地盤のリスク管理を“経験・勘・度胸”からデータドリブンに変える!「GeoTools」で地盤・地質のBIM/CIM化を実現(応用地質)
2023年6月2日

基礎や造成、トンネルなど地盤や地質を相手にするプロジェクトでは、これまでは経験豊富な技術者の経験・勘・度胸による“KKD”によってリスク管理が行われてきた。これを客観的な「データドリブン」に変えるのが、応用地質の「GeoTools」シリーズだ。限られた地中のデータを最大限に可視化し、プロジェクト中のデータをフィードバックすることで、施工や維持管理のリスク管理をさらに高度化できる。

「GEO-CRE」で作成した地盤のBIM/CIMモデル。データドリブンな設計・施工を実現する

「GEO-CRE」で作成した地盤のBIM/CIMモデル。データドリブンな設計・施工を実現する

 地盤をBIM/CIM化する「GeoTools」シリーズ

トンネル工事などをテーマにした映画では、掘削最前線にいる熟練技術者が「この地鳴りは危ない、逃げろ」と指示した直後に、大規模な崩落や出水が発生し、作業員たちが間一髪、助かるといったシーンを見かけることがある。

トンネルや基礎などの工事では、目の前にある地盤や地質が見通せないため、不十分な情報を手がかりにリスク管理を行わなければならない。それを補ってきたのが、“KKD”だったのだ。

しかし、少子高齢化の時代を迎えて、熟練技術者は年々、引退していく。一方、建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展によって、地盤や地質の世界でもデータによって意思決定を行う「データドリブン」の手法が取り入れられつつある。

「応用地質が開発した『GeoTools』シリーズは、地盤や地質のリスク管理をKKDからデータドリブンに変えることができるツールです」と語るのは、応用地質 技術本部 ジオデザインセンターBIM/CIMグループ部長の西山昭一氏だ。

地形・各種地質調査資料・構造物のオープンデータを用いて、GEO-CREで作成した日本橋周辺の3Dモデルの例

地形・各種地質調査資料・構造物のオープンデータを用いて、GEO-CREで作成した日本橋周辺の3Dモデルの例

GeoToolsシリーズの中核ソフト、「GEO-CRE(ジオクリ)」は、いわば地盤BIM/CIMソフトと言えるものだ。地形や地盤構造を3Dで可視化し、属性情報として地質や物性値、地下水などのデータと一体化したモデルを作成することを目指すソフトだ。

GEO-CREで作られた地盤の3Dデータは、一般のBIM/CIMモデルと同様に様々な使い方ができる。例えば、地盤の強度や挙動などをコンピューターで解析したり、建物や土木構造物のBIM/CIMモデルと一体化して設計やシミュレーションを行ったりできるのだ。

建物や構造物の建設事業プロセスを地盤BIM/CIMで支援するワークフローのイメージ。地盤リスク管理をデータドリブン化できる

建物や構造物の建設事業プロセスを地盤BIM/CIMで支援するワークフローのイメージ。地盤リスク管理をデータドリブン化できる

 地盤の解析にBIM/CIMの手法を活用

地盤BIM/CIMを実現したGeoToolsシリーズは、3次元地質解析システム「GEO-CRE/GEO-CRE PRO」、平野部のモデリングを得意とするBIM/CIM支援3次元地盤モデル構築・管理システム「OCTAS(オクタス) Modeler」、そして山岳地のボーリング調査を支援する地質情報記録/可視化/分析ツール「COREROKU(コアロク)」からなる。

GeoToolsシリーズの構成

GeoToolsシリーズの構成

シリーズの中核となるGEO-CREは、3Dの地形データに、高品質ボーリングデータ(PRO版の機能)や地質踏査データ、物理探査データ、準3次元図面、各種CADデータなどを用いて3次元の地盤BIM/CIMモデルを作成するソフトだ。構造物モデルなどのパラメトリックモデリングも行える。

