ガス導管工事を担う、日鉄パイプライン&エンジニアリング(本社:東京都品川区)の都市ガス事業部は、工事の報告書や点検表など60種類以上の紙書類を、MetaMoJiの施工管理支援アプリ「eYACHO」でオンラインドキュメント化した。ほとんどの書類を現場にいながら作成・提出し直帰できるため、作業完了後に会社に戻る必要がなくなり、毎日、1時間以上の時短が実現した。eYACHOで建設業の2024年問題解決に挑んだ成果だ。
現場から会社に戻る1時間がそのまま時短に
「以前は作業終了後、現場から会社に戻り、日報などの書類を作成していましたが、eYACHOの導入後は現場にいながら合間の時間を効率よく活用し日報などの書類を作成できるようになったので、毎日、1時間以上早く帰れるようになりました」と、日鉄パイプライン&エンジニアリング(以下、日鉄P&E)都市ガス事業部 幹線・中圧導管工事部部長の岡本晃氏は語る。
同社の主力事業の1つである「エネルギーパイプライン事業」のうち、都市ガスの中圧導管の工事は、首都圏など交通量が多い都市部で行われ、中小規模の工事が多い。工期は数日~数週間と短く、現場が毎日のように移動するため、現場事務所は設けないことがほとんどだ。
そのため、以前は現場での作業が終わると、会社まで戻り、パソコンを立ち上げてその日の日報や、発注者に提出する設計変更依頼書などの書類を作成していた。現場から会社まで戻るだけでも、1時間以上かかっていた。
「しかし、MetaMoJiの施工管理支援アプリ『eYACHO』でこれらの書類のテンプレートを作り、デジタルドキュメント化したところ、タブレット端末のiPadで現場にいながら書類を作成し、オンラインで会社や顧客に提出した後は直帰できるようになったのです。毎日、会社に戻るために費やしていた1時間以上の時間や戻ってから書類を作成する時間が、eYACHOによって時短化されました」(岡本氏)
また、iPadとeYACHOを利用することで、現場の合間時間をうまく活用して効率よく書類の作成ができるので、現場の施工管理に集中できることもメリットの一つとなっている。
eYACHOとは、これまで紙の野帳に手書きで記録していた文字や図表、メモなどをiPadに置き換えられるようにしたものだ。そのため、紙の書類をそのままの様式でデジタル文書化し、入力を効率化できる。さらにiPadの通信機能を生かした「シェアノート」という機能で、デジタル文書をオンラインで瞬時に共有したり、写真や動画、音声のデータを張り付けたりすることもできる。
同社がeYACHOを導入したのは2021年9月だった。当時、岡本氏は埼玉県蕨市にある蕨オフィスに勤務しており、施工管理者の書類作成業務を効率化させることを目的にeYACHOの活用をスタートさせた。その後、岡本氏ら中心ユーザーの転勤に伴って、現在部署の幹線・中圧導管工事部内のみならず、他の事業部プロジェクトや安全・環境・品質管理部などで効率化に向け、eYACHO活用が展開されている。
さらに、業務時間削減を模索していた顧客である京葉ガス(本社:千葉県市川市)に日鉄P&EがeYACHOによる時短への取り組みを紹介した結果、京葉ガスおよび本支管工事協力会社でもeYACHOの導入を行うまでになったのだ。
従来の紙書類をeYACHOのテンプレート化
「クラウド施工管理システムの中でeYACHOを選んだのは、現場が日々、移動して小規模な工事が多く、顧客のガス会社も多岐にわたる中圧導管工事の業務スタイルに合った日報や報告書などの書式を、自由に電子化できることが決め手になりました」と語るのは、日鉄P&E 都市ガス事業部 幹線・中圧導管工事部 首都圏工事室 有明オフィス所長の藤澤征宏氏だ。
eYACHOでは、従来の紙書類のレイアウトそのままに「テンプレート」というひな形データを作り、iPad上で表示・記入できるようにする。
同社で作ったテンプレートは2023年末までで、報告書が51種類、現場での点検表が15種類と60種類以上に上る。さらに顧客である京葉ガスからテンプレートの作成を依頼され、25種類を作成し現在活用している。
