メジャーや墨つぼを持ち、現場と図面を突き合わせながら建具や仕切り壁などの位置を地道に描いていく墨出し作業。この手間ひまかかる仕事を自動化するロボット「SumiROBO」が登場した。CAD図面を読み込み、スタートボタンを押せば、床面に高精度で墨出しを行ってくれるのだ。誰でも購入やレンタルによって使えるので、現場の省人化や生産性向上がすぐに実現できる。
ロボットを“労働力”にする人手不足戦略
建設業界の人手不足は今後、厳しくなる一方だ。政府の調査によると、15歳~64歳の「生産年齢人口」は1990年代から減少の一途をたどっており、22世紀までその傾向は続くとされている。
これまでのように、現場に多くの人間が集まって、手作業を中心としてものづくりを行う従来の建設方式は、今後、ぜいたく過ぎて継続が難しくなるだろう。
例えば、工事現場の床などに、建具や仕切り壁などの取り付け位置をマーキングしていく「墨出し」と呼ばれる作業は、2人1組でメジャーや墨つぼ、図面を持って一つ一つのマーキングを行っていく労働集約的な作業だった。
そこで注目されているのが、ロボットを“労働力”として活用する方法だ。建設業でロボットというと、これまでは大手建設会社などが自社のために独自開発したものが多かった。
しかし、最近は「買って使えるロボット」も増えている。日立チャネルソリューションズ(本社:東京都品川区)が開発し、千代田測器(本社:東京都台東区)が販売・レンタルを行う墨出しロボット「SumiROBO」もその一つだ。
「SumiROBO」はロボット本体とトプコンの墨出し用測量器「杭ナビ」(LN-100またはLN-150)、タブレットからなり、買ったりレンタルしてきたりすれば、その日からすぐに現場に投入し、人間の代わりに働いてくれるのだ。
千代田測器 執行役員の平原幸男氏は「現場での作業が終わった夜間に、SumiROBOで墨出し作業を任せ、翌朝、すぐにフロアの造作工事を行うことも夢ではなくなりました」と、新たな現場ワークフローを展望する。
CAD図面に従って自動的に墨出し
SumiROBOは、金融業界の現金自動預払機(ATM)などに使われている様々な技術をベースに、高性能のインクジェットプリンター機構を搭載したロボットで、CAD図面に従って床面に1/1スケールで様々な墨を印字していく。
「墨出しは重要な仕事です。ロボットに任せておいて、誤差が大きかったりしたら信用されません。そこで開発スタッフは床の勾配や凹凸も考慮して補正するなど、精度には特に注意を払いました」と、開発元の日立チャネルソリューションズ チャネルビジネス推進センタ 事業化企画・営業部 部長の雨森吉宣氏は説明する。
ロボットの位置を制御するのは、墨出し用測量器「杭ナビ」だ。この測量器は自動追尾式なので1人で使うことができ、現場での作業時に工具のような感覚で手軽に使える簡便さが高く評価されている。
タブレットの画面で、墨出し開始のボタンを押せば、SumiROBOがフロアなどを自律走行しながら、安全かつスピーディーに墨出しを行っていく。
墨出し用測量器「杭ナビ」(奥)から位置情報を取得しながら、高精度
墨出しの前には、図面上の位置と現場とを一致させる「キャリブレーション」という作業が必要だ。ここにも、自動追尾式トータルステーションの手軽さが、そのまま生かされている。任意の場所に杭ナビを置いて、通り芯上の2カ所にプリズムを順次、置いて、杭ナビに位置を読み取らせるだけだ。
ピタリと二重描きする驚異の高精度
では、SumiROBOの墨出し精度はいったい、どれくらいなのだろうか。2022年3月、東京・板橋のトプコン本社にある建築施工ソリューションセンター「BuildTech」で、SumiROBOのデモンストレーションを行った。
コンクリート床を汚さないように、墨出し位置には紙が張ってある。タブレットから指示を出すと、SumiROBOが動き出した。音は比較的、静かだ。
まず、2カ所の墨出しを行った。その一つの点について精度を検証するため、通り芯からの距離を測定したところ、ミリ単位でピッタリと合っていたのだ。
一度、墨出しした後、SumiROBOをもとの位置に戻した。そして再度、同じデータを使って墨出しを行ってみた。1回目に墨出しした紙はそのままだ。
つまり、1回目に続き、2回目の墨出しを「重ね描き」してみたのだ。その結果、驚くべきことに、十字線や文字がピッタリ重なり、ずれは全くと言っていいほど見られなかった。
人間の目や手による墨出しだと、視点が斜めになったり、手ぶれが起こったりして、どうしてもバラツキが出てしまう。しかし、二重描きの線がこれだけぴったり重なるほどなら、人間よりも正確な墨出しと言ってもよいだろう。
多くのセンサーによる安全機能
日立チャネルソリューションズ 事業化企画・営業部 部長代理の横田彰志氏は「安全に作業が行えるように、SumiROBOには数々のセンサーや非常停止ボタンなどの安全装置を備えています。墨出しする範囲はタブレット上で指定でき、万一、開口部や階段があった場合もセンサーが作動して転落を防ぎます」と説明する。
この動画内で説明している印字位置精度や重量は実機試行時のものです。 最新の仕様は、機器概略仕様にてご確認ください
気になるSumiROBOのお値段だが、買い取りの場合は720万円(税別)、レンタルの場合は1カ月30万円程度(同)という。人手不足対策として、墨出し作業を人間の代わりにロボットに任せられることを考えると、リーズナブルな価格と言えるかもしれない。
機器概略仕様
項目 | 仕様 | 備考 |
サイズ | 約 全長720×幅550×高さ413mm | ロボット本体のサイズ |
重量 | 約31㎏ | バッテリー約5kgを含む |
走行性能 | ・走行速度:約360mm/秒 ・登坂走行:最大7° |
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安全機能 | 障害物回避、落下防止、衝突時緊急停止 緊急停止ボタン、行動範囲指定 |
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印字サイズ | 120mm×120mm | 墨出し1点あたりの印字範囲です 墨出し印字の有効範囲はφ120mmです |
墨出し精度 | 約±3.6㎜ | 印字誤差±0.6㎜を含む |
対応測量機 | トプコン製レイアウトナビゲーター LN-100、LN-150 | お客さまにて準備をお願いします |
※上記仕様は現時点のものであり、製品の改良により予告なく記載されている仕様が変更になることがあります。
【問い合わせ】 | |
(製品について) 日立チャネルソリューションズ株式会社 〒141-8576 東京都品川区大崎1-6-3 大崎ニューシティ3号館7F TEL 03-5719-6720 WEBサイト https://www.hitachi-ch.co.jp/ (販売レンタルについて) |