測量機器の販売・リースを手がける千代田測器(本社:東京都台東区)は、新たなメンテナンスや技術開発の拠点「CHIYODA Tech Field」をさいたま市緑区に建設した。その設計・施工にはBIMやMRから、点群データ、墨出しロボット、そしてICT建機まで、最先端の建設DXソリューションをフルに導入し、同社は各種システムの現場活用ノウハウを蓄積した。
普通のビルを最先端DXで建設
千代田測器は2022年6月、さいたま市緑区に新たなメンテナンス、技術開発拠点として「CHIYODA Tech Field」(以下、Tech Field)をオープンした。
鉄骨造2階建て、床面積735m2の建物の1階には、ユーザーから送られてきた3Dレーザースキャナーやトータルステーションなどの測量機器を校正・修理する検査場を設けた。トプコン・ソキアやニコン・トリンブル、ライカジオシステムズなど主要な測量機器をメーカー仕様で整備できる。
「2階にはセミナールームを設け、ユーザーへの研修が行えるようにしました。屋上に出て、人工衛星からの電波で測位するGNSS測量機器の実習も行えます。安心して測量機器を使ってもらえるための整備から活用ノウハウの教育、そして新たな製品開発という3つの機能をTech Fieldは担っています」と、千代田測器 代表取締役社長の平野啓太郎氏は施設建設の狙いを説明する。
Tech Fieldは外観こそ普通のビルだが、設計・施工には最新の建設DXシステム(デジタル・トランスフォーメーション)が使われた。
例えば、ビルのデザインや施工シミュレーションにはBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、現地での確認にはHoloLens 2などのMR(複合現実)システム、そして施工には3Dレーザースキャナーや墨出しロボット、ICT建機などを導入したのだ。
いったい、Tech Fieldはどのように設計・施工されたのか。その過程を振り返ってみよう。
室内活用をBIMでフロントローディング
Tech Fieldの設計・施工には、BIMソフト「Revit」を一貫活用した。外観の意匠デザインはもちろんのこと、BIMの強みは室内スペースを立体的に有効活用することに発揮された。
「Tech Fieldの1階では、3Dレーザースキャナーの検査も行うため、階高が最大4m以上もあります。BIMによって執務室の上空に視通(しつう)という見渡せるスペースを確保し、トータルステーションなどの調整用に有効活用しています」と千代田測器
執行役員の平原幸男氏は説明する。
測量機器の調整に使う治具(じぐ)などは剛性が高い重量機器だ。そのため、一度、据え付けると移動が難しい。BIMによって調整作業のスペースや治具の位置関係を事前にシミュレーションしておくことで、作業効率の高い調整室が実現できた。
このほか、2階のセミナールームでは、テーブルやイス、プロジェクターなどの配置をBIMでシミュレーションし、最適な空調、照明、コンセントの位置決めを行った。まさに室内空間活用のフロントローディング(問題の事前解決)だ。
設計が固まると、RevitのBIMモデルをMR(複合現実)デバイス「SiteVision」用に変換して、敷地上で完成イメージや建物の規模感を確認した。
SiteVisionにはGNSS(全球測位衛星システム)受信器やアンテナが付いており、Android版スマートフォンと組み合わせて、BIMモデルと現場の風景を同じ視角、スケールで重ねて見ることができる。
MR用のデータ変換には3Dデザインソフト「Trimble SketchUp」と地理空間総合オフィスソフトウェア「Trimble Business Center(TBC)」も使った。
デジタルツインで現場情報を共有
施工段階で千代田測器が発注者としてこだわったのは、現場を3Dモデルや映像で”見える化”し、設計・施工会社である大和リース(本社:大阪市中央区)とリアルタイムに共有し、コミュニケーションを図ることだった。
そこで使用したのが、千代田測器が開発したクラウド計測管理システム「DXsite」と、様々な3Dデータをクラウド上で統合・共有できるコルク(本社:東京都豊島区)の「KOLC+」だ。