「日報のテンプレートなら1時間ほどで作れます。また、現場パトロールの業務に使う『ヒヤリハット』事例の書式は、担当者によく活用してもらっています」と藤澤氏は語る。
例えば、受注済みの工事で各現場に、いつ、どの協力会社を割り当てるかという工程調整用のテンプレートは、シェアノート機能を使って現場での予定変更が関係者にリアルタイムに通知されるほか、席を外していた人にも確実に情報共有できる。そのため、何度もメールや電話のやり取りを繰り返す必要はない。
発注者への設計変更願いも当日中に承認
また、現場で使う点検表には、表計算ソフトのような計算式も内蔵している。例えば、ガス導管の深さや平面配管位置などを、「エルボ」と呼ばれる曲管を使って変えるとき、2つのエルボの間にはさむ切り管の長さをはじき出す計算式だ。
「これまでは管の中心線の間隔やエルボの口径や曲率半径、溶接部の開先寸法などを、管の仕様表などからデータを拾い、関数電卓などで手計算していました。それをeYACHOのテンプレートに移植したところ、必要な情報を入力するだけで瞬時に自動計算できるようになり、作業スピードが上がるとともに、計算ミスもなくなりました」と藤澤氏は言う。
毎日の作業終了後に作成していた日報も、eYACHOでテンプレートを作ったことにより、書類作成の「フロントローディング(業務の前倒し)」が実現した。
「日中の作業で、すき間時間ができたときに、作業員の人数や協力会社名、図面、作業内容などを事前に入力しておきます。作業終了時に出来高だけを入れるようにすると、書類が完成。すぐに帰れます」と日鉄P&E 都市ガス事業部 幹線・中圧導管工事部 東日本工事室マネジャーの天野強志氏は語る。
これまで手間ひまがかかっていた議事録の作成は、録音機能とテキスト変換機能を使って大幅に自動化した。
ガス導管を埋設する道路下に予定外の施設があった場合などに、発注者に対して行う設計変更願いも、eYACHOの導入で大幅なスピードアップが実現した。
「以前は紙の書類で設計変更願いの認証手続きを行っていたため、会社に戻って書類を作り、それを発注者に送って承認を得ていたので延べ3日くらいはかかっていました。その間、現場はストップします。それが、eYACHOを導入した京葉ガスに対する設計変更の場合は、現場から設計変更の書類を送り、当日中に認証が完了するようになり、現場がストップすることはなくなりました」(藤澤氏)
eYACHOの導入と並行して、「BOX」というクラウドアプリも導入し、工事で使う図面はもちろん、発注者の仕様書もiPad上で確認できるようにした。工事関係者同士のコミュニケーションには、ビジネスチャットアプリの「LINE WORKS」を使い、従来のメールや電話に比べて、情報共有や連絡を効率化した。
「年齢層が高い職場では、最初のうちはeYACHOの活用に抵抗もありました。しかし、移動のムダなどが大幅に減り、残業時間の削減に効果があることを説明していくうちにメンバーの意識が変わり、自分たちで業務を変えるという意識も出てきたようです」と天野氏は語った。
eYACHOの導入により、日鉄P&Eでは「移動のムダ」や「手待ちのムダ」、「手戻りのムダ」など様々な非効率を減らすとともに、施工管理業務の省力化による、生産性向上を実現している。
今後は、eYACHOによる施工計画書の作成や、MetaMoJiが提供する安全管理用のAI(人工知能)「安全AI」と過去の安全データベースを連携させたKY(危険予知)活動の高度化なども計画している。
日鉄P&EではeYACHOの導入によって「毎日、1時間以上早く帰る」という目標を実現し、その効果は少しずつ社内に広がりつつある。時間外労働の上限規制が厳格化される「2024年問題」への対応にも、大きな効果を発揮するに違いない。
【問い合わせ】 | |
株式会社 MetaMoJi
〒106-0032 |