この地盤BIM/CIMモデルによって、3次元での地盤内部の見える化や、様々な解析やシミュレーションに用いるデータ出力、2次元CAD図面の作成、CGアニメーション作成などが行える。まさに一般のBIM/CIMと同じ手法が、地中の地盤にも使えるのだ。

地下の地盤構造の3Dモデルを、「GEO-CRE」の様々なレンダリング機能によって見える化できる

地下の地盤構造の3Dモデルを、「GEO-CRE」の様々なレンダリング機能によって見える化できる

建物や杭構造物と地盤を一体化したBIM/CIMモデル

建物や杭構造物と地盤を一体化したBIM/CIMモデル

 土質柱状図を地盤BIM/CIMに自動変換

GeoToolsには、様々な地質、地盤データを地形の3Dモデルと統合し、地盤BIM/CIMモデルを効率的に作成するソフトも用意されている。

平野部の軟弱地盤や支持層、地下水などのモデリングに適しているのが、「OCTAS Modeler」だ。

OCTAS Modeler は、3次元による地盤構造の可視化機能とモデリング機能を持っており、地盤の3Dモデルに、地質調査データや地質解釈データ、地質・地盤リスク情報、モデル利活用に関わる属性情報を格納するコンパクトな“地盤BIM/CIM”プラットフォームだ。

OCTAS Modelerにより、数値標高モデルから作成した地形モデル

OCTAS Modelerにより、数値標高モデルから作成した地形モデル

ボーリングデータから作成したN値のボクセルモデル

ボーリングデータから作成したN値のボクセルモデル

地形は国土地理院の数値標高モデルやユーザーが持つ地形データをインポートして作成し、地中の地盤モデルはボーリングデータから地層、土質区分、N値、支持層、地下水モデルを少ない手順で作成する。

さらにGIS(地理情報システム)のデータをインポートして、作成した地盤BIM/CIMモデルを地図と重ねて表示する機能も開発中だ。

こうして地盤BIM/CIMモデルは、様々な地盤データを格納し、最新データにアップデートしながら管理していくことができる。そして必要に応じて地形やGISとひもづけられた地盤データを出力し、後工程で利用できる。

地盤BIM/CIMモデルの土質柱状図をリンクさせて自動作成したボーリングモデル

地盤BIM/CIMモデルの土質柱状図をリンクさせて自動作成したボーリングモデル

OCTAS ModelerとGEO-CRE/GEO-CRE PROは、3次元地質・地盤モデルのトレーサビリティを確保するために、モデル作成に用いた地盤情報の品質やモデルの属性情報等を外部属性として記録する機能を持ち、“地盤BIM/CIM”プラットフォームとして後工程で活用できる

OCTAS Modelerと新VerのGEO-CRE/GEO-CRE PROは、3次元地質・地盤モデルのトレーサビリティを確保するために、モデル作成に用いた地盤情報の品質やモデルの属性情報等を外部属性として記録する機能を持ち、“地盤BIM/CIM”プラットフォームとして後工程で活用できる

一方、COREROKUは、ダムや山岳トンネルの設計・施工などで行われるボーリング調査の岩石コアやボアホール孔壁の情報を記録し、地層の傾きや岩質などのデータを速やかに可視化することにより、地盤デジタルツイン(デジタルの双子)を支援するソフトだ。

ダムや山岳トンネルの設計・施工などで行われるボーリング調査のデータから地盤のデジタルツインを支援するCOREROKU

ダムや山岳トンネルの設計・施工などで行われるボーリング調査のデータから地盤のデジタルツインを支援するCOREROKU

ボアホールの孔壁情報により、地層の向きを解析した例

ボアホールの孔壁情報により、地層の向きを解析した例

 RhinocerosとGrasshopperで自由自在にモデリング

地盤構造は、コンクリートや鉄で作られた一般の建物や構造物とは異なり、水平・垂直な形は一つとしてないといっても過言ではない。一つの現場で様々な地質構造が混在することもある。その3Dモデルを作成するとなると、自由自在なモデリング機能が欠かせない。