DXsiteとは、ネットワークカメラや気象、加速度、測量機器などの様々な「センサー」データを、インターネット経由でリアルタイムに共有できるシステムだ。一方、「KOLC+」はBIM/CIMモデルや点群など3Dデータをクラウド上で共有・編集・進捗管理を行うのに優れている。
この両者を連携させることにより、現場をリアルタイムに「デジタルツイン」(デジタルの双子)化してクラウド上で共有し、現場に行かなくても現場の施工状況がわかる体制を作ったのだ。
床工事では3Dレーザースキャナー「Trimble SX10」による点群計測を行い、変位や設計との差分、平たん性をヒートマップで表示し、クラウドで共有した。
墨出しロボ「SumiROBO」で自動墨出し
現場での施工時には、今後の人手不足解消をにらんで、ロボットによる墨出しや、ICT建機による基礎掘削を行った。
建物1階部分の墨出しに使用したロボット「SumiROBO」は日立チャネルソリューションズ(本社:東京都品川区)製で、2022年から千代田測器(本社:東京都台東区)が販売・レンタルを開始したものだ。
床に墨出しを行うためのCAD図面をこのロボットに入力し、トプコンの自動追尾式測量機「杭ナビ」(LN-150)で位置を制御することで、ミリ単位の高精度な墨出しを1人で行うことができる。
「合計52カ所ある墨出し点のうち、36点をSumiROBOで行い、残りは手動で行いました。現場をあらかじめ清掃する手間や、障害物による緊急停止など、現場ならではの課題も体験したので、今後の改良に生かしたいと思います」と平原氏は振り返る。
その後、職人による墨出しの精度確認を行った結果、SumiROBOの精度の高さをあらためて確認することができた。
「杭ナビショベル」や「Spot」による点群計測も
また、基礎工事には国土交通省のi-Construction対象工事でも使われている、ICTバックホーの簡易版「杭ナビショベル」を使用した。
建機本体には、チルトセンサーやプリズムなど簡易な機器を搭載し、「杭ナビ」をマシンガイダンスセンサーとして活用することで、安く手軽にICT土工が行えるシステムだ。
土木に比べて建築の基礎工事は土工量が小さい。しかし、この現場で初めてICT土工を行った作業員からは「画面も直感的でわかりやすく、誘導員や丁張りなしで安全に施工できた」という感想があり、そのメリットは建築も土木も同じであることが確認された。
工事が完成に近づいた2022年5月9日、現場では自律四足歩行ロボット「Spot」に3Dレーザースキャナー「Trimble X7」搭載して、点群計測の試行も行った。
今後、人手不足に見舞われる現場での施工管理を自動化することを視野に行ったものだ。
Spotの操作はリモコンによる遠隔操作で行い、現場における階段の昇降やロボットの旋回などを試した。また、工事完成後の6月20日と21日の両日、X7では計12時間をかけて105回もの点群計測を行い、建物の出来形を点群で完全記録した。
「買って使える建設DX」を実践
Tech Fieldの建設は、最新建設DXソリューションの実証の場と言っても過言ではない。
これまで建設DXというと、大手ゼネコンなどが自社開発のシステムや機器を使って、大規模な現場で行うものというイメージがあった。そのため、中小の建設会社にとって、縁遠い話であったことも事実だ。
「そこで、ごく普通のビル建設でも “買って使える”ハードやソフトで建設DXを実現できることを、自社施設の建設で実証したいと考えました」と平原氏は語る。
千代田測器の強みは、測量機器の販売やレンタル、アフターサービスだけでなく、高度な技術が必要な現場での測量業務の遂行や、現場ニーズに合った新製品の開発、そしてユーザーの育成まで広がる。
そしてこれまでの土木プロジェクトの豊富な経験から、グローバル座標系や国土交通省が推進する「i-Construction」でのICT土工などのノウハウも蓄積している。
今回のCHIYADA Tech Fieldの建設は、土木のノウハウを建築に持ち込み、各システムをユーザー目線で検証するという点でも有意義だった。その経験は、同社の強みをさらに伸ばすことになりそうだ。
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