとって分科会での開発作業ほど面白いものはありませんよ。社内の仕事のように上下関係を気にせずに自由に思ったことを発言できます。会社によって発想や考えた方が違うので勉強になるし、自社での失敗談も開発に貢献できる。いろいろな業種の人が集まっているので疑問点や問題点も、その場でスピーディーに解決できる。まさに“大人のロボコン”のように、技術者はワクワク活動に取り組んでいます」と村上会長は言う。
以前から各社が開発に取り組んでいたロボットを、RXコンソで改良や実用化を進めている例も多い。
そんな中、2023年7月には、コンクリート版(スラブ)の省力化施工実現を目指す「コンクリート施工効率化分科会」の活動から新たに生まれた「防音カバー付き電動ハンドトロウェル」というマシンも発表された。
コンクリート床を平滑に仕上げるバッテリー式のマシンで、現場の空気を汚さず、騒音も日常会話レベルの60dBという静かさ、そして1.8kW、毎秒3600回転というハイパワーのマシンを、現場ニーズに基づいて開発したのだ。
ネーミングにも現れた技術者のやりがい
風雨や砂ぼこり、そして資材や段差などに満ちた建設現場は、クリーンでスムーズな環境が保証された工場などと違って、ロボットにとって厳しい環境だ。
その中でコンクリートなどを使って巨大な建物を作り上げていくロボットには、「タフさ」と「優しさ」を兼ね備えた性能が求められる。そこには、電機や自動車などの開発にはない、技術屋の現場経験や独創性が求められる。
その一端を感じされるのが、建設ロボットのネーミングセンスだ。例えば、竹中工務店とレンタルのニッケンなどが共同開発した資材輸送ロボは、複数の台車が一列に並んで自動走行するものだが、人に追従して走行する先頭車には「ひもーん」、後続車には「かもーん」と、カルガモの親子のような名前が付けられている。
竹中工務店ではこのほか、ごみ集めをイメージした「TOギャザー」や吸引をイメージした「AXキュイーン」という現場清掃用ロボがあるほか、鹿島建設には「NEWコテキング」といういかにもコテの王様のようなコンクリート仕上げロボがある。
「電機や自動車業界では、こんな、ダジャレのようなネーミングを提案したり、それが会議で通って会社として正式に採用されたりするのは、あまり聞きませんよね。建設業界ならそれが許されるという、のびのびした環境があります。技術者にとって、建設現場用のロボット開発は、オリジナリティーを最大限に発揮しやすい、魅力ある職種なのです」と村上氏は言う。
建設ロボット界の“イーロン・マスク”に期待
RXコンソの登場は、建設現場用ロボットやシステムのヘビーユーザーが一堂に集まったことを意味する。そして、人手不足解消という建設業最大のピンチを乗り切るため、現場で使いやすいロボットを大量生産し、職人や協力会社が手軽に購入できるようにしてくれるメーカーなどの異業種には、協力を惜しまない体制が出来上がったのだ。
「RXコンソは技術者の集まりなので、現場の問題解決は大好きです。しかし、その技術的なノウハウを生かして、本格的なビジネスとして回していくためには、野心のある人が不足しています。そこでRXコンソでは、われわれが提供できる市場や技術開発のリソースに注目し、その力をうまく活用しながら建設ロボットのビジネスを立ち上げ、大きく育ててくれる異業種のパートナーが現れてくれることを期待しています」と村上氏は語る。
つまり、建設ロボット界の“イーロン・マスク”や“テスラ”のような人材や企業の登場に期待しているのだ。世界の中でも少子高齢化による働き手不足が一歩先に進行する日本で培った建設ロボットは、10年後、20年後に世界をリードする新産業になっているかもしれない。
この新たなビジネスチャンスに興味のある企業や経営者、投資家、そして技術者は、ぜひ、RXコンソーシアムの事務局にコンタクトしてほしい。
【日経クロステックNEXT 東京2023出展のお知らせ】
建設RXコンソーシアムは、日経BP主催の展示会イベント「日経クロステックNEXT 東京2023」に出展し、開発した建設ロボットのデモや、会員企業の技術展示を行います。建設ロボットビジネスにご興味のある異業種の方もぜひ、お越しください。 イベント名:日経クロステックNEXT 東京 2023 |
【問い合わせ】 建設RXコンソーシアム事務局 (竹中工務店 技術本部 気付) 〒136-0075 東京都江東区新砂1-1-1 WEBサイト:https://rxconso-com.dw365-ssl.jp/ e-mailアドレス:rxconso01@rxconso.com |