熊谷組が国産ERPへの刷新で目指す“攻め”の建設DX戦略! 財務会計には「HUE ACシリーズ」(ワークスアプリケーションズ)
2022年5月17日

熊谷組は、企業経営を支える基幹システムを従来の外資系ERPから、ワークスアプリケーションズの「HUE ACシリーズ」などに切り替えることを決定した。その理由は保守サポートのコスト削減と経営環境の変化へのスピーディーな対応だ。熊谷組が基幹システムの刷新で目指す“攻め”の建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略を、同社経営戦略室 DX推進部長の鴫原功氏に聞いた。

 外資系基幹システムを国産に切り替える

熊谷組 経営戦略室 DX推進部長 鴫原 功 氏

熊谷組
経営戦略室 DX推進部長
鴫原 功 氏

「熊谷組では、2024年に基幹システムを現在の外資系システムから、国産システムに切り替えることを決定しました」と語るのは、熊谷組経営戦略室DX推進部長の鴫原功氏だ。

基幹システム(以下、ERP)とは、企業経営におけるすべてのプロセスにわたって、お金の状態や流れを管理する最重要システムだ。建設業では、営業から見積・入札、そして原価管理や発注、支払、さらには財務、決算までをカバーすることになる。

ERPは建設会社の屋台骨を支えるシステムだけに、その規模は大きく、導入や運用においては絶対的な信頼性が求められる経営判断事項だ。

熊谷組では1997年の経営革新中期計画、高い信頼性を持ち、大手企業で多くの実績を持つ外資系のERP「SAP R/3」を導入した。

「SAPは会計業務用としてはよくできており、信頼性も高いです。しかし、それだけに保守サポート費用も非常に高額です。また、日本の建設業特有の業務やワークフローで使うためには、土木や建築の原価管理システムや工事実績データベースなどのシステムを別途、『アドオンプログラム』として開発し、メンテナンスする必要もありました」と鴫原氏は振り返る。

そして最近の建設業は、生産年齢人口の減少による人手不足への対応やテレワーク化、さらには建設DXへの対応といった新たな課題も浮上している。ERPもこうした環境変化に、スピーディーに対応していく必要があったのだ。

2014年3月現在の熊谷組の業務システム全体図。日本の建設業でSAPを使うためには、様々なシステムを別途、開発・運用し、メンテナンスしていく必要があった

2014年3月現在の熊谷組の業務システム全体図。日本の建設業でSAPを使うためには、様々なシステムを別途、開発・運用し、メンテナンスしていく必要があった

 コスト削減から「2025年の崖」対応へ

ERP更新のきっかけは、コスト削減のため、2015年にサポート業務をベンダーから「第三者保守」業者の日本リミニストリートに切り替えたことに始まる。これにより、ERPの保守サポート費用が50%減になるなどの大きなメリットはあった。

熊谷組は保守業者の撤退リスクやサポート品質リスク、そしてERPがバージョンアップされた際の再切り替えリスクを慎重に検討し、変更を決定した。

その後、2019年3月の経営会議では、前年に経済産業省が公開した「DXレポート」を踏まえて、熊谷組の情報システムを取り巻く課題が報告された。

最も喫緊の課題は、「2025年のSAPの崖」だ。SAPの最新版は「SAP S/4HANA」だが、それ以前のバージョンをいまだに使っている企業は多い。熊谷組も2005年にバージョン「4.7」にアップしたままだ。しかし、バージョンが6未満の保守は、2025年末で打ち切られることになっている。(※1)

(※1)SAP ERP 6.0を含む一部のバージョンは、2027年末までメインストリームメンテナンスを提供すると独SAPがコミットメントを発表しています。

国産ERPへの刷新の流れ

国産ERPへの刷新の流れ

しかし、SAPをバージョンアップする際は、保守サポート業者を再度、SAP社に戻さなくてはならないのだ。

かといって、ERPはおいそれと簡単に乗り換えられるものではない。そしてこれまでの仕事のやり方に慣れた現場サイドからは、大きな抵抗も予想される。この大仕事をいかに実行していけばいいのだろうか。

 日本製「建設WAO」と「HUE AC」に集約

そこで熊谷組が出した結論は、現在のシステムを、チェプロ(本社:東京都新宿区)のERP「建設WAO」と、ワークスアプリケーションズ(本社:東京都千代田区)のクラウド会計システム「HUE」に集約することだった。両システムはいずれも日本のベンダーが開発・販売するクラウドシステムで、日本の建設業に強いのが特長だ。

当時は、「HUE」のSCM(営業管理や原価管理など建設WAOの範囲)が準備中だったこともあり、この2つのソリューションがベストだと考えた。今であれば、1つの仕組みで統合できるソリューションを選んだだろう。

現システムを建設WAOとHUEに置き換えた機能分担イメージ。ERPの管理コストは大幅に低減し、テレワークを利用した入力業務などで働き方改革も実現できる

現システムを建設WAOとHUEに置き換えた機能分担イメージ。ERPの管理コストは大幅に低減し、テレワークを利用した入力業務などで働き方改革も実現できる

建設WAOは、案件発生から工事完成までの業務で発生したデータを一つのデータベースに統合し、経営や管理部門、現場が工事の利益や発注・支払状況をリアルタイムに把握できる。そして工事履歴管理機能で、様々な過去の工事情報を容易に参照できるという強みも持つ。