GEO-CREの自由なモデリング機能やレンダリング機能などを支えているは、あの有名な3Dモデリングソフト「Rhinoceros(ライノセラス)」だ。

このソフトがGEO-CREの3Dエンジンに使われている理由は、モデリングに「NURBS法」という手法を採用していることだった。NURBSはあらゆる形状のサーフェスモデルを高精度で作成できるため、複雑な地盤の3Dモデリングに最適なのだ。

グリッド法(左)に比べて、Rhinocerosが採用しているNURBS法(右)は自由自在な3Dモデリングが可能だ

グリッド法(左)に比べて、Rhinocerosが採用しているNURBS法(右)は自由自在な3Dモデリングが可能だ(図引用:3次元地質解析技術コンソーシアム:3次元地質解析マニュアルVer3.0,2020)

「若い地質時代の平野部の地層モデリングでは、ボーリングデータの地質境界点を使ったグリッド法もよく使われていますが、古い地質時代の山岳部の地層は、構造変形を受けて急傾斜になったり上下が逆転するなど複雑な構造もあります。その点、NURBS法は地質断面図の地質境界線をスムーズにつないでモデリングするため、こうした地層も問題なくモデリングできます。作成したモデルの修正も楽ですし、作成ルールを守れば誰でも同じモデルを作ることができる再現性があります」と西山氏は説明する。

Rhinocerosと言えば、プログラムで形状などを自動設計するパラメトリックモデリング用のアドインソフト「Grasshopper(グラスホッパー)」が有名だ。もちろんGEO-GREでも、Grasshopperは利用可能で、応用地質では地形の形状から雨水流線の自動解析や、地すべり抑止杭の杭径や配置、杭長を自動計算、地下構造物の沈下の見える化などに利用している。

Grasshopperとの連携で地すべり抑止杭の長さや配置を自動計算した例

Grasshopperとの連携で地すべり抑止杭の長さや配置を自動計算した例

Rhinocerosは幅広い分野で使われているため、世界中に数多くのユーザーがいる。そのため入出力できるデータ形式やプラグインが豊富で、BIM/CIM用の「IFC形式」も使えるため、建設業界で使われている様々なBIM/CIMソフトやCADソフト、点群処理ソフトとスムーズなデータ交換が行える。さらに安価なのも魅力だ。

 応用地質のノウハウをソフト化

地盤に強い建設コンサルタントとして知られる応用地質は、調査・コンサルティング事業とともに地中レーダーや地盤の探査機器などのハードを扱う計測機器事業も展開している。

それらのノウハウを生かして、2002年にはGeoToolsの前身となる、UNIX版の3次元地質解析システムを開発した。この頃から、業務用の3次元データ編集・変換ツールとしてRhinocerosを採用し、さらに急速に普及が進むWindowsPC版のシステム開発と業務適用を進めた。

2014年にはCIMに適用させる新構想の3次元地質解析システムとRhinocerosを統合。そして2016年から現在のGeoToolsシリーズとしてソフトの機能拡張を進めている。

応用地質は調査・コンサルティング事業とともに計測機器事業も展開している

応用地質は調査・コンサルティング事業とともに計測機器事業も展開している

この間、西山氏をはじめとする同社の技術陣は、国土交通省や各種協会、学会の活動に参加し、BIM/CIMや情報化施工、i-Constructionなどの進化とともに歩みながらGeoToolsの開発を続けてきた。

これからのBIM/CIM活用を建設DXへと進化させていくためには、建物や土木構造物だけでなく、地盤と一体化して設計や施工、維持管理を行うことが求められる。GeoToolsの導入で一歩先のBIM/CIM活用に踏み出してみてはいかがだろうか。

GeoToolsの開発と営業を担当する応用地質の技術者たち。右から2番目がBIM/CIMグループの西山昭一部長

GeoToolsの開発と営業を担当する応用地質の技術者たち。右から2番目がBIM/CIMグループの西山昭一部長

【問い合わせ】

応用地質株式会社
情報システム事業部
〒101-0021 東京都千代田区外神田3-14-10秋葉原HFビル5階
TEL 03-3868-0535
OYO GeoToolsサイト https://www.oyogeotools.com/

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