一方、HUEは会計期間に応じた財務会計や、現場事務所などのリース資産、棚卸し管理などの固定資産管理、そして子会社との連結管理や不動産管理、資金管理などの拡張性を強みとする。こうした細かい管理は、表計算ソフトで別途、行うこともあった。

さらに売上などを部門別や事業者別、工事別、さらには社員別まで「セグメント」で管理できる“財管一致型システム”としての細かい機能も備えている。

建設業に欠かせないHUEの固定資産管理機能。これまで表計算ソフトが管理していた部分もHUEに移行できる

建設業に欠かせないHUEの固定資産管理機能。これまで表計算ソフトが管理していた部分もHUEに移行できる

従来は表計算ソフトで管理していた売上の部門別、プロジェクト別管理も、HUEの中で行える“財管一致システム”としての強みもあった

従来は表計算ソフトで管理していた売上の部門別、プロジェクト別管理も、HUEの中で行える“財管一致システム”としての強みもあった

「建設WAOは、会計システムの部分については他社システムに任せ、連携するという考え方をとっています。そこで数社の会計システムを機能やコスト、ライセンス形態など検討した結果、準大手ゼネコンである熊谷組の業務に最適であると判断しました」(鴫原氏)。

このほか、HUEのオンサイト版である「HUE Classic」を同業他社が以前から導入しており、同社からの実務ニーズに対応できるように改良を積み重ねてきたという実績と安心感も、導入を後押しした。

従来のERPは標準的な機能だけを用意し、各企業に特有な部分は個別にアドオンプログラムを開発して対応する必要があった。その点、HUEはあらゆる業種で使われる多くの機能を標準搭載している。

HUEには幅広い業務に対応できる機能が標準搭載されているので、いつでも新しい機能を導入できる

HUEには幅広い業務に対応できる機能が標準搭載されているので、いつでも新しい機能を導入できる

「これまでは、システムを拡張したいとき、アドオンを開発する必要がありました。その点、HUEは、多くの機能の中から選んで使い始めるだけでよいのです。そのため、ユーザー部門のニーズに対して柔軟な対応ができ、継続的な業務改善が可能になります」と鴫原氏はそのメリットを説明する。

また、法制度が変更されたりしたときも、HUEの開発元であるワークスアプリケーションズが素早くバージョンアップを行うので、これまでのように個別にアドオンプログラムを管理・修正する手間やコストがかからないのも、大きなメリットだ。

 ERPの刷新で「攻め」の建設DXを実現

ユーザー数に関係なく、社内で何人でも使える「コーポレートライセンス」であるのも、HUEの魅力だ。外資系ERPのように、コスト削減のためにユーザー数を制限する必要がないので、現場から入力しても、本社で集中入力してもよい。

これによって“移動のムダ”をなくす業務効率化や、テレワークを推進する働き方改革などを実現しやすくなる。

熊谷組が手がけるプロジェクトでは、3次元で建物や土木構造物を設計、施工管理を行う「BIM/CIM」や3Dデータで道路や河川堤防などを施工する「ICT施工」などのi-Construction関連技術によって建設DXが進みつつある。

それと並行して、経営側ではERPの刷新によるバックオフィスの建設DXも進んでいる。2022年までをStep1として、土木・建築の原価管理システム統一や電子取引の導入による「数値系業務統一」、2024年までをStep2として業務会計と管理会計の連動処理などによる「業務処理統一化」、そして2025年までをStep3として建設基幹業務の「建設DXのAI構造化」を進める計画だ。

ERPの刷新によるバックオフィス面の建設DX化計画

ERPの刷新によるバックオフィス面の建設DX化計画

ERPの刷新について、鴫原氏が引き合いに出すのは、伊勢神宮では、20年に一度、建物を造り替える「式年遷宮」だ。

「式年遷宮では建物を更新する以外に、技術継承と技術者確保も重要な目的です。ERPも20年ごとに新技術を取り入れて刷新することで、そのプロジェクトを通じてシステム部門だけでなく、建設実務を担うユーザー部門の人材育成を行うことができます」と鴫原氏は言う。

こうしたポリシーと地道な計画により、熊谷組のERP刷新による「攻め」の建設DX戦略は着々と進んでいる。

【セミナーのご案内】
熊谷組 経営戦略室 DX推進部長 鴫原 功 氏2022年5月26日(木)10::00~10:45、ワークスアプリケーションズ主催のオンラインセミナー「Works Way 2022」で、熊谷組の鴫原功氏がERP更新プロジェクトの舞台裏について講演します。ご興味のある方は、ぜひ、ご参加ください。
<参加申込は下記サイトで>
https://worksway2022.jp/
【HUEシリーズについてのお問い合わせ】
株式会社ワークスアプリケーションズ
〒102-0083 東京都千代田区麹町2-5-1半蔵門 PREX South 2F
TEL 03-3512-1400, FAX 03-3512-1401
WEBサイト https://www.worksap.co.jp/
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